末尾「9」の2019年は、歴史的な転換の年になる……か。

 「末尾『9』の年には変動が起きる。2019年は、歴史的な転換の年になるだろう」――憲法学者の水島朝穂・早稲田大学教授がご自身のホームページで、そんな”予言”をしているのを見て、改めて世界史の年表と教科書をめくってみた。

 なるほど。確かに世界を変える、あるいは現在に大きな影響を及ぼす変動が、「9」の年にはいくつも起きている。

あれから100年

 今年は、様々な100周年がある。
 1919年6月、第一次世界大戦の戦勝国とドイツとの間でヴェルサイユ条約が結ばれた。そして7月にはワイマール憲法が制定されて、ドイツ共和国が成立する。
 ヴェルサイユ条約でドイツは、すべての海外植民地と権益を放棄させられた(山東半島のドイツ権益は日本に与えられた)。アルザス・ロレーヌはフランスに返還し、バルト海に通じる地域はポーランドに割譲。ザール地方は国際連盟の管理下におき、炭鉱の採掘権はフランスが有するなど、ドイツは国土の7分の1、人口の10分の1を失った。さらに、戦争責任はドイツにあるとされて、多額の賠償金支払いを課せられた。
 この過酷な条約に対するドイツの人びとの怒りと不満が、後にナチス・ドイツの台頭につながる。

 ワイマール憲法は当時、最も民主的な憲法と言われたが、その一方で民意を反映させる選挙制度が小党分立状態による政党政治の混乱を招き、ナチスの台頭を許した。首相となったヒトラーは、憲法の大統領緊急命令権と議会解散権を利用して独裁体制を築いた。

アジアでも

 この1919年には、アジアの各国では独立運動が始まる。3月1日に京城(現ソウル)で「独立万歳」を叫ぶデモが始まり、たちまち朝鮮全土に広がった(三・一運動)。4月には、独立運動諸団体を統合し、上海で大韓民国臨時政府が結成された。

 同じ年に、中国では排日・愛国運動(五・四運動)が、インドではマハトマ・ガンディーが率いる対英不服従運動が始まる。
 今年は、こうした出来事の100周年に当たる。
 韓国でも、改めて独立運動の歴史が見直され、愛国心が燃え上がり、慰安婦問題や徴用工裁判、さらにはレーダー照射問題を巡って日本との関係がぎくしゃくしている日韓関係にさらに影響を与えるかもしれない。
 実際、三菱重工業を相手取って裁判を起こしていた徴用工訴訟の原告は、3月1日に差し押さえ手続きに着手する方針を明らかにした、と報じられている。こういう記念日を利用して、韓国国内での注目を集めたいという事情もあるのだろう。

90年前、そして大戦へ

 10年後の1929年10月24日、アメリカ・ウォール街での株暴落(暗黒の木曜日)を機に、世界恐慌が始まる。資本主義の各国は、恐慌から抜け出すための策を模索する中で対立を深めていく。
 そして1939年9月1日、ドイツ軍のポーランド侵攻で、第二次世界大戦が始まった

東西冷戦、そして中国

 戦争終結から4年後の1949年。東西冷戦と呼ばれる緊張状態が厳しくなる中、ドイツのベルリンは東西に分断される。5月にボンを首都にドイツ連邦共和国(西ドイツ)が、10月に東ベルリンを首都とするドイツ民主共和国(東ドイツ)が成立した。
 アジアでは、国民党軍と共産党軍の内戦が続いていた中国で、共産党側が勝利。毛沢東を主席、周恩来を首相とする中華人民共和国を設立した。つまり、中国は今年が建国70周年ということになる。ちなみに建国記念日は10月1日。国民党の蒋介石は台湾に逃れ、ここで中華民国政府を維持した。
 以後、中国は、「台湾は中国の一部分であり、中華人民共和国政府が全中国を代表する唯一の合法的政府である」とする「一つの中国」を国際社会に対して主張している。
 当初は中華民国と国交を結んでいたアメリカは、キッシンジャー国務長官の訪中で方針転換し、ニクソン大統領の訪中で共同声明を発表。1979年、正式に米中が国交を樹立した。これによって、アメリカは台湾の中華民国とは断交する。
 なお、1979年にはソ連がアフガニスタンに軍事侵攻した年でもある。国際社会の批判を浴び、翌年のモスクワオリンピックをボイコットする国(日本を含む)が相次ぐなど、ソ連の権威が大きく揺らぎ、ソ連崩壊の起点となった。また、現地で抵抗するゲリラ組織から、イスラム原理主義集団タリバンが生まれ、後のアルカーイダなどイスラム過激派のテロが世界を震撼させる源になった。
 この年は、イラン革命が発生。テヘランのアメリカ大使館占拠事件が起き、両国は今に至る敵対関係に陥る。中国の経済発展の基礎となった鄧小平による改革開放、イギリス・サッチャー政権による新自由主義政策など、この年は大きな時代の転換点となった。

あれから30周年…

 今から30年前の1989年。なんと言っても大きいのは、ベルリンの壁崩壊(11月)。そして12月、ブッシュ(父)米大統領とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長によるマルタ会談で、44年間続いた東西冷戦は終結した。(下の写真はphotoliabraryより ベルリンの壁)

 そしてこの年には、中国で民主化を求める学生や市民に対して当局が武力で弾圧した天安門事件(4月)が起きた。今年は、この事件からはや30周年。豊かに、強くなった中国だが、言論・表現の自由という点では、あの時代からどれほど変わっただろうか…。
 日本では、昭和天皇が亡くなり、平成が始まった年。オウム真理教が、初めて教団外部の者を殺害した坂本弁護士一家殺害事件もこの年に起きている。

「大王」は現れなかった

 1999年7月。人類は滅亡せず、地球は滅びなかった

 2009年、アメリカではオバマ大統領が就任し、チェコのプラハで「アメリカ合衆国は、核兵器のない世界の平和と安全を追求する」と演説。核なき世界への希望から、ノーベル平和賞を受賞した。
 10年後の今、米国はまるで逆の方向を向いているようである。
 この年、日本で行われた衆議院総選挙で民主党が勝利。政権交代が起こり、自民党が下野した。

そして今年

 さて、今年2019年である。
 米中の対立は予断を許さない。
 そして米トランプ政権は、同盟国にとっては頼みの綱的存在だったマティス国防長官が去って、どこへ向かうか分からない。
 日本では7月に参議院選挙が行われるが、ダブル選挙になるという噂もある。結果は憲法問題にも大きく影響する。
 数十年後、この年を「歴史的な転換の年だった」と振り返ることになるのだろうか。できれば、よい方向への「転換の年」にしたいと思うのだが。

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