書類受付カウンターでの出来事

久しぶりに更新。
今日は少し前にあった話を…。

日本の医療制度で「特定疾患治療研究事業」というものがあるんですが、皆さんご存知でしょうか?特定疾患、いわゆる難病と呼ばれている病気の医療費を助成したりする制度です。

疾患ごとに決まった診断書(臨床調査個人票という用紙)を主治医に書いてもらって、都道府県に申請して、認定されると「特定疾患医療受給者証」が交付されます。

その受給者証を、指定の病院に持って行くと「特定疾患の病気を治療をした場合の医療費」の一部を公費負担(国や自治体が負担)してくれます。

簡単に言うと、受給者証の手続きしたら、特定疾患の病気の医療費が安くなるよ!でも、同じ病院で風邪とか、骨折とか、花粉症とかの治療をしても、それは、特定疾患とは関係ないし、公費負担にならないから自分で払ってね!っていう制度です。

先日、書類を受け渡しするカウンターで業務をしていると、一人の女性がやってきて、「あの、○○(名前)です。わかりますか?」と、突然、声をかけて来られました。

見た感じ、同い年くらいの女性だったので、中学か高校の同級生だろうか?と思い、薄くなった記憶を手繰り寄せてみましたが、クラスメイトではなさそうで、少し困っていると、その女性が「あの、私、○○病の…」と言われ、その瞬間に全てが繋がりました。

その女性と初めて会ったのは、今年の初め頃。まだ寒い時期でした。その日も、私は書類を受け渡しするカウンターで業務していたのですが、外来診療も終わる頃で、そろそろ受付カウンターを閉めようとしていた時間でした。

同い年くらいの男女のカップルが、バタバタと小走りでカウンターにやってきて「今すぐに診断書を医師に書いてもらって!あと検査結果を提出して!」と、それはもう、随分と慌てて、しかも、少しご立腹の様子でした。

夕方ギリギリの時間に、会計窓口や総合案内カウンターにやってくる患者さんが、来た瞬間から意味不明に怒っておられるのは、よくあることで、その多くが理不尽な理由だったりするのですが、そういう時も、動じずに患者さんのお話を聞いて、ご納得いただけるようお話したり、医師や看護師に、ご対応いただけるようお繋ぎすることも、事務員の仕事です。

今回は、女性の方が患者さんで、男性は付き添いで来られた方。持ち物から察するに、彼氏か旦那さんという関係のご様子。来られた方向と時間から、耳鼻咽喉科、神経内科、脳外科、循環器系のどこかの外来で診察を受けたあと、書類受付カウンターに来られたと推測できました。

しかし、突然「診断書を書いて!」と言われても、どんな診断書を書けば良いのかわかりません。

これも、書類受付カウンターの対応でよくあることなのですが、患者さんの多くは「診断書を書いて」と言えば、簡単に診断書は出来るものだと思っておられます。ただ、一口に診断書と言っても、使用用途によって書き方が違っていたり、指定用紙の有無や、場合によっては、検査が必要だったりすることもあります。

しかし、この患者さんカップル、動揺しまくっていて、2人がかりでマシンガンのように「今すぐに診断書を書いて!」を繰り返すばかりでした。

「どのような診断書をお求めですか?」と聞くと「病気の診断書や!」との返答。「失礼ですが、どちらにお出しになるご予定ですか?」と聞くと「役所や!はよせーや!」と男性の方に怒鳴られました。女性の方は泣いています。突然の修羅場ですが、稀にあることです。そして、泣かれても困ります。

「役所に出す」というフレーズが出て来たので、「所定の用紙は、ございますか?」と聞くと、「用紙…?あ、あるわ…」と用紙が出てきました。そして、「これや!はよしてくれ!他の病院に行かなあかんねん!」と男性に怒られました。女性は泣いています。泣かれても困ります。そして、もはや、診断書なのか紹介状なのか解らなくなって来ました。

用紙を受け取り、開いてみると、特定疾患の臨床調査個人票の新規の用紙でした。それで、全てを察しました。

ちょっとした身体の不調で、そんなに大きな病気だと思わずに病院に来て、簡単な検査をしてみたら、何種類か検査が必要と言われ、どんどん不安になり、それがピークになった頃に、医師から「難病です。一生治らないかもしれないです」と言われ、びっくりしたのでしょう。

更に、今日の診察で「この病院で手術するよりも、もう少し家の近くの病院に…」と医師から言われたのだと推測できました。

担当医にしてみたら、手術をするなら、通いやすい病院で、尚且つ、その病気を専門に診ている医師に…と思って紹介状を書く提案をしたのでしょうが、不安がピークになっている患者さんにしてみたら「見捨てられた」と感じてしまったのでしょう。

だけど、その感情を、うまく医師には伝えられなかった。だから、行き場の無い憤りを書類受付カウンターの事務員に伝え、泣いている。稀にあることです。困りますけども、仕方ありません。

「一旦、医師に確認しますので、ソファにお掛けになってください」とお伝えしても、不信感と不安とで、あまりにも聞く耳持たない感じで、怒って泣いていて、まぁ、とにかく埒があかなかったので、この日、私は禁じ手の言葉を出してしまいました。

「わかりました。確認しますので、一旦、座ってお待ちいただけませんでしょうか?」

「わかってないやろ!はよしてくれ!」

「落ち着いてください。大丈夫です。わかってますから。」

「そうやって確認とか言って待たせて、また、出来ませんとか言われたら困るねん!」

「申し訳ございませんが、お時間いただけませんでしょうか?ご不安なお気持ちはお察しします」

「わかってへんやろ!」

「わかります。私も、同じ病気なので」

「…え?」

「私も小学生の頃に、同じ病気を発病してますが、手術をして、今も元気です。早期発見なら、きっと大丈夫ですから。ここで発作が起きても困りますし、落ち着いてください」

偶然なのですが、その患者さんが出された臨床調査個人票に書かれていた病名は、私の持病と同じでした。

病気の人に、大丈夫と言ってはいけない。医療事務は、医師や看護師では無いので医療行為や診断に関わる行為を行ってはいけない。解っているけれど、言ってしまいました。

結果、その患者さんは、ご理解いただくことができて、時間外でしたが書類を受付し、数週間後、他院へと転院されました。

先日、書類を受け渡しするカウンターで、突然「あの、○○(名前)です。わかりますか?」と声をかけて来られた方は、その時、泣いていた女性でした。

今回は、特定疾患の更新のために、念のため、初年度の臨床調査個人票の写しを貰えるか医師に確認しに来られたそうで、帰りに私を受付カウンターで見かけて、声をかけてくださったそうです。

彼女は、他院に転院されたあと、検査と手術をし、今のところ後遺症もなく、今は経過観察との診断を受けたとのことでした。

難病と言っても、色んな種類があります。私自身、発病して早期に手術をして25年。今は普通の健常な人と変わらない社会生活ができています。

難病の中には、治らないけれど、治療を続けることによって社会生活ができるものから、死に至る病、見た目では解らない病気も、たくさんあります。

私と同じ病気でも、発見が遅れると、身体に障害の残る方や、場合によっては、亡くなられる方もいらっしゃいますし、社会生活は出来るけれども、女性であれば、出産時に注意が必要などの制限があったりもします

特定疾患治療研究事業は、「原因不明、治療方法未確立であり、かつ後遺症を残すおそれが少なくない疾病」として調査研究を進めている疾患のうち、診断基準が一応確立し、かつ難治度、重症度が高く患者数が比較的少ないため、公費負担の方法をとらないと原因の究明、治療方法の開発等に困難をきたすおそれのある疾患を対象としています。
(難病医学研究財団/難病情報センターのサイトより引用)

来年、特定疾患治療研究事業は、制度が改正され、助成対象となる疾患が増える予定です。政治的なことや、難しいことは解らないけれど、より多くの方が、治療を受けやすい社会になるのなら、良いことなのではないかな?と思う今日この頃です。

まぁ、書類の種類が増えたり、色んな決まりごとが変わるので、その分、忙しくなるんですけどね…。