安藤カメ吉

古今東西名作文学。題名借用小話捏造。無益不毛故愚劣。切願各位発揮寛容。

安藤カメ吉

古今東西名作文学。題名借用小話捏造。無益不毛故愚劣。切願各位発揮寛容。

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【ショートショート】1985年の贋作小話 まえがき

はじめまして。安藤カメ吉と申します。 これから、ものずごくくだらない文章をたくさん書いていこうと思います。 古今東西の名作文学のタイトルを拝借し、妄想と勝手な解釈で ごく短い読み切りの小話(しょうわ)をでっち上げていきます。 あまりのくだらなさにご立腹の方がおられるかもしれませんが、 そこは温かい目で見守ってやってもらえればうれしいです。 本日2023年3月9日(木)を最初に、毎週月・木曜日に投稿する予定です。 とりあえず100話を目標に精進してまいります。 おつきあいのほど

    • 【ショートショート】1985年の贋作小話 その100 「悪の華」

       楽しかったショーもこれでおしまいです。いよいよフィナーレのときがやってきました。軽快なドラムロールにホーンセクション、シャンシャンシャンと鈴が鳴ります。  踊子たちはくるくると回りながら左右に分かれ、ステージ中央に花道をつくります。電飾のまたたく階段を、いちばん上からおりてくるのは悪の華です。油でなでつけた黒髪に真っ黒なスパンコールのドレス、背中に負ったカラスの羽根飾りがお別れの翼を広げます。かみ手にしも手に、そして二階席へと一礼をくれると、両手をいっぱいに広げて満員の歓声

      • 【ショートショート】1985年の贋作小話 その99 「長いお別れ」

         二時間たっても彼は姿を見せませんでした テーブル席の客は、私の背後で既に何度か入れ替わっているようでした。バーの扉が開くたびに私は背中に期待を集めるのですが、声をかけてくる者はいませんでした。私はその間、カウンターの止まり木でぬるくなったビールを相手にしているよりほかありませんでした。 十年後のこの日に、この店で会おうと提案したのは彼でした。お互いがその時どんな境遇に置かれていようと、必ずここで会うのだと約束したのです。そして、その十年の間、私たちは一切の関係を絶た

        • 【ショートショート】1985年の贋作小話 その98 「犬を連れた奥さん」

           警察は犬を連れた奥さんを探していました。あるひき逃げ事件の目撃者として、警察は犬を連れた奥さんの証言を得ようと躍起になっていたのです。ある夜のこと、急ブレーキの音に驚いて近所の人が表に出てみると、そこにはもうこと切れた被害者が転がっているばかりでした。車の姿は見当たりません。ただ、向こうの方の街灯の下に、交差点を曲がる犬を連れた奥さんの後ろ姿を複数の人が見ていたのです。彼女なら車を目撃しているかもしれません。  よそ者があまり入り込まない郊外の住宅地のことでしたから、すぐに

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        【ショートショート】1985年の贋作小話 まえがき

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その97 「アメリカの鱒釣り」

           川は飛行甲板を斜めに横切るように流れていました。発艦用と着艦用の滑走路の間にできた深い谷の底を、船尾から船首に向けて水はゆったりと動いていました。それは大陸を流れる川と遜色ないほど豊かな川でした。広い川幅にたっぷりとした水深、深瀬の下流にはさざ波をたてた浅瀬がしばらく続き、その向こうには鏡のように静かな淵が流れていく雲を映していました。そして、そこにはよく育った鱒がたくさんストックされていました。ですから、航空母艦ウォーターゲートの乗組員たちは、非番になるとこぞって川原に立

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その97 「アメリカの鱒釣り」

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その96 「山椒大夫」

           天秤桶を肩に担いだ人買いが奴隷使いの山椒大夫のもとを訪ねました。例によって売れ残りを押し付けようというのです。前の桶の底には五つばかりの男の子が、後ろの桶の底にはもう少し大きい女の子が、どちらも気持ちよさそうに眠っています。 「こいつらは姉弟でしてな。ふたりまとめて買ってもらえれば、うんと安くしとくですがな」  桶の底の子らはどちらも色白の器量よし、まとった着物も粗末なものではありません。どうして売れ残ったのかと山椒大夫はいぶかりました。 「買ってやってもよいが。しかし、い

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その96 「山椒大夫」

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その95 「手袋を買いに」

           ドラッグストアの駐輪場に自転車をとめると、たけしくんはひとつ大きく深呼吸をして自分に言い聞かせました。「売ってるものを買うだけなんだ。何をやましいことがあるものか」  準備は万端でした。店内の偵察のために、必要もない歯ブラシをもう何本買ったかわかりません。目当てのものがあるのは入り口から右に三列目の棚の一番奥。その棚の下半分に色とりどりのパッケージがずらりと並んでいます。どれがいいのかはわかりませんし、どれだっていいのです。とりあえずいちばん安いやつ、下から二段目の緑色のパ

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その95 「手袋を買いに」

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その94 「小さき者へ」

           小さき者よ。汝、嘆くことなかれ。汝の支配する肉体は矮小なれども、それが故に汝の外に広がる世界は洋々なり。  - デイヴィット・J・オコナー『ある牧師への手紙』より -  とある公営住宅に背の高い夫婦と背の低い夫婦が住んでしました。背の高い夫婦はスタイル抜群の八頭身で、腕を組んで颯爽とお出かけするその姿はご近所さんからは理想の夫婦と思われていました。一方の背の低い夫婦はまるで小学生の兄妹といったところで、商店街でご近所さんとすれ違っても気がついてもらえないこともしばしばでし

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その94 「小さき者へ」

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その93 「日はまた昇る」

           洞窟にお隠れになった天照大神はある日、岩戸の外で何やら話し声がするのを聞きました。 「いいじゃないか、一回だけだから」 「ダメよ、こんなところで。誰かに見られたらどうするの」 「見られやしないさ。こんなに真っ暗なんだから」  どうやら男と女のむつみ合いのようでした。天照大神は全身を耳にして岩戸の裏にはりつきます。 「ほんとに一回だけよ。アタシ、そんな女じゃ・・・」 「おまえだって嬉しいくせに。ほれっ・・・」 「あ、いや、もう、せっかちなんだから・・・」  天照大神はだんだん

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その93 「日はまた昇る」

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その92 「潮騒」

           客が帰った朝方、夏江は行李の底から例の貝殻を取り出して耳に当てました。潮騒が聞こえます。懐かしい島の潮騒とともに、あの晩のことが蘇ります。 皆が寝静まった月夜の晩に、島の砂浜で夏江は慎吉とふたりして海を眺めていました。夏江の出発が明日に迫っていました。慎吉は懐から大きな巻貝の貝殻を取り出し、夏江に与えました。「海の音が聞こえるべ」慎吉は貝殻を夏江の耳にあてがってそう言いました。「島が恋しくなったら、これを耳さ当てればいいさ」夏江はうなづき、ほろほろと涙をこぼします。そ

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その92 「潮騒」

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その91 「小僧の神様」

           和尚さんのいいつけで町にお使いに出かけた小僧さんは、町屋の軒先でうずくまっている妙な人をみつけました。ほこりだらけの黒い布切れで全身をすっぽりと覆い、真っ赤なかみの毛のてっぺんをつるつるに剃っています。どこかにちょんまげが隠れているのだろうと恐る恐る近づいてみるのですが、それらしいものは見つかりません。抱えた膝の間に顔をうずめてピクリとも動きません。 「もしもしお前さま、どこかからだの具合でもお悪いのですか」  小僧さんの問いかけにその人はむっくりと顔をあげましたが、その顔

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その91 「小僧の神様」

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その90 「海底二万里」

           ここは太平洋のど真ん中。深い深い海の底です。  日本人の魚たちとアメリカ人の魚たちが綱引きに興じています。 「オーエス、オーエス!!」アジ、サバ、サンマ、ブリ、カツオ・・・、日本人の魚たちは一所懸命に綱を引っ張ります。 「ヒーブホー、ヒーブホー」アメリカ人の魚たちも必死です。キングサーモン、バショウカジキ、巨大ヒラメにホオジロザメ・・・。西太平洋を回遊中のクロマグロは今はアメリカ人です。  力自慢のアメリカ人の魚たちが優勢なのですが、日本人の魚たちも持ち前の団結力で必死に抗

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その90 「海底二万里」

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その89 「伊豆の踊子」

           これは、伊豆のある温泉旅館を舞台にした、女の復讐の物語です。  アタシの名前はyukie。ポールダンサーさ。東京あたりじゃ、ちょっとは知られた顔だったけど、今じゃ都落ち。でも、伊豆のうらぶれた温泉旅館の仲居におさまってるのは、世を忍ぶ仮の姿。アタシには野望があるのさ。復讐という野望が。それを遂げるためには、あともう少し、ここで辛抱というわけさ。  東京の店に出ていたときのことさ。ある日、どこかの田舎オヤジの団体が物見遊山でやってきたんだ。アタシは何だかイヤな予感がしてた

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その89 「伊豆の踊子」

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その88 「吾輩は猫である」

           三匹の猫がこたつに背中をまるめて温まっていました。 「まったく、にんげんってのはいい気なもんだよな」学ランに日の丸ハチマキの特攻猫はうんざりして言いました。「裸一貫、四つ足動物のおいらにこんなもん着せたうえに直立させて喜んでるんだから。何が面白いってんだろう」 「キミなんてまだいいほうさ。ぼくなんて」腰にサーベル、長靴をはいた猫は言いました。「こんなもの履かされた日にはうまく走れやしない。まったく、肉球の有用性ってものをてんで理解してないんだからな」 「おやおや、贅沢言っ

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その88 「吾輩は猫である」

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その87 「阿Q正伝」

           三年もの諸国行脚の末に阿部仇太郎はついに仇敵を探し当てました。後藤又右衛門がささいな口論から父親を斬ったのが十八年前。仇太郎が生まれる半年前のことでした。又右衛門は脱藩、逐電の後、郷里から遠く離れたこの地で日雇い人足となっていました。かぎ穴だらけの上衣に腰に締めた荒縄一本、薄汚れた手ぬぐいを頬かむりして飯場の軒下で膝を抱えていました。  仇太郎は名乗りを上げると太刀の柄に手をかけました。又右衛門は頬かむりを取り去ると、疲れ切った目で仇太郎を見上げました。「ああ、ようやく会え

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その87 「阿Q正伝」

          【ショートショート】1985年の贋作小話 その86 「欲望という名の電車」

           金曜日の夜の終列車。向かい合った座席に三人の男女が座っていました。  二十三歳、男性。入社一年目だというのに残業の連続でした。初めての仕事をわからないなりに頑張ってみるのですが、どうしても時間がかかってしまいます。今日も昼休み返上でかかりっきりでした。当然昼飯抜きです。もうおなかと背中がくっつきそうです。向かいの座席の中年男がコンビニのおむすびを頬張っています。傍らのレジ袋にはもうひとつおむすびが入っているようです。余分に金を出すから売ってくれないものだろうか、と彼は卑し

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