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春のたべもの短歌会歌評:寿司村のいただきます選 2023.5.2


※大賞の川合さん、連作大賞の早月さんへの歌評についてはぽぷじぇるさんのnoteを参照してください。


https://twitter.com/popcorngel/status/1652633236961628161?t=bSA-9xE8FuDcXXxEK01QhA&s=19

それでは、1首評9本と連作評1本です。


小松百合華さん
桃井御酒さん
マミヤミレイさん
茅野さん
ぴより子さん
藤本くまさん
まゆだまさん
金森人浩さん
結城紫央さん
歌眠さん
※掲載順です


二本入りホワイトアスパラみたいだねまっすぐねむる小三の脚/小松百合華

直喩が爽やかな景と合っていると思いました。
なんとなく男児に取りましたが、ギリギリの生々しさ、の解釈もよいと思います。春の生命力を子に見る目と、食を担う親としての目とがオーバーラップして生き生きと描かれています。好きな歌です。



タラの芽が衣に透かす春色はふわりと苦く熱い天ぷら/桃井御酒

他ではっきりと人物が出てくる歌は多かったですが、この歌は天ぷらにフォーカスしています。
真ん中の春色は、の助詞「は」が柔らかいイメージを伝える効果なのでしょうか。いかにも美味しそうな描写を、繊細ながら1本芯の通った質実剛健な作風が支えています。



いかなごを5キロ煮ていて汗だくの母の横顔。あ、春なんだな/マミヤミレイ

しらすのような小さな魚を生姜、山椒の実とともに甘辛く炊く、いかなごの釘煮というものがあるらしいですが私はまだ食べたことがないんです。どんな味がするのでしょう。
ちなみに5kg作ると材料費は2万円軽く超えます。毎年親戚に配る真面目で律儀な母を見つめる子の視線が優しいですね。神戸にはいかなご用のレターパックがあるそうでそれで送るのでしょうか。
お題へ「いかなご」で返したのはこの歌だけで、希少性も歌評を書きたかった点でした。



筍を抱えた父の作業着のままで澄ました顔にさえ春/茅野

丁寧な歌だと印象に残りました。大切に抱えた父が掘りたてを主体に届けに来たのでしょうか。
父もそんな自分の気の急いたのを自覚(それはそのまま主体への愛情でしょう)して玄関で澄ました顔をしたのかもしれません。花や雲や風だけでなく父の顔にさえ春、という表現が新鮮で素敵な歌です。



校門でキットカットをくれた朝キットカットは春の季語だよ/ぴより子

季語で言えば受験の冬ではないかな……とも思うんですが清々しいまでの言い切りに完敗です。ただ、選考会で3人共の高い評価を集めながら、やはり冠のお題に対する大賞作品がキットカットでは弱いかも……と惜しくも逃した経緯もあります。歌自体の魅力は大変高いことは間違いないです。

(追記)同じ作者の「母さんが春ごはんって呼んでいたものをくしゃがらみたく探した」、これも「春のたべもの」のお題の盲点を突いたユニークな歌でした。ユニークとは、面白い、に加えてuni-que、つまり「uni=見たことのなさ」としてのユニークの意味を含んだ私の感嘆です。



198円で買った苺でも嬉しくて隠し気味に乗るエレベーター/藤本くま

おいしいものを安く買えたら嬉しいですよね〜これにつきます。
19/8円で買った/苺でも/嬉しくて隠し気味に/乗るエレベーター
の6.8.5.11.8か、
198円で/買った苺でも/嬉しくて/隠し気味に/乗るエレベーター
の11.8.5.6.8 になる破調ですが、嬉しさが隠していても滲みでる感じがしてこの歌にマッチしているように感じました。
隠し気味、のシチュエーションは正確には読み取れなかったですが、袋に入れないまま持つ苺の赤は目立つから隠したかったのかもしれません。



生わかめ色褪せぬよう直前にうしお泳がせ清明の緑/まゆだま

緑にりょく、とルビがありこれは生命力とかけているのかしらん……と思いました。
褐色からの鮮やかなグリーンへの色彩の変化、の湯中での数秒間を切り取りとった、鍋とワカメと菜箸しか映らないアップの構図ですが、これはまさに春の色だよなぁと伝わります。主題を初句に入れ、次に「うしお泳がせ」と来て最後に清明の緑、と結論を置く。うしおに(で)、とせず助詞を省略したことも歌風に合っているのでは。これからサラダとか和え物を作るのでしょうかね。



シャリにではなく身につけるから少し海の記憶が戻ったマグロ/金森人浩

私の筆名……???姿煮さんとぽぷじぇるさんの筆名読み込みの歌もありました。むしろそのあざといマインド、1周回ってかわいいじゃん、ってことで評を書きます。
とはいえマグロは1年中でまわっていますし、俳句の春の季語でもないです。進学や就職で春に家を出る家族を祝うため、お寿司を皆で食べているそんな3月のハレの日が浮かびますね。擬人化が面白いです。



筍は掘り起こされる絶対に貴方の前で泣いてやらない/結城紫央

絶対に掘り起こされる、か絶対に泣いてやらない、では後者の2句切れだろうと予測しました。
筍=作中主体=女性(貴方、から性別は確定できるでしょう)の投影でしょうか。掘り起こされる、には何か力の匂いがします。それが被害なのか、はたまたよい意味なのかはわかりませんが、春のたべもの、というお題に沿い後者で考えたいです。
貴方の力強さによっても春の私のこころは簡単には懐きませんよ(筍って丸ごと買っても剥がしまくって可食部は超少ないですよね)、でも私の奥の柔らかな内心はやぶさかではないです、的な女性心理かと想像しました。





菜の花は茹でても茹でても苦いまま水面に揺れるふるさとの春
枇杷の実は人肉の味と先生が でも出典は見つからなくて
つちは芽に 芽はぶたたちに ぶたは僕に 僕はあなたに 春のたべもの
連作『春のゆきさき』/歌眠

1首目、都会のキッチンでしょうか。鍋にフォーカスしその水(湯)面に揺れているもの。菜の花畑を広く風が滑るイメージが浮かびます。
もしくは菜の花畑ではなく田植え前の水田、を指しているのかもしれません(温暖化で田植えを4月に済ます地域もあるでしょう)。
2首目。[🔍枇杷 人肉]でググってみましたが出てきません。こんな学生時代を懐古する主体への不思議さが湧きますが、主体が作った「ない記憶」なのかも。思うに枇杷は「いのち」って感じがします、手のひらに載せたあの大きさでのフォルムとか色、産毛で。そこに何かヒントがあるのか。
最後は食物連鎖的なやつでしょうか。つち、ぶたの平仮名、1字開け、も解釈は難しかった。
つち、は幼いころの地元の土地。ぶた、は肉というより子豚から育て上げたものを消費されるイメージでそれはそのまま「僕」でもある。
1首目、料理は男もするものですけど、「僕」と書きつつ主体は最初から3首目までそんな1人称を使う女性なのかもしれません。地元/都会、子供/成人、そして去ってしまう春。タイトル中のゆきさき、がわからないまま不穏な足跡を残した連作でした。




以上になります。評の長短と歌の評価とで関係はないこと、歌は作者と紐付けのない状態で選び終えていたこと、をご了承お願いします。



お読みくださりありがとうございました。
ぽぷじぇるさんの今週末のnoteの後に、私の個人的な振り返りの雑感もこちらに載せますので宜しければご覧ください。


元々はこのnoteは自作短歌由来の小説を書いていて、その短歌込みの小説は曽良×芭蕉の奥の……細道とか中学茶道部のおねショタものだったんですが(読者は奈瑠太さんだけ)、それらを今は非公開へと戻してあります。
この評と次回の雑感原稿1本を読んだあとは、なるべく速やかにこのアカウントを記憶から消していただけると、たいへんありがたいです🙏フォロー非推奨🙏

※ヘッダー画像は選考会の2日間ともに途中で電波死んでしばらく強制離席になったときのやつです……どうして……



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