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【無言館】私には私にしかない世界がある。

少し前,長野県上田市にある「無言館」という美術館に行った。太平洋戦争で亡くなった画学生の生前の絵を所蔵した美術館だ。

彼らの絵から感じるのは,絵を描くことを心から楽しんでいるということ。静謐な空間に並ぶひとつひとつの絵や家族に宛てた手紙からは,必ず生きて帰って思う存分絵を描くのだという希望が伝わってきた。

そして,戦争は奪うのだと感じた。何もかも。
才能ある若者の未来,生きて帰って来られれば描けたはずの絵,明るく温かい家族の団らん,触れられたはずの息子のぬくもり。
全てが,奪われた。

もう奪わないでほしい。
相手から無理やり奪い取って手に入れたものが何になる?
なぜ戦わなければならない?罪のない人々の生活を,命を奪わなければならない?

同じひとつの世界でも,一方の視点から見た世界ともう一方の視点から見た世界は全く違って見えるのだろう。世界は見る人によって,無数に存在する。対立する者どうしの認識のズレは,争いを生む。争いは憎しみを生み,さらにズレが拡大する。お互いが奪われたと感じたまま,さらに争いが加速する。不毛だ。

無言館に展示されていた,一人の戦没画学生が書き残した言葉が忘れられない。

私は既に私に興られた運命がある。
私には私にしかない世界がある。
無言館所蔵の手記より

一人ひとりが,その人にしかない世界を持っている。もうこれ以上奪わないでほしい。


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