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《木曜会:4月25日》

ヒゲの男は、木曜会前日の水曜日(4/24)に有給休暇をもらった。

読みかけの本が幾つもある、手を付けられていない本も幾つかある。アテネを経てビザンチン帝国(東ローマ帝国)において発展した、西側とは異なるキリスト教(東方正教会)はどのようにして、現在の版図にまで辿り着き広がったのか。

これについては、哲学者の清眞人氏が新著「新ランボー論」を上梓されるにあたり、新著の論評を個人的にヒゲの男へ依頼したため、改めて東側のキリスト教について学んでおく必要があった。フランスの詩人ランボーはヒゲの男にとって憧れの対象でもあり、心が躍る。

清眞人 (1949 -  )
日本の哲学者、元近畿大学教授

心が躍ったが、依頼が年末だったこともあり結局のところ東側のキリスト教については、きちんと勉強する時間がなかった。もちろん言い訳である。

次に「秘島図鑑」という本もまだ読了していない。この本は日本にある秘島についての歴史的な背景などが簡潔にまとめられており、また『秘島』の定義もユーモアがあって楽しい。わかりやすい。

【秘島】——。
①リモート感がある
②孤島感がある
③もの言いたげな佇まい
④行けない。島へのアクセスがない
⑤住民がいない
⑥知られざる歴史を秘めている

清水浩史著『秘島図鑑』より引用

ふと、立ち読み程度の気持ちで本屋でパラパラとページをめくっていたのだが、最初に飛び込んできた「南硫黄島」の様相にヤラれてしまい、この本を誰にも渡すものかという勢いでレジに進んだ。ゴーギャンの人生を知ってからは、人工的・因習的な何もかもから脱却している南海の孤島について興味深々だからだ。

南硫黄島
ポール・ゴーギャン (1848 - 1903)
フランスのポスト印象派の画家。

ちょうど香川県の実家に帰省したタイミングだったので、暇を持て余すくらいなら本でも読もうと意気揚々であったが、子供たちが炭火でマシュマロを焼きたいとか、ピザ窯のあるピザ屋に連れて行けとやかましいので、読書は中途半端なままストップしている。もちろん言い訳である。

前置きが長くなったが、つまり、このように読了されていない本たちの阿鼻叫喚がヒゲの男に向けて日毎に大きくなるので、有給休暇を取得して一気に成就してやろうという算段だった。

ただ、火曜日(4/23)にアラタメ堂のご主人からまた正雀に来てくれと指示され、ギターを担いで吹田まで行き、散々に泥酔したので水曜日は20時間くらい寝た。結局、どの本にしても1ページも開かれずに放ったらかしにされていた。

さて、木曜会——。

19時頃、木曜会が行われるコロマンサへ入店すると、冷泉はすでにいる。そして、木曜会とは全く関係のない「カイチョー」と呼ばれる老人がいる。カイチョーはヒゲの男が入店と入れ替わるように退店するが、会計のとき一万円札を出す。

「う~ん、お釣りあるかな」(万作)
「ああ、ええよ、釣りは取っておいて」(カイチョー)
「いやいや、嬉しいけれど、そないな訳にはいきません」(万作)
「取っておいたらええのに」(カイチョー)

この日本中いたるところで行われているであろう定型文を二人は繰り返しながら、最後に「きちんとお釣りはカイチョーさんに返しますんで」と万作はなぜかヒゲの男と冷泉に向けたように言う。

ヒゲの男と冷泉は心中「何のアピールやろ」と感じたが、なるほど、万作はカイチョーを階下まで見送ってきますと言いながら、一万円札を自分のズボンの左ポケットにこれでもかと言わんばかりに押し込んでいた。客を見送り店内に戻ってきた万作の嬉しさを図られまいとかみ殺す表情が、なんらか思いも寄らぬ神の奇跡を享受した人間のそれと同じに見えた。

しばらくして、VR空間クリエイターのMYO君がやってくる。多様なユーザーが彼の創り上げた世界の中で、ユニークな体験をしてくれることがホントに嬉しいと言う。映画『ラスベガスをやっつけろ』に登場するジョニー・デップ(デューク役)のような外見で、邪気のない目で自分の夢中になっていることを語る彼は精霊のようである。

映画『ラスベガスをやっつけろ』
(原題: Fear and Loathing in Las Vegas)
1998年制作のアメリカ映画である。テリー・ギリアム監督。

そして、酒を持ってWEBディレクターのアラタメ堂のご主人もやってきて、その後に続くように常連の不思議な女もやってくる。冷泉はここで義理事を果たすために、一旦、木曜会を抜ける。ヒゲの男、MYO、アラタメ堂のご主人、常連の不思議な女でテーブルを囲み・・・何の話しをしていたのか全く失念してしまった。

小一時間ほどして冷泉がCEOシゲオを伴いコロマンサに帰還する。聞けば、ミナミにある『Fラン』という店に顔を出すのが義理事だったようであり、そこでCEOシゲオと迎合し、木曜会へ戻ってきたと説明してくれた。

データプロバイダー会社のCEOシゲオと冷泉はコロナ前まで、都内のマンションを共同で利用していたという。ただ、活動時間が重複することはあまりなかったそうだ。というのも、シゲオが朝起きると泥酔した冷泉が床に転がっている。ミネラルウォーターのペットボトルも散乱している。シゲオが夜にマンションへ帰宅すると冷泉は外出していないというわけである。

ただ、一度だけCEOシゲオが冷泉に立腹したことがあると教えてくれた。

話しはこうである。出るはずのない高層階のマンションの部屋にゴキブリが出たのだ。シゲオは仮説を立てる「誰かが連れ帰ってきたのではないか」。むやみに路上で寝転んだり、やたらに草むらに倒れこんだりしたまま、部屋に戻ってくるような男はいないかと考えた結果、IT参謀の冷泉が犯人なのではと推理したという。

人類にとっての不倶戴天の敵を招き入れたであろう冷泉はその話しを聞きながら「あ、それは多分、ボクですね」と素直に認める。

またある日は、冷泉自身の虫の居所が悪い日があった。タイミング悪くその日、NHKの徴収員がマンションのインターホンを押してしまい、冷泉の怒りが爆発して、NHKの人間を殺そうとしたそうだが、CEOシゲオが静止したという逸話を教えてくれた。

「まあまあ根性あるヤツやったな」とシゲオは冷泉に当時のことを伝え、冷泉もまた「そうなんです、アイツ根性ありましたね」と思い出を振り返る。事の顛末として彼ら2人がNHKの料金を支払ったのかどうかまでは野暮なので聞かなかったが、唐突に根性が試される仕事はイヤだなとヒゲの男は思った。

木曜会メンバーであるファラオも一時期、大阪から遠く離れた地でNHKの徴収員をしたことがあり、職務遂行中に訪問先の人から殴られた経験があるという。かわいそうに。

木曜会の最後は、常連の不思議な女がCEOシゲオに対して「雇用側と被雇用側のギャップ」を詰問するカタチで終わっていった。ヒゲの男はこの面倒くさいワリに得るもののない質問に対して、律儀に付き合っているCEOシゲオの人柄の良さを理解した。

次回は、5月2日の開催となります。是非ともご参加ください。

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