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仕事

「仕事があるから休めない」とはよく聞く。でも、風邪引いたら休むわけで「絶対に」休めないわけではない。逆に言えば、その程度のことしかやっていないということじゃないか。仕事をしている、仕事しなきゃ。仕事仕事仕事って、自分が家で一日寝っころがっていた場合とマジメに「仕事」をした場合、世の中にどれだけ影響があるっていうのだろう。

じゃぁ、仕事ってなんなのか。ちからかけるきょり、ってそういうことではない。

ちなみに、私の今の仕事は「飛行機を飛ばすことを教えるインストラクター」なんだけど、この仕事を長くやっていると、自分が「飛行機を飛ばすこと」を知らない人から見ると割とすごいことをやっているんだ、ということをとかくに忘れがちになる。まぁ、カギ括弧内をご自身の専門に当てはめれば、皆同じだと思う。

例えば、飛行機に主翼、尾翼がついてて、前に進むことで主翼が揚力を作って、それが重さに打ち勝ったときに機体浮くんだけどそのままだと揚力と重力がはたらく点が違う為にくるっと回転してしまう。だからその回転を止めるために尾翼というものを後につけてまっすぐにしているんですよ、みたいなことはもう当たり前すぎて、そんなことを知っているからって、私はプロフェッショナルインストラクターですなんて言えたもんじゃないと思っていた。もっともっともっとすごいことがすごい水準で出来ないと、プロとは言えない。それができない俺は、だから、インストラクターやパイロットなんて向いてない、なんて思うことがよくある。でも、この動画をみてちょっと気持ちが変わった。

『ナチュラルホースマンシップ』持田氏のウエスタンホースショー

多分、このショーの内容は、「この方にとっては」ごく当たり前で、たいしたこと無いことを言っているんだろうなと思うけど、馬のことを知らない人から見たらこの人がやっていることはまさにプロフェッショナルだ。へー、馬ってそんななのね!と感動が随所にある。ってことは、この方は仕事をしているということになる。どうしてそう思ったのか。

私の仕事は、人にものを教えることだ。人にものを教えるとき、その巧拙が出るのは、全く予備知識のない、しかも勉強してくる気もないような全くの素人に「期待感」を持たせるような表現ができることだと思う。

基本的に、誰かの話や報告を聞いたりする時、私たちは話手にリーダーシップを要求する。この話を聞くことで、どこか新しい地点に連れてってもらいたい、と考えるわけだ。それは新しい知識かもしれないし、既存の知識達の関連制かもしれないけれど、その時、聞き手が「ん?さっきまでこの話をしていたけど全然違うことを言い出したぞ、今何の話をしているんだ?」とか、「はいはい、それはつまり要約するとこういうことね」などと「聞くだけ」の作業以外のことをやらせて「観客」としての立場を放棄させてしまったら、話手の負け。人は、時間を使って面倒な話を聞きたくないものだ。

ということは、話す内容自体の複雑さや難解さというのは、実は「仕事」としての評価にはあまり関係ないのかもしれない。難しいことをたくさん知っているということよりも、話を聞いている人が、全身をこちらに預けてもいいという安心感を持っているかどうかということが、話手、私の場合はインストラクターとしての「プロフェッショナルさ」の評価になるのではではないだろうか。

インストラクターだからといって、難しいことをたくさん知っている必要はないのだ。それは、趣味やこだわりの領域。仕事として大事なのは、ごく簡単なことを説明しているとき、そのインストラクションを聞いている人が安心してこちらに身を預けられているかが、インストラクションの質なのだ。でもそのためには、インストラクターが説明する対象を完全に理解していて、どんな切り口からでもそれを表現することができなければならない。そういう説明をするとき、聞き手はある事象を違う角度から捉えることで理解が深まったり、内在化して自分で説明できるようになったりする。

どのみち大変なことなのだが、内容は「ごく簡単なこと」でもいい。というか、簡単なことを一つ一つ自分のものにすることでしか、物事の完全な「理解」というものはなし得ないだろうから、「ごく簡単なことを自信満々に説明する」という行為しか、プロフェッショナルインストラクターとしての仕事は成立し得ないんだろう。

だから、インストラクターとして当たり前のこと「そんなの常識だろう」的な説明を毎日毎日繰り返しているとしても、それを100%の自信をもって、それに対する質問ならどんな角度からのものでも自信満々に答えることができるなら、その説明を聞いた学生は「この人プロフェッショナルだな」と思うはずだ。

すごいことをやろうとしなくていい。ごくごく簡単なことを、しかし、聞いた人が一発で自分のものにできるような、そんなインストラクションを目指せばいい。

たくさんの方々からサポートをいただいています、この場を借りて、御礼申し上げます!いただいたサポートは、今まではコーヒー代になっていましたが、今後はオムツ代として使わせていただきます。息子のケツのサラサラ感維持にご協力をいただければ光栄です。