見出し画像

神奈川大学国際日本学部に入学されたみなさんへ

 入学おめでとうございます。
 私は、4月1日付で国際日本学部の特任教授となり、これから「社会と人間」「メディアリテラシー」「ことばとジャーナリズム」などの講座を受け持つ江川紹子と言います。
 4月になったら皆さんと会えると楽しみにしていたのに、新型コロナウイルスのせいで、授業開始が5月になってしまったのは、本当に残念です。入学式もなくなり、みなさんもさぞや落胆していることでしょう。

 大学が休みとなっても、海外渡航はできず、国内旅行も自粛が求められ、さらには不要不急の外出も控えなければならず、相当にストレスもたまっていると思います。
 このウイルス、当初は重症化するのは高齢者、と言われていましたが、実は若者も犠牲になっています。アメリカでは、カリフォルニア州ランカスターで17歳の少年が死亡。韓国でも17歳の高校生が、イギリスでも21歳の女性が亡くなっています。日本でも大学生が感染し、何人も入院する事態が起きています。
 また、感染しても症状が出ない人が、知らずにいろんな人と接触し、ウイルスを広げてしまう、という問題も深刻です。家族や友達に、自分が媒介(ばいかい)となって感染させ、重い病気にさせてしまう……なんていう事態は、避けたいですよね。
 どうかしばらくの間、友達とはネットや電話でお話しすることにして、できるだけ家で過ごしてください。

この時期をどう過ごすか

 でも、退屈ですよね。
 せっかく大学に入ったのに、この時間をどのようにして過ごしたらいいんだろうか…と分からずに悶々(もんもん)としている人もいるでしょう。
 国際文化交流学科の先生方が、そんな皆さんのために、「新入学生向けの勉強法の紹介」を作り、大学のホームページにアップしました。ぜひ参考にしてください。

 ここでもいろいろな本が紹介されていますが、たっぷり時間があって、暑くも寒くもなく、外出も控えたい今は、読書にうってつけです。長い人生を考えると、こんなに何にも気兼ねすることなく本を読める時期は、そうないかもしれません(日本文化学科歴史民俗学科でも先生方が選んだ推薦図書が紹介されています)。

私のお勧め

 私は、夏目漱石の『私の個人主義』をお勧めして、リストに入れていただきました。文庫本もありますが、すでに著作権が切れているので、スマホなどで無料で読めます。「私の個人主義 青空文庫」で検索してみてください。

私の個人主義

 この作品は、漱石が1914年(大正3年)11月に、学習院の学生に向けて行った講演の速記録をまとめたものです。若い人たちに向けて語りかけているので、難しい言葉も少なく、とても読みやすいです。それほど長くはないので、すんなり読めると思います。
 なのに中身は濃いです。みなさんにお勧めするに当たって再読しましたが、時代を超えて大切なこと、というより、今の時代にこそ必要な、私たちが考えておきたい事柄が詰まっているな、と感じました。読み直して、再発見もありました。皆さんにとっても、この困難な時代をどう生きるか考えるうえで、大事な手がかりが見つかると思います。

文豪にも”ツッコミ”を

 とはいえ、100年以上前の語りなので、現代の私たちの価値観からすると、違和感を覚えるところがあっても当然です。そういうところがあれば、遠慮なく、「漱石先生、そこは違うんじゃない?」とツッコミを入れてみてください。
 権威ある人や機関の言うことにも、疑問を持ち、ツッコミを入れてみるのは大事です。これからの大学の勉強では、そういう疑問力、ツッコミ力が大切になってきますから、準備運動のつもりでどうぞ。

予習したい人のための宿題

 私が受け持つ授業でも、この作品を取り上げるつもりです。
「え?!日本文学の講義でもないのに、なぜ?!」と不思議に思うかもしれません。その答えは、授業が始まってからのお楽しみ。
 予習をしておきたい、という人もいるでしょうから、そういう方のために宿題を出しておきますね。

(1)漱石が講演の「第一篇」で述べていることの要旨を、あなたの言葉でまとめてみてください(字数自由)。
(2)この講演で漱石が語る「個人主義」の反対語は何ですか。あなたがその言葉を選んだ理由と共に、100~200字で書いてください。
(3)読んでいて、漱石にツッコミを入れたくなった場所があれば、その理由と共に教えてください(字数自由)。

 授業が始まったら、ぜひ皆さんの考えを聞きたいと思います。

しっかり手を洗って、5月に会いましょう

 繰り返しになりますが、ウイルスに関しては「自分は大丈夫」と思わず、移動や人との接触をできるだけ避け、よくよく手洗いをして、一日一日を過ごしてください。
 手洗いは、本当に効きます。私は例年、2月に風邪をひき(時にはインフルエンザにかかり)、3月下旬までひどい咳に苦しむのですが、今年はせっせと手洗いしていたら、なんと一度も風邪をひかずに今日まできました。こんなことは何十年ぶりでしょうか。最初は「手洗いなんて…」とバカにしていたのですが、今ではその効果を確信しています。
 一人ひとりが精一杯、感染しない、感染させない努力をして、5月には元気に教室で会いましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?