Rezdiffra (resmetirom)がNASH (非アルコール性脂肪肝炎)の治療薬として承認された

Rezdiffra (resmetirom)が肝硬変に進行する前のNASH (非アルコール性脂肪肝炎)に対する治療薬としてFDAに承認されました。

【NASH (非アルコール性脂肪肝炎)とは】
 脂肪肝とは脂肪が肝臓の肝細胞に蓄積する疾患です。大きく、アルコールの過剰摂取によるものとそれ以外によるもの分けることができます。肥満や過食、糖尿病などの生活習慣(病)が原因で肝臓に脂肪が貯まる脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と分類され、世界で10億人の患者がいると考えられています。NAFLDのうち、炎症や線維化が進行している病態をNASHといい、NAFLD患者の20%程度がNASH患者と考えられており、NASH患者のやはり20%程度がやがて肝硬変や肝臓がんを発症すると考えられています。
これまでNASHに対する治療薬は存在しませんでした。Rezdiffra (resmetirom)ははじめてのNASHに対する治療薬です。

【作用機序】
 Rezdiffra (resmetirom)は甲状腺ホルモン受容体β (THR-β)の部分アゴニストです。開発のきっかけは、甲状腺機能低下症の患者でNAFLDの罹患率が高いことが見出されたことにあります。脂肪肝を有する2型糖尿病患者に対して、本来は甲状腺機能低下症の患者に対して利用される甲状腺ホルモン薬を投与したところ
、脂肪肝が改善することが明らかになりましたが(NCT03281083)、正常な甲状腺機能をもつ患者に対して甲状腺ホルモンを投与するので不整脈などの副作用を避けることができません。
 甲状腺ホルモンは核内受容体で、甲状腺ホルモン(およびアゴニスト)が結合することで転写因子として働き、さまざまな遺伝子の発現を誘導します。甲状腺ホルモン受容体には心臓や骨に発現するTHR-αと肝臓に主に発現するTHR-βの2種類があり、心臓や骨に対する副作用を避けるためにTHR-β特異的なアゴニストであるRezdiffra (resmetirom)が開発されました。
 Rezdiffra (resmetirom)が肝臓のTHR-βを刺激することでおこる遺伝子発現の変化は、肝細胞への脂肪酸取り込みを促進します。これは一見、脂肪肝を悪化させそうですが、同時にβ酸化およびミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を亢進するので、結果として肝細胞に蓄積した脂肪は燃焼しエネルギーへと変換されます。コレステロール合成を促進する効果もあるのですが、それ以上に肝細胞へのコレステロール取り込みを亢進させ、コレステロールから胆汁酸の合成を促進することで、結果的に血液中のLDLコレステロールの値は低下します。

【臨床試験】
 Rezdiffra (resmetirom)のNASH に対する有効性はMAESTRO-NASH試験(NCT03900429)で示されました。試験はプラセボを利用したランダム化二重盲検試験として行われました(現在も継続中)。対象となったのは生活習慣病を合併するNASH患者で、NAFLD activity scoreが4以上、NASH fibrosis stage 2または3(肝硬変になる前)の患者です。Rezdiffra (resmetirom)(2用量: 80mgと100mg)またはプラセボが投与され、経過は54ヶ月追跡されています。有効性は薬物投与前および52週目に採取された生検検体を用いた病理学評価によって行われています。

 線維化が悪化することなくNASHが改善した患者の割合はプラセボ群では9.7%、Rezdiffra (resmetirom)投与群で25.9%/29.9% (80mg群/100mg群:以下同様)でした。またNAFLD activvity scoreが悪化することなく線維化が減少した患者はプラセボ群では14.2%、Rezdiffra (resmetirom)投与群で24.2%/25.9%でした。
さらに、血液中のLDLコレステロールの値は24ヶ月時点においてプラセボ群では変化していませんでしたが、Rezdiffra (resmetirom)投与群では13.6/16.3%減少していました。
副作用としては下痢や嘔気が認められましたが、大部分が軽度から中程度の症状でした。一人の患者で肝臓の逸脱酵素の上昇が認められました。また、胆石、胆嚢炎、閉塞性膵炎が薬剤投与群で多く認められました。Rezdiffra (resmetirom)はCYP2C8およびいくつかの肝臓の代謝酵素を阻害するため、脂溶性スタチンの最高血中濃度が上昇していました。Rezdiffra (resmetirom)を投与する際にはスタチン量の調整が必要になると考えられます。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2309000

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