指導医になるあなたへ
忙しい日々が続いていますが,お元気ですか。
先生も今後,指導医として研修生の教育に携わっていただくことが多くなるかと思います。教育なんてと思われるかもしれませんが,他人を教えることで自分の穴に気がつきますし先生にとって決してマイナスにはなりません。
むしろ大きなプラスになることでしょう。もちろん楽ではありませんが…。
研修生の教育について,いくつか留意していただきたい点をあげておきたいと思います。私もできているわけではありません。
こういう風にできたらいいなあと思っているものです。
1. ブリーフィング、デブリーフィングを行う
短い時間でもいいので,必ず行いましょう。
限られた症例数でできるだけ教育効果を得るためです。よかった点,悪かった点を指摘し,こうすればよかったというところまで話せればなお良いと思います。特に大事な事はよかった点,できたところを言うことです。(理由は後で述べます)。
2. 判断、行動の理由を説明する
なるべく判断や行動の理由を説明しましょう。
これは「なぜ」を教えないと,研修生があとで出来なくなってしまうのと,経験したことがない事態に遭遇したときに動けなくなってしまうからです。
余裕がない時には「後で説明する」でも全く構いません。
もちろん,患者さんの管理がtop priorityであることは言うまでもありません。
3. 前提条件を説明する
判断や行動の際には必ず,その前提条件が存在すると思います。
指導医はともすると研修生が前提条件を当然分かっていると考えてしまいますが,初心者の研修生にはその前提条件すら理解できていないことが多いのです。
「○○○だから,△△する」の「□□□だから」「×××の場合には」という前提条件の説明をしましょう。
4. 指導医が最終権限をもつ
誰が手技や決断を行うかの最終権限は指導医にあります。これは研修生と指導医の決定的な違いのひとつだと考えています。
研修生の技量を超えていると先生方が判断されたときは,迷わず先生方が手技や決断をすればよいです。手技も徒に長く行わせる必要はありません。ダメだと思ったら取り上げて構いません。見学もまた重要な学習の機会です。ただし,取り上げた理由もできれば説明するようにしましょう。
指導医には全ての行為に対して説明責任が伴います。
5. わからないことはわからないと言う
先生方もまだ知らないことがたくさんあると思います。私もしかりです。
しかし臆することはありません。わからないことは,わからないと言って構わないのです。間違えたときには、間違えたと言って良いのです。
あとで答えを調べて教えればよいだけのことです。
より正しいやり方を議論すればよいだけのことです。
あるいは他の先生に尋ねても良いでしょう。
そうすることで先生が研修生の信頼を失うことはありません。むしろ中途半端な答えや,曖昧な答えをする、間違えを認めない方がかえって良くありませんし,研修生からの信頼を失う場合もあります。
6. 根気よく教える
人というのは一回ではなかなか覚えられないものです。もちろん,一回で覚える研修生もいると思いますが,そうでない研修生もいます。
この前言ったでしょ?と言いたくなる気持ちはよく分かるのですが,そこは耐えていただき,根気よく教えてもらえればと思います。
また,単にできないことを指摘するだけでは研修生はできるようにはなりません。研修生を観察してできない原因を見抜き,できるようになるためには何をどう直せば良いのかを具体的に指摘する必要があります。
7. 到達度によって教える内容を変える
どの人も同じ事を教えなければならないと考えがちですが,必ずしもそうではありません。どの人も同じ事を教えるということは,到達度の高い研修生にとってはより高度な内容を学習する機会を奪うことになりますし,到達度の低い研修生にとってはついて行けない可能性があります。
例えば,専門医の先生方を指導する時と,後期研修医を指導する時では教える内容は違います。専門医の先生方に基本的な事を教える必要はありませんし,後期研修医に高度なことを教えてもわかりません。たとえ教えることが同じ内容であっても言い方・使う言葉は相手によって変えた方が良いかもしれません。
研修生の到達度に応じて教える内容を変えることが,限られた時間で効率的に知識や技術を身につけるために必要です。言うは易く行うは難しの典型ですが…。
8. できたこと、正しいことは、指摘し,感謝する
研修生を指導しているとだめ出しばかりになってしまうこともありますよね。しかし,弱点ばかり指摘しているだけではなかなか研修生は育ちません。
研修生にとっては最初はすべてのことが「よいか悪いかどちらかわからないこと」ですよね。悪い点ばかりを指摘されると,研修生の頭の中は「悪いこと」と「どちらかわからないこと」の2つに分類されてしまいます。このまま同じように悪い点を指摘されるだけだと,「悪いこと」の割合が増えていくだけで残りは常に「どちらかわからないこと」になってしまい自信をもって実行できなくなります。
上手くやれたことを感謝されたり,「あれでいい」と指摘すると研修生の頭の中は「良いこと」と「悪いこと」「どちらかわからないこと」の3つに分類されます。良い点と悪い点の両方を指摘されていくと「どちらかわからないこと」の割合が減っていきますし,「良いこと」の領域にあるものは積極的に行えます。
こんなところでしょうか。
重ねて言いますが,私もできているわけではありません。
こういう風にできたらいいなと思っているものです。
何かの参考にしていただけましたら幸いです。
やってみせ、言って聞かせて、させてみて、 ほめてやらねば人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。
山本 五十六
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