羽生結弦さん離婚発表を巡るモヤモヤ3つ
羽生さんが離婚を発表して以来、ずっとモヤモヤしている。問題提起、という意味で、そのモヤモヤの中身を披瀝しておきたい。
誰が、何をしたのか
1つは、誰が、何をしたのが問題なのか、という事実関係が判然としないことである。
羽生さんのメッセージによれば、「様々なメディア媒体」による「誹謗中傷やストーカー行為」と「許可のない取材や報道」が問題なのだという。
「様々なメディア媒体」とは何か。そもそも「メディア」とは「媒体」のことで、この同語反復に、彼がどういう意味を込めたのかが分かりにくい。もっぱらテレビや週刊誌などの取材を問題視するなら、「マスコミ」「マスメディア」と言っただろう。わざわざ、こういう表現をしたのは、むしろYouTubeを含むSNSでの発信を問題にしたかったのかもしれない。いずれにしろ、はっきりしない。
にも関わらず、ネットでは「マスゴミ」など口汚い言い回しも含め、マスメディアへの非難が飛び交う。テレビで「メディア加害」に言及するジャーナリストもいた。
また、「誹謗中傷やストーカー行為」と「許可のない取材や報道」を並列させているのも、状況を分かりにくくさせている。「ストーカー行為」はともかく、「誹謗中傷」と「取材や報道」とは相当に乖離がある。羽生さんを苦しめているのは、誰のどういう行為なのだろうか。
週刊誌が悪い、という言い方をする人もいる。かなり執拗な取材をする人がいるのかもしれない、とは思う。ただ、週刊誌にもいろいろある。行き過ぎた「加害」をしたメディアについては、その名称を具体的行為とともに明らかにした方がよいのではないか。
取材・報道に「許可」は必要か
モヤモヤその2は、羽生さんのメッセージが発せられて以降、「許可のない取材や報道」を当然のごとく悪と決めつけて非難する言説が飛び交っていることだ。
果たして、取材や報道には「許可」が必要なのだろうか?
記者会見への出席や特定施設に立ち入る際に、主催者などの許諾が必要な場合はある。また、インタビューなどは、本人の同意がなければできない。
にもかかわらず、大勢の取材者が事件の渦中の人の所に押しかけ、かなり強引にコメントを求めるメディアスクラムなどの問題がある、ということは否定しない。メディアの側も批判を受けて、最近はメディアの側も現場で記者が協議して、代表者が取材を申し入れたり、代表取材という形を提案しするようなことも行われている、と聞く。だからといって、問題のある取材がなくなったわけではないし、取材する側とされる側の意思疎通がうまくいかないケースもあるだろう。これは、こうすれば絶対間違いない、といった正解はなく、読者・視聴者の「知りたい」に応えながら、取材対象者やその周囲にできるだけ負担を強いることなく、ましてや人権侵害を引き起こすことがないよう、たゆみない努力や工夫が必要だ。
そのうえで言うのだが、取材を受ける気持ちがあるかどうかは、打診をしてみないと分からない。たとえば事件の被害者などは、その直後にはそっとしておいて欲しい人が多いと思われるが、やりきれない思いを吐露した人もいるかもしれない。また、時期によって、思いは変わることがある。当初は何も語りたくなかった人でも、時間が経つにつれて伝えたいことが出てくる、ということは、よくある。また、テレビは嫌だが、ペン記者なら話す、という人や、その逆もありうる。特定の記者には語りたいが、他はお断り、という人もいるだろう。
そういう個々の心情やその変化を考えれば、事件直後に断られた人にも、少し時間を置いて、再度の打診をするということはありうるし、これを非難すべきではない。インタビューの打診も取材の一環であり、それをするために様々な事実をあらかじめ取材することもある。
また、事柄によっては、当事者が望まない私事を、読者・視聴者の「知りたい」に応えることを優先して、報じる場合はある。芸能人やスポーツ選手、政治家など著名人の交際、離婚、不倫、隠し子、あるいは過去の不祥事などを巡る報道の大半は、そうではないか。
当人の「許可」がなければ取材も報道もしてはならない、となれば、メディアは本人が望む情報だけを拡散する宣伝媒体としか機能しなくなる。実際、旧ジャニーズ事務所はそのようにメディアをコントロールしようとし、一部メディアを除いて、それに従っていたのではないか。その結果がどうか、私達は目の当たりにしたばかりだ。
不倫などの当事者をメディアが一斉につるし上げるような事態は、決してよいとは思わないし、そういう時のメディア批判は必要だと思う。いわゆるパパラッチなどと称される、度を超えた追っかけ取材なども同様だ。けれども、一般論として「当事者の許可のない取材や報道」を禁じるという発想は、メディアや取材者の独立性を奪い、報道の自由を失わせるものでもあり、とても危ういと思う。
羽生さんの場合は、結婚の事実は伝えたいが、妻となった女性については一切触れてほしくなかったのだろう。ただ、これだけのスターだ。国民栄誉賞も受賞しており、ただの一私人とは言えない。その結婚相手を「知りたい」と思う人たちはそれなりに多いのではないか。メディアがその社会的関心に応えようと取材するには、夫の許可が必要という考えには、私は与できない。
もちろん、取材のやり方には、倫理や人権にかなったものである必要があることは言うまでもない。だからこそ、誰が(どのメディアが)どのような行為をしたか、ということを明らかにした方がいいと思う。
プロの力を借りよう
モヤモヤその3は、いきなり離婚という唐突感だ。羽生さんは、相当に辛い思いをしていたのは間違いないと思う。ただ、メディアの加熱取材があったり、ストーカー行為に及ぶ者がいたりして苦しめられているのだとしたら、弁護士などのプロに対応を相談し、それによって自分たちの生活を守るという道もあったのではないか。
今回のメッセージ文を読むと、冷静な第三者の手が入っているようには思えない。誹謗中傷と報道を並列させるところもそうだし、通常は、外部に発信する文で、自分の「妻」を「お相手」などとは書かない。
それだけ羽生さんが動揺し、混乱している、ということなのではないか。そうであればこそ、自分だけで解決しようとするのではなく、トラブルに対処するプロの助けを得た方がよかったのではないか。
今からでも、遅くないと思う。適切な弁護士を頼み、自身とパートナーの負担を軽減し、そのうえで、どうしたら2人が今後の人生をより幸せに生きられるか、考えてみて欲しい。
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