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続・リアルって何だろう。

インターネットが発達し、ちょいとググると資料がぽろぽろと見つかる時代となった。スケールモデルを作る身としてはいい時代だと思う。いや、勿論「なんでここの写真撮ってくれてないんだ」とか「解像度!解像度が足りない!!」なんていう我儘な気持ちも日常茶飯事ではある。

りっくんランドで撮影した74式。タミヤのキット作ってる時に投光器の配線が分からんってなっていざ自分の撮影したのを見たら撮影してないんだよね…

最近カーモデラーに聞いた言葉で興味深かったキーワードがある。「レーシングカーが一番考証に厳しい」。若干言葉に語弊もあるかもしれないが、なるほどなあと思った。公式がちゃんと写真を撮影していて資料は豊富、同じマシンなのに次大会にはウィングなどの形状が違う、なんだったらスタート前とゴール後ですら違いがある。容易に○○年の○○戦仕様車と特定できてしまう。資料がちゃんとあると厳しくもなるのだなと感心した。

勿論そういうジャンルの模型は他にもあるとは思う。記念塗装を施された戦闘機とか、旅客機なんかも比較的そうなんじゃないかな。艦船模型もそれに近い気もする。通常のカーモデルやバイクモデルなら「俺カスタム」的な遊び方も出来るし、戦車模型だって現用戦車ですらマルチアングルで撮影してる事なんてまずない。ある程度遊びのある模型は存在するとは思う。

スケールモデルを作っている以上は調べて考察して、模型を作る事自体は楽しいし否定もしない。模型と実車のここが違う!とか声を荒げる事はしないが。ただ、僕が楽しむ戦車模型は前述した「遊び心」というものがあると思っている。工場で生産されたプレーンな姿から、部隊に送り込まれてある程度カスタムされた姿、実戦参加車なら出撃する度に変化する姿、修理されて更に変わる姿…どこを選んで作るか、ぐるぐると悩んでしまう。自衛隊車輛の場合はダメージ表現は難しいがリペイントする前のガッサガサに色褪せた姿なんかも面白い。

そういえば以前スピットファイアを作ってる時に機体下面がオイルでドロドロに汚れている写真を見かけて再現したら格好いいだろうなあと思った。これが難しくてなかなかいい感じにならないんだが…それは別の話。飛行機のウェザリングの話になるとよく話題に上がる坂井三郎氏が汚しをリアルに描き込んだ零戦のイラストに対して「こんな整備不良の機体には乗ってない」と憤慨したという話。どっちが正しいという話ではなく、この話のどちらに視点を置いて見てみるかで印象は大きく変わると思う。

写真見ながら描き込んではある。物足りなさは己の技術力不足が原因である。

実際操縦して戦争を生き抜いたご本人の声だから正しい、整備兵に対して失礼だろうという意見はなるほどと思う。当時の写真を読み取って汚れを加えたイラストや模型は史実に則っているとも思える。まあ、この話はゴールはないわけだが(ないのか)、模型だからいいんじゃないかというところで落ち着けばよいと思う。ただ、やっぱり模型的には機体色は退色して、剥げて下地のジュラルミンがむき出しになり、拭き取っても滲むオイルが垂れてしまうギリギリのところで整備して出撃していた機体のほうが「映える」。いや、ロールアウトしたての機体を否定しているわけではないからご了承を。

ウェザリングやダメージ表現は模型的演出として「映える」のは間違いない。ただ勿論実物ありきの話なのであんまりにもフィクションみたいな汚しやダメージは気になる。晩秋のロシアの最戦線で果たしてティーガーの足回りが綺麗だった時があるのだろうかとか、アジアの僻地でパーツの共食いをして生き延びる日本軍戦闘機はきっちり整備出来ていたのだろうか。余談に近いがパンターの側面後部にある予備履帯ラックをどこかにぶつけてひん曲がって持ち上がっている写真が残っているが、アレは模型的に作るとリアルじゃなさそうだなあ。

先日のリオにて出会ったM4。ライトガード、なんかよれよれっぽくも見えるなー。
土浦に展示されているM24。これはライトガードがシャキっとしてる。

靖国神社の遊就館で初めて九七式中戦車を対面した時、ペラペラ装甲で簡単に撃ち抜かれるなんていうのはアメリカ側が実際に戦闘をした経験の話であり、恐ろしく重装甲で大きな姿を目の当たりにすると「これは勝てない」と思った。その後自衛隊のりっくんランドや土浦駐屯地などで戦車に触れる機会があればノックしたり、なんだったら履帯に力を掛けたりしてみた。戦車の装甲はノックしたって音が響くような代物ではないし、連結された履帯は鬼のように重い。フェンダーやライトガードなども手なんかじゃびくともしない。なのに実戦に参加すると戦車砲弾を弾けば装甲表面は抉れるし貫通もする、戦車同士でぶつかってフェンダーが歪む、箱状の装備は簡単にへしゃげる…。ぶつかる相手が何なのかにもよるが、戦車自体の重量や頑丈さによって弱いところは簡単に破損する。

大戦末期の「所属不明のティーガーII」。ifじゃなくて在り得たかもしれないモデリング。

人間の手では蹴ろうが殴ろうが凹む気配すらしないフェンダーが戦闘時には容易に破損するし、モータープールで綺麗にした足回りも未舗装地面に出たら瞬間泥まみれだ。備品も人員も何もかも欠乏したWW2末期のドイツ軍戦車がどれだけきっちり整備出来たんだろうか。開戦直後のドイツ軍は意気揚々と輝く白十字を掲げて舗装路を進軍していたのだろうか。シチュエーション次第では色々表現する事が出来る。勿論ポーランド戦のII号戦車が草原を走り白十字に黄色を塗り、1か月後には使い込まれた姿になるだろうしゼーロウ高地に新品のパンターだって届けられていた筈だ。自衛隊車輛を作る時、洗浄もきっちり行いメンテナンスも行き届いている姿も演習時の装備品満載で擬装テンコモリで泥だらけの姿もどっちも「リアル」な筈。ロシア戦線でも半恒久的な修理設備があれば新車のように磨かれたティーガーIがいただろうし、その横に最前線から届けられたボロボロのティーガーも居たはず。どちらも「在り得た姿」だ。

フィンランド軍仕様のKV-1E。資料と照らし合わせ改造している。

こういう事を考えながら「リアルに見せる」ように模型を作るのは面白い。ただ、界隈的には「そんな簡単に破損しない」とか「汚れすぎだ」とか、そういう意見は見かける事もある。意見は意見として真摯に受け止めていこうと思うが、まあ、相容れない部分もある。「そういう意見もあるよねー」ぐらいの気持ちで気持ちよく模型を作りたいものだ。敵を作りたいわけではないからね。■

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