本や映画から見るアメリカの古さ

※筆者はアメリカ文化史もジェンダー論も専門でないので、一人の人間が感じたこと、としてとらえていただければ幸いです。

アメリカのイメージ

アメリカ、というと皆さんどんなイメージが浮かぶだろうか

国際連合の本部にウォール街、シリコンバレーといった政治経済・ビジネス・ITの中心地。NBAやメジャーリーグなど、スポーツのイメージも強いかもしれない。BLMやMetoo運動が起きたり、LGBTの権利にも寛容な州があったりと、民主主義が発達していそうで思想的にも進んでいる印象を受ける。ハリウッドなどの文化も捨てがたい。銀座に初めて一号店ができたときは長蛇の列だった、というマクドナルドもアメリカ発祥だ。
※アメリカのスポーツ、という観点では中公新書の「スポーツ国家アメリカー民主主義と巨大ビジネスのはざまで」という本が面白かったのでおすすめしておきます

とにかく、どの方向から見ても、「最先端」という印象が強いのではないか。アメリカ大統領選の開票速報が、遠く離れた日本でも注視されたり、この大統領になったら日本はどうなるのか、池上さんがわざわざ時間を割いて解説してくれたりするのも、アメリカという一国家の動向が他国に大きな影響を及ぼすことの証左である。

↑私が大好きな映画の一つ。有名なミュージカル、『Annie』を現代のNYを舞台に描いたもの。
主人公アニーとスタックスがNYを空から眺めるシーンで、アメリカの豊かさ・最先端ぶりを実感した。。。
2021年9月現在、アマプラで無料で見えるので是非。

古いアメリカ

ここからが本題である。さんざんアメリカが最先端、と評してきたが、はたしてそうだろうか?アメリカを舞台にしたすべての作品を鑑賞したわけではないが、アメリカには一種の「古さ」があると感じている。

私が初めに疑念を抱いたのはこの作品だ
かの有名な「大草原の小さな家」シリーズ
ドラマにもなっている(原作になかったエピソードや人が大量にいたが...)ので、知っている人も多いだろう。
小学校3年生?くらいまでは好きだったが、あるときふと「とうさんが絶対」という価値観やメアリ(姉)にも明らかに非があるシーンでローラだけが叱られているなどの描写に違和感を覚え、読まなくなった。
※余談だが、このシリーズ、一部のアメリカの右よりの方々(白人至上主義の方々)にはノンフィクションだと本気で信じられているし、「子供の教育にいい」とされているらしい。原作者のローラ・インガルス・ワイルダーはまあまあ保守的な印象はあるが、実質の共同著者だったローラの娘、ローズ・ワイルダー・レインは自らが手掛けた作品が、人種や性別を超えた平等を体現していきたい、という理念に外れた流れの象徴とされていることをどう受け止めているのだろうか...。
※余談に余談を重ねますが、ローズ・ワイルダー・レインの著書『わかれ道』は本当に面白いのでおすすめです。元祖・働く女性としての生きざまがいきいきと描かれていて読んでいて楽しかった。

その疑念が確信に変わったのが
プラダを着た悪魔』『マイインターン』を鑑賞した時である
※ここから下、両作品のネタバレ注意


どちらも、とてもおしゃれでスタイリッシュでキラキラした世界観を存分に表現した名作であることは間違いない。(筆者も好きな映画・おすすめ映画として名前を挙げることがある)しかし一点、私が不満な点があり、これこそがアメリカの限界なのではないかとひそかに思っている。
どちらも、主人公であるバリキャリが浮気される、というシーンがあるのだが、結論から言えばどちらも浮気をしていた彼氏とよりを戻す。はたから見れば、より有能になってステージのあがった彼女たちが浮気するような人とわざわざよりを戻す必要性はなく(勿論、有能云々以前に浮気がまず人としてNGなんだが)、もっと素敵で誠実な人と出会って結婚する、とか思い切り振って前向きに進む、という結末があってもよさそうなものである。
※『キューティーブロンド』みたいな作品もあるので、バリキャリや有能女性が主人公の作品の結末が全部よりを戻す系統だといいたいわけではない

ここに、そこはかとなくただよう家父長制(は、言い過ぎか、、)や、ヒラリークリントンが行った、名演説と名高いあの大統領選の敗北演説で述べた「ガラスの天井」を感じるのである。

極めつけはこちらの作品「ガラスの城の約束」(映画もある)
ほとんど犯罪のようなことをしたり、子供に適切な治療を受けさせなかったりと親失格の二人だが、最後が大団円みたいになっていることに違和感しかなかった。どんな親であっても子供なら受け止めなければならないのか?それが人情だといわれてしまえばそれまでだが、これが全米ベストセラーだったらしい、ということには少々感性が違うんだろうな、という感想である。

Google Mapで見る限り、アメリカのどんなド田舎にも教会があるし、現在の共和党の支持基盤の一つに福音派があり、政治動向に大きく影響を与えたり、そもそも中絶や進化論に宗教的な立場から反対が出るような、政治のなかにさえも宗教(キリスト教)が反映される国でもある。

※余談だが、アメリカのケンタッキー州には『創造博物館』という創造論(進化論に対し、人間は神がアダムとイブを創った、といった聖書の話をそのまま信じている立場)を教える博物館が本当にある。ノアの箱舟を実物大(実物ないので言葉が適切じゃないですが)で再現したものもある。嘘みたいなホントの話。

筆者はキリスト教徒でもなんでもないし、おそらくキリスト教にもいいところはたくさんあるのだろう。こうした家父長制を思い起させるような家族観や価値観を=キリスト教的価値観、と決めつけるとまではいかないが、政教分離がなされていない(アメリカの大統領は就任式に聖書の上に左手を置く)アメリカにおいて、時折垣間見られる古い描写というのは、キリスト教の教えが思考に深く根付いたから、と考えても強ち間違いではないと思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?