観の目つよく,見の目よはく

ICUや手術室で重症患者さんのモニタリングのために数々のモニタリング機器やパラメータが使われています。例えば心臓外科手術後の患者さんですと,ICUでは生体情報モニター(心拍数,動脈圧,肺動脈圧,中心静脈圧,体温,カプノメータ—,呼吸数など),ビジランス(心拍出量係数や混合静脈血酸素飽和度,右室駆出率,右室拡張末期容量),インボス(rSO2),人工呼吸器のグラフィックや測定値といったモニターがベッド周りを固めています。
これだけ多くのパラメーターがあると,どれを見たら良いのか迷ってしまいますよね。研修医の先生からもよく尋ねられます。「総合的に解釈してぇ〜」などと教える先生もおられますけど「総合的」ってなんやねん…みたいな。

多くのパラメータをどのように使い分けていけば良いのでしょうか?

全ての状況に適応し,弱点のない万能なパラメータは存在しません。
どのモニタリング機器・パラメータにも強みと弱みがあります。多種多様なモニタリング機器の強みと弱みを理解して,病態や重症度に合わせてモニタリング機器やパラメータを使い分ける必要があるのです。
うまくパラメーターの使い分けるために,私は以下の6つのポイントが重要だと考えています。

1  状況・目的にあったパラメータ・所見を選ぶ
2  複数のパラメータ・所見を組み合わせて評価する
3  時点間のパラメータ・所見の変化を観る(connecting dots)
4  観るべき時に観るべきパラメータ・所見を観る
5 パラメーターがなぜその値をとるのか考える
6 複数のパラメータや所見に乖離・矛盾がある場合にはその理由を考える

剣豪である宮本武蔵の言葉に「観の目つよく,見の目よはく」という言葉があります(宮本武蔵,五輪書 水之巻 1643)。「観の目」とは本質を見極める目,「見の目」とはただただ表面的にものや動きを見る目のことです。
ただただパラメータの数値だけを追っているだけでは本質は観えてきません。数値の向こうにある病態を観て、そして診なければならないのです。
状況によってパラメータの数値の意味は変わります。たとえある時点、ある状況で最適値であったとしても、状況が変わればその値が最適値ではなくなってしまうことはまれではありません。モニターをただ「見る」のではなく「観る」ことによって,病態の本質を見極め,病態にあった治療を行うことが,患者の予後向上に必要不可欠なのだと思います。

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