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韻?なにそれおいしいの? 日本の学校が教えない英会話術③

前回のエントリで「漢詩を書き下し文にしたら韻が台無し」というコメントをしました。

そこで、今回は日本語が「韻を踏む」という文化と相性が悪く、それが英語発音が苦手な原因の一つになっているという話をします。

大学生以上の皆さんは中学高校の国語の授業で漢詩を習ったと思います。

このとき、「押韻」という概念を習ったのを覚えているでしょうか?

押韻とは、音読みの音の響きが同じ漢字を句の末尾にそろえるルールのことです。

例えばテストによく出る有名な漢詩「春暁」はこんな感じ。

春 眠 不 覚  処 処 聞 啼  夜 来 風 雨 声 花 落 知 多

太字のところが「韻」です。

これがもう何のためのルールなのか訳が分からない。

なぜなら漢詩を習うときにはこれを書き下し文にしてしまうため、そもそも韻の部分が句の最後にこないわけです。完全に韻が殺されています。

日本の国語の授業では韻を台無しにしておきながら、テストでは「押韻」についての設問が必ずつけられます。

この韻をむちゃくちゃにする、という文化は他の場面にも登場しています。

その1つがABCの歌。

アルファベットを「きらきら星(Twinkle Twinkle Little Star)」の曲調に乗せて歌うあれです。

多くの日本人が習ったであろうABCの歌は下記のようになっていたと思います。

実はこれは日本人用にアレンジされたもので、北米などで一般に使われているリズムとは異なります。北米版は下記の通りです。

これ、何が違うかわかりますか?

実は北米版の方は2小節ごとの最後の音符が「G」「P」「V」「Z」になっており、すべて「イー(ee)」という母音で韻を踏んでいるのです。

一方の日本人用はこの韻がありません。

こうなった理由は、4小節目のL-M-N-Oが続く部分の発音が日本人には難しいからだと考えられます。

これを日本人でも発音し易いようにアレンジした結果、全体が後ろにズレて韻が崩壊してしまっているのです。

韻に無頓着な日本文化を象徴するアレンジです。

ちなみに、元歌の「Twinkle Twinkle Little Star」の方も、英語では韻を踏んでいるのに日本語版の「きらきら星」では韻は跡形もないです…。


ではなぜ日本人は韻に無頓着、日本語は韻と相性が悪いのでしょうか。

最大の原因は日本語には音節(syllable)の概念がないからです。

音節というのは簡単に言えば音の区切りであり、言葉のリズムです。

そして英語では母音1音で1音節です。

例えばstationという単語なら、sta-tionで2音節と数えます。

Check it outはそれぞれの単語が1音節で合計3音節です。

これに対して日本語は拍(mora)でリズムを取ります。

拍の数え方は音節とは大きく異なります。

英語のA(エイ)は1音節で数えますが、日本語でエイと言う場合は2拍です。

ステーションの場合ス・テ・−・ショ・ンで5拍、チェックイットアウトの場合はチェ・ッ・ク・イ・ッ・ト・ア・ウ・トで9拍です。

小さい「っ」や長音符「ー」も1拍です。これらは音節としては数えられません。前回のエントリで英語には小さい「っ」や長音符「ー」の概念がないと言ったのはこのことです。

俳句や短歌などの五・七・五というリズムはこの「拍」で作られています。つまり、音節を使用する文化圏の人たちとは根本的にリズムの取り方が違うわけです。

英語が得意ではない日本人が、英語を聞いたときにあっという間に通り過ぎるように感じるのは、捉えようとしているリズムが根本的に違うからです。

そして、韻は音節と密接な関係があります。音節単位で響きを合わせるのが韻なのです。

中国語の漢字は一文字で1音節。漢詩も一字(1音節)単位でリズムをとるから韻が生きるわけです。ちなみに同じ東アジア文化圏の韓国語にも音節の概念があり、ハングル文字1文字で1音節です。

これに対して日本語には音節がないため、日本人は訓練しなければこのリズム感覚を身につけることはできません。

逆に言えば音節を意識すれば劇的にヒアリングが向上しますし、発音も上達します。

…ここまで、日本人は韻に無頓着とか言ってきましたが、実は日本にも古来から韻を踏む試みは行われています。

万葉集の歌なんかを見ても韻を踏む努力が見られます。

ただし、音節の概念がない日本語ではいまいち相性が悪く、それほど定着していたとは言えません。歌謡曲などでも日本語で韻を踏もうとした形跡のある歌詞がちらほらありますが、聞き手にあまり意識されることはなかったと思います。

日本語の歌詞は1音節に1拍かせいぜい2拍しか乗らない上に、文末が基本的に「述語」で終わるために元々音韻が似通っており、韻を踏んでもインパクトが低いわけです。

しかし、今から20数年前に日本の音楽界にある革命が起きました。

1990年代後半に次々とメジャーデビューしたHIP-HOPミュージシャンたちによる日本語ラップの韻の登場です。

私はこれらの曲を初めて聞いたとき、鳥肌が立つほど感動したのを覚えています。体言止めを使って3~4拍で1音節のリズム内にはめ込み韻を踏む。まさに革命でした。

これ思いついた人はマジで天才。

おかげで今では日本人の多くが「韻を踏む」という概念とその美しさを正しく理解できるようになったはずです。

国語の先生も「押韻って何ですか?」という生徒に対して「ヒップホップのあれや」というだけで簡単に理解してもらえるでしょう。私なら間違いなくそう教えます。

HIP-HOP音楽のリズムに乗せて英語の発音の勉強をすれば、上達も早いかもしれません。

HIP-HOP最高!というお話でした。

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