ラヴィットの正体

TBSテレビの朝番組『ラヴィット』。

「お笑い番組」と言われることが増え、お笑い好きから支持されているように思われがちだが、M-1ファイナリストとしてゲスト出演したウエストランド井口さんが「うるさい」と言われ炎上したのは記憶に新しい。

『ラヴィット』とは何なのか、これまでを振り返りながら考えてみた。


初期に感じたこと

2021年3月にスタートした『ラヴィット』。
私自身、元々バラエティー番組や麒麟の川島さんが好きで、新しい試みの番組ということもあったので、最初の2週間は録画をしてみて、帰宅後に見ようと思っていました。
(どんな感じかチェックしておきたいだけで本当は1週間でいいやと思ったが、隔週出演のメンバーがいるため)

そして視聴し、感じたことは
・ヒルナンデスを朝にやってるだけ感が強い。
・ラヴィットランキングのコーナーがまんまジョブチューン。毎日やってるとネタ切れしそう。
・宮下草薙に、ファッション企画メインの火曜日は合ってない。 

実際ネット上でも、同じような感想が多数見られました。「視聴率大爆死」という見出しの記事もありました。

最近のテレビ番組の企画は、既存のもの同士の掛け合わせを新しく面白いように見せるのが主流だと思っているので、私自身「別番組に似ていても面白ければ」というタイプなのですが、それを踏まえたうえでイマイチ。

当時は今よりも情報を詰め込みすぎてる感が否めない作りのVTRが続き、スタジオメンバーは合間の「7秒でお答えください!」のときにちょっと喋る程度。オープニングも数分程度で、イマイチなところを早送りしていたら(体感ではなく実際の視聴時間として)あっという間という感じでした。番組の最後には曜日対抗のクイズ企画もありましたが、既視感のある値段当て系の内容で、「ここでしか見られないものが見られる」という感じがない。(その後、クイズ企画はすぐに終了)

また、アイドルを出演させてそのファンの人に見てもらい、Twitterのトレンド上位にして盛り上げようという流れが強かったように感じます。しかしこの手法でトレンド入りしたとしても、ファンが多い特定のアイドルが出ている回の一時的なもので、番組のリピーター獲得にはなりません。(今これをやってしまっているのがくりぃむナンタラ)

川島さんのスタンス

私は本来なら、このような番組であれば迷走を続けて、テコ入れとかでそのうちワイドショーになりそうだなぁ。とか思ってしまうのですが、いち視聴者として、川島さんのスタンスを信頼していました。

ラヴィットが始まるよりも前に、川島さんがラジオ番組『佐久間宣行のオールナイトニッポンゼロ』にゲスト出演したことがあったのですが、ハガキ職人が川島さんを使った番組の企画案を送ってくるというコーナーの中で、川島さんが「フジテレビのワイドショー番組のコメンテーターをやっていた時期があったが自分に合っていないと感じ降りた」という話をしていたのです。

私はこの放送を聴いていたので、「ラヴィットは絶対にブレてワイドショー化するなんてことはない」と確信していました。 
(気になる方はSpotifyで無料で聴けるはずなので是非)

後にこのスタンスを番組スタッフ側と共有して強いものにしていったことで、番組が良くなったのだと思います。

また、私は以前に川島さんが木曜の朝8時からやっていた『すっぴん!』というラジオ番組(NHKラジオ第一)をよく聴いていたので、番組に馴染みさえすれば、川島さんが朝8時にうまくやっている姿は容易に想像できました。

ちなみに川島さんは、その番組の中で8時半頃に『日本一早い大喜利コーナー』というネタコーナーをやっていました。
(一回だけ川島さんにネタメールを選んでもらえたのは良い思い出)

春日さんが色をつけた

そんな中、2021年5月頃から、オードリー春日さんが出演し始めます。

春日さんは『スクール革命』やテレビ東京の番組などアイドルとの共演が多くて関係性も強く、そういったファン層からも信頼があって受け入れられやすい。また、お笑いファンからも大人気。
そして、春日さんといえば類似番組とされていた『ヒルナンデス』に、長年水曜レギュラーとして出演しています。春日さんという“同じサンプル”が出たことで、ヒルナンデスとはまた違う大喜利要素などが際立ったと思います。

そして、最初は「ちょっと番宣で来ただけ」というスタンスだった春日さんですが、番組側にハマって何度も呼ばれるようになり、川島さんが「ラヴィットのスタッフが、春日さんに(番宣という名目で)出てもらうために、春日さんが出演する番組を探している」と発言。
(その日の放送回にちょっと出ているだけなのに強引に)『水曜日のダウンタウン』の告知などでも出演するようになり、夏には「全曜日出演」を達成して「2週目」に突入しました。

このタイミングで「春日さんが全曜日出演達成できるか?」という行方が気になって他の曜日もチェックしようとなった視聴者も多いはずです。

「ラヴィット=春日」という、番組のカラーにもなった気がします。

千鳥が残したもの

現在のラヴィットの最大の特徴といえば、オープニングの長さです。2023年1月4日の放送では、“全編がオープニング”という内容になりました。
また、スタジオでクイズが展開される際に芸人を中心に大喜利のようになり盛り上がったりもします。

この大きなきっかけは、2021年5月17日の千鳥ゲスト回にあるように思います。
当時月曜日のゴールデンタイムに放送されていたMCを務める番組『クイズTHE違和感』の告知で登場。番組冒頭でスタジオメンバーの小宮璃央さんが好きな千鳥の番組として(思いっきり他系列だが)『相席食堂』を挙げ、千鳥がその流れでなのかキッチングッズに関するクイズの中で(相席食堂絡みの)赤影参上ネタを披露、またワイプでは大悟さんが「やりすぎ都市伝説のときの的場浩司」を披露するなど、朝番組とは思えない内容でスタジオが盛り上がりました。
この回でラヴィットを初めて見たというお笑いファンも多かったと思います。

徐々にオープニングが長い構成になり、2021年9月には番組後半の占いの答え合わせをする企画を廃止して更に時間を割くように。

クイズが大喜利化するのは、前述の『クイズTHE違和感』や『クイズタレント名鑑』といった、芸人の出演者が多いお手付き無しの早押し系クイズや、自由度が高いクイズ企画ではよくあることで、そこまで驚くことではないのですが、千鳥回や川島さんの作る答えやすい空気、万が一スベってもフォローしてくれるという安心感が拍車をかけたのでしょう。

“笑い”に重きを

VTRに関しては、ニューヨークが初期の頃「10分2品グルメ」という料理企画をやっていたのですが、その中で「笑いメインの編集が良い」という流れになっていったと思います。

この企画が変化点であることは、プロデューサーの辻氏もインタビューで語っていますが、視聴者の私としても流れとして感じたところがあり、当時うろ覚えですが、「ニューヨークの未公開トークの部分をツイッターで配信する」とアナウンスしていた記憶があります。スタッフが「せっかくの笑える部分をカットして終わりではもったいない」と思い始めたのでしょう。

VTRの笑いが増え、ランキングの間に芸人の笑いたっぷりのロケなどが挟まるようになったことで、「ジョブチューンのコピー企画」感が薄まりました。

視聴者プレゼント企画の成功

“笑いがメインに”“大喜利化”という部分で言えば、視聴者プレゼントのキーワード発表にも触れなければなりません。

視聴者プレゼントのキーワードをスタジオのメンバー(主に芸人)が発表し、そのハッシュタグがたびたびツイッターのトレンドワードになります。

変なワードであることも多く、これが番組の自由度の高さを外への広げる役割を果たしたと思うのですが、私は、別の視点でも思うことがあります。

番組初期はSNS上で番組へのネガティブな反応が目立ちましたが、懸賞に応募する人は当選したいからと褒めようとする。褒められることにより、番組側のモチベーションアップにつながり、番組の長所も明確になる。“朝のバラエティー”という新しい試みをする中でプラスになった部分は大きいと思います。

“水ダウ企画”のタイミング

ラヴィットで大きな話題になった企画のひとつに『水曜日のダウンタウン』とのコラボ企画が挙げられますが、私が注目するのはそのタイミングです。

2021年の10月で、番組の方向性が定まり完成形に近づいているものの面白さが広まりきっていない状況。また、クイズにおける大喜利要素は、『水ダウ』の藤井健太郎氏が手掛けていた前述『クイズタレント名鑑』に似ており相性も抜群でした。

藤井健太郎系の番組ファンに、「強引な番宣」といった嫌がられ方をされることなく受け入れられました。

出演者のファンからの信頼感

ラヴィットは、出演者をすごく大事にしています。

これは、『有吉の壁』にも言えることだと思うのですが、出演者の他所での活動をしっかり追っている。そして、誕生日などを祝い、出演者同士の他所での関係性なども大事にする。すると出演者のファンは「分かってくれてるなぁ」となる。

例えば、キングオブコントファイナリストの『や団』(ソニー所属)をスタジオに呼ぶとなったときには、元ソニー所属のアルコ&ピースと同じ回に呼んでいました。

また、シーズンレギュラーのメンバーの最後の出演回には、そのメンバーが活躍できるパートを増やしたり、放送後のツイッターなどでの川島さんのフォローも素晴らしい。

これにより、出演者のファンが「推しを大事にしてくれる番組」ということで『ラヴィット』自体のファンにもなり、初期の頃のシステムでは獲得できなかったリピーターの獲得に繋がっています。

芸人の出演者に関して言えば、現在は相席スタート・なすなかにしといった、『ウチのガヤ』芸人の受け皿になっていることにも触れるべきでしょうか。

“ラヴィットの正体”

そして、前述した宮下草薙の火曜日が合っていない件は、2021年9月に金曜レギュラーに移動になったことで解消されました。

最近は、『ラヴィット』がひとつの概念になってきているようにも感じます。今は深夜じゃないのに『月曜から夜ふかし』、もう雨上がり決死隊は出てないのに『アメトーーク!』。そうなれば人気番組の証です。

こうしてマイナス要素がなくなって方向性が定まり、その過程で出演者のファンからの番組に対する信頼感が増したり、お笑い好きの間でも「ラヴィットが面白いと言っておけば間違いない」といった“ブランディング”が進んで、「お笑い番組」「大喜利番組」と呼ばれるようにもなったのです。 

しかし根っこの部分は「前番組のグッとラックを終わらせて、とにかくコア層に人気のある人を集めた情報番組」であり、それを結果として「芸人の笑いで包んだ」状態。お笑い番組として始めたわけではない。

「裏番組がコロナの話題だけで飽きた」「ニュースは8時までの番組でチェックしたから大丈夫」「朝は明るく前向きな気持ちになりたい」と思って見ているだけの“番組ファン”の視聴者も多いので、井口さんのような人が、「そうした一部の視聴者には受け入れられない場合がある」というだけなのではないだろうか。


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