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人生最高パンケーキと高倉町珈琲

最近のわたしは、高倉町珈琲のパンケーキの一口目を頬張る瞬間が、いちばん幸せだ。口に入れたと同時に、幸福な時間の始まりを知らせる鐘が鳴る。

好物を食べる時間は、誰にとっても至福だと思う。しかし、好きなものでも、最初の一口に勝るものはなく、そのあとは惰性で食べていることが多くはないか。胸に手を当てて考えてみてほしい。二郎のラーメン然り、ビュッフェのデザート然り、腹が満たされたら最後、あとに残るのは食べても食べても減らない食べ物と罪悪感、そして胃袋の具合悪さではないか。欲張りで食いしん坊故に、幸福な時間がそう長く続かないことをわたしはよく知っている。(過去のnote「月一(味なし)パンケーキ部、 はじめての活動報告」を参照いただきたい。)

パンケーキとはそういうものなのだろうと諦念していたところ、最初の幸せが最後の一口まで続く奇跡のパンケーキが現れた。 

高倉町珈琲のパンケーキだ。


その理由は、軽い食感のリコッタチーズ生地の中にある、わずかな塩気と控えめな甘さのクリームにあるとわたしは考える。決して量は少なくないけれど、皿に残るクリームをすべてかき集めるまで、飽きずにぺろりと完食してしまう。

想像をするだけで涎が出てくる。上のクリームを崩さぬようおそるおそるナイフを入れると、しっとりやわらかい生地の中にまだ泡がきめ細かいメレンゲが見えてくる。それに少しのキャラメルソースをすくい、たっぷりの特製クリームをまとわせて口に運ぶと、もう天国だ。目を閉じて、この至極のひとときをゆっくりと味わいたい。

あまりのおいしさに頭がくらっとして、パンケーキさながらふわふわと浮遊している気分になる。それはなにも高倉町珈琲のソファのやわらかさだけがそうさせているのではない。


そう、パンケーキがおいしく食べられる理由は、味だけに限らない。「高倉町珈琲」というカフェは、この上なく素晴らしい空間なのだ。

広々としたテーブルに、居心地のよいゆったりソファ。もちろん電源とWiFiは完備され、雑誌や新聞もひととおり揃っている。トイレにはさまざまなアメニティが揃っていて、店員の接客態度は申し分ない、まるでホテルだ。店内に流れるビートルズはいつも軽快で、スタンプを貯めるともらえる手作りクッキーの味もまたぬかりなく……と、讃えるべき点は枚挙にいとまがない。

愛しすぎてしまって、決して近くはないのに(高倉町珈琲は郊外型である。)通い詰めて、その成り立ちを調べる日々。その成果を少々。


高倉町珈琲は、すかいらーく創業者の一人である横川竟が、75歳で開業した珈琲ショップチェーンである。すかいらーく時代、客を喜ばせたい一心で試みた大改革の道半ばで、社長解任を余儀なくされた。当時、最後まで遂げられなかった思いが、高倉町珈琲には詰まっている。(と踏んでいる。)

外食産業のレジェンドとして名声高い氏であるが、正直、わたしは外食業界や会社経営のことはよくわからない。けれど、あの「最後までおいしい」パンケーキを作り、そのパンケーキを心置きなく味わえる空間をつくってくれた、それだけで氏には足を向けて寝られない。


横川氏はある取材でこう言っていた。
「一口目はうまいけど全部食べるとしつこいのはダメ。食べ終えて『ちょうどいい』がいい料理。」
まさに。客目線を持っている男、それが横川竟である。

だから、高倉町珈琲はとても混む。
高倉町珈琲はもっと店舗を増やさなければいけない。もっと多くの人にあのパンケーキを知らせなければいけない。
もっともっとパンケーキを食べて高倉町珈琲の繁栄に一役買わねばと、今日もパンケーキを口いっぱいに頬張りながらわたしは考える。

(期間限定のマロンクリームリコッタパンケーキは宇宙一だ。いつ終了するかはわからないので絶対食べてほしい。)


追記:この日記が一役買ったのか(?)、期間限定だったマロンクリームリコッタパンケーキは定番商品になった…!

追追記:マロンクリームリコッタパンケーキがメニューにない…!しかし店舗によって、また季節によってラインナップは変わるので、断言は避けることとする。はぁ。


長いのに読んでくれてありがとうございます。