【#バトリレ非公式】relay-tion 15.みんなと、わたしも

「あ、春服かわいい! 新作かなあ」

お昼休み。お母さんにメッセを返して教室へ戻ると。
クラスメイトの友だちが、雑誌を囲んでお喋りしていました。

「カブちゃん、どう? ほら、このパーカーとか――」
『わー…あ、…』

その雑誌に写っていたモデルは。
わたしと一緒に活動していた――。

#非公式


そっか。
モデル、続けてるんだ。リンちゃん。

当たり前のことなのに、ちょっと調べればすぐわかるはずなのに。
わたしはなぜか、"前のお仕事"から遠ざかろうとしていました。

後悔とか、後ろめたさとか。
そういうのを振り払って、お仕事を頑張るって決めたはずなのに。

――もういちど。


「あのさ、冬華」

学校が終わり、事務所へ向かう途中で。
咲ちゃんがふと、わたしの顔を覗き込んできました。

「今日、休んだ方がいいよ」
『えっ…な、なんで?』

「これはね、声優じゃなくて。学校の先輩としての意見だけど!」

ひなのさんからの受け売りだと、咲ちゃんは笑いました。


「リレプロの前にやってたこと?」

自主トレの日だったので特に連絡も必要なく――
でも咲ちゃんは、わたしと喫茶店に付き合ってくれました。

『うん。ちょっと、訊いてみたくて』
「んーと……」

誤魔化し混じりの質問に。
クリームソーダのスプーンをもごもごしながら、咲ちゃんは考えて。


「部活動や習い事だけど、剣道やお華やってたよ」
『わあ…すごいね、咲ちゃん』

そうでした。咲ちゃんは名家のお嬢様。
たくさん習い事をしていて、今もたまに続けていると聞いています。

『――咲ちゃん、すごいよ』

そんな言葉しか出てこなくて。
なんでも両立できる人って、いるんです。


でも。
咲ちゃんは、うつむいて愛想笑いするわたしの顔を、じっと見て。

「そうだ、ねね、冬華!」

たまにする、わたしのもやもやを見透かすような笑顔を浮かべて。

「お華と言えばさ、こないだ先生がウチに来てね。久しぶりにご挨拶したんだよ」
『先生が……?』


「そりゃあ怒られたよ。急に東京へ引っ越すなんて何事だ――途中で諦めるなんてもったいない、ってさ」

あっ……
わたしの表情が変わったのを見届けてから、咲ちゃんはにっこり笑って。

「でもね、伝えたんだ。諦めたんじゃなくてさ。お華も書道も剣道も、全部"声優"に繋げたいんですって!」


『あきらめたんじゃなくて――』

わたしの呟きに、咲ちゃんはうん!と力強く頷いて。

「冬華と一緒! でしょ?」

やっぱり、わたしの心を見透かしたように。
きっとわざと、そんな風に笑ってくれて。

『――そう、だね……えへへ』

胸の奥をそっと撫でてくれたような気持ちが。
残りました。


――――

『ただいまー……』

マンションに帰って、荷物を置いて――
ふと、テーブルの上の荷物に気が付きました。
わたし宛――差出人は。

『――リンちゃん……』

封の中身は、今朝みんなが見ていた雑誌の最新号。


>久しぶりです。
>規則で直接連絡できないので、編集さん経由で送ります。

>初めて、特集企画に一人で載りました!
>カブちゃんと話していた目標が一つ叶ったので、ぜひ見てください。

>アニメ見ました! カブちゃん、ですの可愛かった!
>あたしも負けないように、未来目指して頑張ります!


――繋がってるんだ。

みんな繋いでるんだ。

わたしも、リンちゃんも。
咲ちゃんも、京子ちゃんもつくしちゃんも。みんなも。

声優とか、モデルとか、それだけじゃなくて。

たったひとつの、自分の未来へ。ずっと。


『……わたしも、頑張る』

みんなと、わたしも。
何度でもやり直して、作り直して。

まだ、ぼんやりだけど。
思い描いた、胸の奥の、なりたい自分と。

『――一緒に、頑張ります。えへへっ』


#バトンリレー
#椛坂冬華誕生祭2022

#みんなとわたしも


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※このSSは #非公式 であり、BATON=RELAY本編とは無関係です。

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