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はっきり無駄と言えないから困った。

十分に余裕をもって準備したつもりだった。
別に誰かと約束はしていないのだから何時に家を出ても良いのだけれど。
ずっと欲しいと思っていた靴の実物を見るべく外に出る。先ほどまで降っていた雨も、さあ!今出るべきですよ!と言わんばかりに道を開かせた。
髪を巻き、いつも着ないような、ちょっと大人っぽい服を身にまとい外に出る。晴れ間は見えないが、心は晴れ渡っていた。

想定外なことが生じる。
本来乗るべきバスが目の前で悠々と走り出しているではないか。ちなみに家とバス停までは、(想定)2分で着く。駆け出す。走れ!走れ!


次のバスは30分後だそうだ。
まざまざと田舎を見せつけられてしまった。切れた息だけが、ぽつりぽつりと人のいるバス停に谺する。早くこんなところから出たい、という思いが加速するのも無理はない。
30分も待ってられないため徒歩で駅まで移動することにした。

バカだと言わんばかりにぽつりぽつりと雨が私の頭を叩いてくる。トボトボと、本来時速60km/hで走るはずだった道をゆっくりゆっくり進んでいく。あまりにも湿度が高い。じんわりと汗が滲む。汗をかくのは困るので気合いで引っ込める。感じ方の問題だ。中村さんそのおかげでなんとか心が折れずに駅まで歩くことができた。30分後のバスが駅に到着する前に着けたので勝ったとすら思った。たかが150円。されど150円。使い方次第で世界がハッピーに、である。

駅に着く。
改札を抜ける。
目の前の電光掲示板を見る。
現在の時刻とぴったりの数字が広がっている。
たくさんの人がこちら側に押し寄せる。波にもまれ振り出しへ戻る。
またも、目の前でチャンスを逃してしまった。この汗が暑さのせいなのか、冷や汗なのか、定かではない。

ようやく目的に着く。
こんなにも苦労して着いたため、達成感というか、ようしパパ今日は張り切ってなんでも買ってやるぞ、といないパパが心で腕を回していた。
確か2階。嬉々としてエスカレーターで登る。楽しみだ。楽しみだ、という表現では収まりきらない。誰か新しい語彙を開発して欲しいものだ。

地下1階、1階、2階、3階…
ちょっと待ってくれ。店は2階なはず。おかしい。
4階、3階、2階、1階…
私が数の数えられないアホアホ税理士なわけではない。そもそも税理士でもない。
2階が改装中という巨大シャッターで閉められており、そもそも2階に降り立つことができなかったのだ。そんなこと、ただの一言も言っていなかった。私はSNSストーカーをやっているのだが、お店の公式Twitter(新:𝕏)も、その建物自体のHPにも、一言も書いてなかった。あまつさえ【営業中】の文字をまざまざと掲げていたのだ。

悔しい、悔しい!そんな仕打ち、あってたまるものか!!
もういいもん!あたし違う部屋(店舗)行っちゃうもんね!と、フラグを立てつつ他の店舗へ赴く(都会に出ていたため徒歩圏内に同じ店がある)。

雨がやや強くなってきた。
傘をさしている人もさしていない人もいる。おじさんが傘をさしているので雨が降っているのだろう。おじさんの傘は信用に値する。なぜなら少量の雨ではささないからだ。若者はダメ。晴れてても雨傘をさす奴らばかりだ。

違う店舗に着く。良かった、ここはやっている。
『お兄さんが何色の靴下を履くかによりますね!ハハハ!靴ってそういうところありますから!ハハハ!』
声のでかいラテン系の若い男の店員と、自然界において生成不可能なピンク髪をしたお姉さんに圧倒されるが、本来の目的を果たすために足を踏ん張った。
が、本当に欲しいのは見つからず。特に目ぼしいものもなし。撤退、撤退。ここに来るにはまだ修行が足らんかったのだ。
もう少し行った先に、また別店舗があるのだが、あまりにも雨が酷くなってきたため初期位置に戻ることにした。雨なんて天気の時に、外に出ていいわけがない。ありえない。おかしい。かろうじてサンダルだったため足元のびちゃびちゃは気にしないで済んだが、せっかく巻いた髪の毛は元に戻るどころか四方八方羽を伸ばしている。雨は髪の毛を自由にする力を持っている。

戻ってから、好きな洋食屋で食べたオムレツとスパゲッティ、クリームソーダが美味しかったのが唯一の救いだ。
しかしケチャップたっぷりでもブロッコリーは苦手だ。苦手なので食べてください、と言える相手と来られていたら、こんな一日も幸せだっただろう。

否、私は生きにくいだけで、断じて不幸ではない。
常に小さい幸せを見つけて生きている。
でも、ちょっと寂しい。

ちょうどおいしくるメロンパンの『あの秋とスクールデイズ』が流れてきた。
情けないな。

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