OGSIVEO (nirogacestat)がデスモイド腫瘍に対する治療薬として承認された。

OGSIVEO (nirogacestat)がデスモイド腫瘍に対する新規治療薬としてFDAに承認されました。

【デスモイド腫瘍とは】
デスモイド腫瘍は筋肉や脂肪などの軟部組織に生じる希少がんの1種です。良性腫瘍と悪性腫瘍の中間の性質を示すとされ、大きくなった腫瘍が周囲の臓器を圧迫することによる疼痛などの症状が出現します。症状がある際には腫瘍を切除する手術が行われます。一般的には予後は良好ですが、再発を繰り返すためQOLを損ねます。

デスモイド腫瘍には孤発性のものと家族性のものがあります。家族性のものはFAP(家族性腺腫ポリポーシス)と関連しており、APCという遺伝子の異常が原因です。孤発性のデスモイド腫瘍ではβカテニンという遺伝子の異常が認められます。APCもβカテニンもWnt(ウィント)シグナルという細胞内シグナルを構成する遺伝子であり、デスモイド腫瘍にはWntシグナルの過剰な活性化が関与していると考えられています。

Wntシグナルはデスモイド腫瘍に限らず、多くのがんの発症・進展に関与しているのですが、正常な身体の機能を維持するために重要なシグナルなので、Wntシグナルを阻害するような治療薬の開発は成功していません(副作用が大きすぎる)。


【作用機序】
OGSIVEO (nirogacestat)(オグシベオ?(ニロガセスタット))はγセクレターゼという酵素の阻害薬です。γセクレターゼはNotchシグナルというシグナルにおいて重要な役割を果たす酵素であり、阻害することでNotchシグナルが阻害されます。NotchシグナルとWntシグナルは細胞の中で相互作用を示し、nirogacestatはNotchシグナルと共にWntシグナルを抑制することでデスモイド腫瘍の増殖を抑制するとされています。https://acsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cncr.29564

しかし、おそらくこの作用機序は後付けで作られた眉唾もので、nirogacestatがWntシグナルを抑制していることを明確に示す論文(データ)は他の文献も含め存在しません。Notchシグナルがよくわからないメカニズムによりデスモイド腫瘍の増殖に関与しており、Notchシグナルを抑制することで有効性が示されていると考えるほうが自然だと思います。

【臨床試験】
Nirogacestatの臨床試験(DeFi試験:NCT03785964)では142人にデスモイド腫瘍患者に対してnirogacestatまたは偽薬が投与されました。偽薬群の1人で死亡、36人で腫瘍の増大または症状の進行が認められたのに対し、nirogacestatを投与されていた患者では0人が死亡し、12人で腫瘍の増大または症状の進行が認められました(病勢進行または死亡のハザード比 0.29,95%信頼区間 0.15~0.55,P<0.001)。完全寛解に至った患者がnirogacestatを投与されていた患者の7%で認められ、QOLも有意な改善が認められました。

Nirogacestatを投与された患者の8割程度に重度なものを含む下痢が認められました。また、卵巣に対する毒性が認められたこと、動物実験で胎児への毒性が認められたことから、妊娠を希望する女性に対して治療を行う際には特別な注意が必要と考えられます。

【その他】
デスモイド腫瘍に対するγセクレターぜ阻害薬の有効性を評価している臨床試験としてはAL102があります(RINGSIDE試験:NCT04871282)。どのような結果が得られるかわかりませんが、希少がんであること、臨床試験の結果が終わるまでにnirogacestatの実臨床の知見が重なるであろうことから、nirogacestatの先行者利益は大きそうです。

γセクレターぜ阻害薬は一時期アルツハイマー病治療薬の候補として脚光を浴びていました。数々の臨床試験が行われましたが、盛大に失敗しました(皮膚がんの発症率増加が認められた上に、認知症の症状も改善しないもしくは悪化した)。そのため、nirogacestatにおいても皮膚癌発症リスクの増加の可能性について警告されています。

https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/fullarticle/2444309

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