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舞台「KING OF PRISM」という煌めき

 「私は誓う!貴方との約束を胸に 煌めきにあふれた明日を精一杯生きることを!」

 Tokyo Dome City Hallに響き渡る誓いの言葉。それはマイク越しの音声ではなく、客席から発せられた2000人分の肉声だった。はたから見たら異様な空間かもしれないが、キャストが板の上でプリズムスタァとして生きていたように、私たち観客もあの世界(Area 4989)のファンとして生きていた。舞台「KING OF PRISM」では、ファンも出演者の一人なのである。

突然の公演中止

 日本政府の声明を受け、ライブやイベントの中止が相次ぐ中、今月20日から開幕した舞台「KING OF PRISM -Shiny Rose Stars-」(通称ブタバラ)もまた、3月1日に予定されていた千秋楽を待たずに幕を閉じた。

 発表があったのは26日夜、ブタバラ9公演目の開演直前だった。いつもならば応援上演の説明映像が流れるはずのその時間に、ステージがふっと明るくなった。そして出てきた役者7人を見て客席からは悲鳴のような声があがった。その時点で察していた人もいたように思う。かくいう私も手をぎゅっと握りしめて俯く星元結月さん(西園寺レオ役)の様子を見て、「公演中止」の言葉が頭をよぎった。

 「舞台「KING OF PRISM -Shiny Rose Stars-」は、役者・スタッフ・お客様の安全を守るために、明日以降の公演を中止することとなりました」

 座長の橋本祥平さん(一条シン役)がそう述べると、客席がどよめいた。悪くないはずの橋本さんが申し訳ありませんと頭を下げる様子が劇中のシーンと重なり、余計に胸を締め付ける。「謝らないで〜」「(決断してくれて)ありがとう〜」などといった声援も自然と湧き上がった。

「突然ですがこの公演が千秋楽となります」

 突きつけられた現実を受け入れられないまま、ブタバラ千秋楽は幕を開けた。

 この発表に、これまでブタキンを応援してきたファンの胸は「またしても」という言葉がよぎったことだろう。この日の終演後挨拶では仁科カヅキ役の大見拓土さんが「平坦じゃない道の途中で〜」と歌詞になぞらえて話されていたが、舞台「KING OF PRISM」(通称ブタキン)は、色々な困難にぶつかってきた。あまりの不運に公演中止発表以降、お祓いに行くオタクもいるほどである。

伝説の停電回

 一番最初のトラブルは、舞台「KING OF PRISM -Over the Sunshine!-」の際に起こった。2017年11月3日の大阪・梅田芸術劇場ドラマシティホールでの昼公演の途中突如として、音楽が消え、役者のマイクが切れ、舞台上のライトが一部消えてしまう。「トラブルだ」と、役者も観客もすぐに気づいた。この時私は後方列に座っていたのだが、すぐ後ろの音響卓からはMacの再起動音がしたり、トランシーバーで連絡をとる声が聞こえたりして、気が気ではなかった。

 終演後にわかったことだが、あの時大阪市では停電が発生していた。本来ならば、幕が降りてもおかしくなかった。しかし結論から言えば、ブタキンはそのトラブルをアドリブで乗り切った。

 その判断は一瞬だった。舞台上にいた四人はアドリブで繋ぐという共通認識で演技を続け、すべてはジョージ役の古谷大和さんに託された。場を回せるようなキャラクターなのは彼だけである。そしてその意思は観客にまで以心伝心した。客席のペンライトは一瞬でジョージのカラーである黄色に変わり、「ジョージがんばれ〜!」「できるよ〜!」とたくさんの声援が飛んだのだ。

 ファンの方がその時の様子を漫画にしてくださっているので引用させていただく。

 古谷さんも、千秋楽後のブログでこの時のことを振り返っている。

 そして実はこの話には後日談がある。この日、偶然にもブタキン脚本家であり、映画本編の脚本家である青葉譲こと菱田正和監督が、客席にいたのだ。そしてその体験はそこから約1年半後に放映されたアニメ「KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-」に反映されることとなった。作品を観たファンの間ではあの事件のオマージュではないかと囁かれていたが、以下のインタビューで改めて明言されている。

 これがブタキンを見舞ったひとつ目の困難だが、結果的にはこの回のことはその後も長く語り継がれることとなる。

 その後東京で千秋楽を迎えたブタキンは、長い間新作の発表がなかった。彼らに会えたのは2017年末から始まった「STAGE FES」というエイベックス主催のカウントダウンイベント。その第2回である「STAGE FES 2018-2019」で発表されたのが、ブタキン初のライブイベント「Rose Party 2019 on STAGE」だ。

嵐の中でも夢を見ようエーデルローズ

 「Rose Party 2019」はパシフィコ横浜にて2019年10月12日-13日おこなう2DAYSイベントで、1日目に舞台俳優によるライブ、2日目に声優をゲストに招いてのオーケストラコンサートをするという構成だった。しかし、ここでもブタキンは大きなトラブルに見舞われる。台風19号の上陸だ。

 様々なイベントが中止となっていく中、「Rose Party」の開催についてはなかなか情報が出なかった。地方から遠征予定でそもそも会場にたどり着けるかわからない人も多く、当然ながら俳優さんを心配する気持ちもあって、ツイッターでは不安・不信感・怒りといったネガティブな感情が渦巻いていた。

 最終的に発表された対応は、1日目は無観客公演とし、全編を無料生配信する、2日目は予定通り行うが来れない人には払い戻しをする、というものだった。

 あの夜、私は自宅で放送を観ていたが、始まった途端に涙してしまった。なぜこれを生で観られなかったんだろう、なぜ彼らに声援を届けられないんだろうと悲しくて悔しくてたまらなくなった。声優としても俳優としても鷹梁ミナトを演じる五十嵐雅さんが「みんな、大丈夫だよ」と言ってくれた瞬間、ほっとした気持ちになれたのは私だけではないだろう。

 そんなことがありながらも、ライブ中継では嬉しいお知らせもあった。それが舞台「KING OF PRISM -Shiny Rose Stars-」の開催である。実に2年半ぶりの本公演。ライブで会えなかった彼らに会えるーーそんな待ちに待った舞台が中止となったのは、ファンにとっては本当にショッキングなことだった。

次元の壁を超えるということ

 千秋楽から一夜明けた27日、公式から映像収録がされたという情報がもたらされた。危ぶまれていた円盤化が確定し嬉しい反面、無観客のステージが円盤化するのはロズパに続いて二度目である。またしてもガラガラの会場に立たせるなんて......ファンの悲しみは募るばかりだ。

 しかし考えてみれば、今回とロズパでは状況は違う。誰も声を届けられなかった10月のステージとは違い、ブタバラは観客の前で9回も上演できている。それまで届けた声援とペンライトの光は、鮮明に再生できるくらい、役者さんの心に焼き付いてると信じても良いのではないか。

 私はこれを、まるでファンとスタァの立場が"逆転"したみたいだと感じた。これまではファンが画面の向こうに必死に手を伸ばしてたのに、今度はスタァが画面の向こうの(円盤を観る)ファンに手を伸ばしているからだ。

 応援上演というシステムをとるブタキンでは、自分の応援がスタァに届いていることが肌で感じられる。私たちの声に耳を傾けてくれているのがその表情や言動からひしひしと伝わってくる。ブタキンを通して、私もスタァの力になれてるんだという実感は非常に大きくなった。

 しかし、それなら今まで映画館でしてきた応援が届いてなかったのかというと、そんなことはない。

 夢のないことを言ってしまえば、映画館では発した声が画面の中のスタァの耳に物理的に伝わるわけではないが、届くと信じる心・届けと願う心こそが、応援上映の煌めきだと私は思う。そして私たちはこの応援がまたいつか、次の物語として返ってくることを知っている(ブタキンもそのひとつだ)。スタァとファンの絆は次元と時空を超えた先にある。

 この絆は今回の件にも感じられる。無観客でステージをやりきった役者さんたちは、まるで映画館の私たちのようだ。彼らの放った煌めきは、私たちの目に直接は届いていない。でも、彼らは彼らの中に刻まれた「私たち」に全てをぶつけてくれた。いま目の前にはいないファンにも、絶対に届く。そう信じ、願って全身全霊を尽くしてくれたはずだ。

 そのようなステージは決して寂しいものではなく、むしろ煌めきにあふれていたことだろう。

 というわけで、舞台「KING OF PRISM -Shiny Rose Stars-」のDVD&Blu-rayおよびCDアルバムは6月26日発売です。

2度目の奇跡

 もうひとつ、ブタバラ公演期間中に起きたトラブルについて書き記したい。それは2月24日の昼公演でのことだ。順調に進んでいた物語の終盤で、音響トラブルが起きた。橋本さんのピンマイクが壊れたのである。

 最後のユニットショーの直前、橋本さんの「よろしくお願いします!」が肉声になってしまった時、劇場全体が不安に包まれた。しかし曲はすぐ始まってしまう。

 ユウくんから順番に歌っていき、7番目のシンくんパートがくる。案の定その声はマイクには乗らなかったのだが、その瞬間、観客が歌い出したのだ。奇しくもそのパートは「心配しないで僕らがいる」。別のエリアに座っていた友人に聞いたところ、歌っていたのはそこまで大人数だった訳ではないようだが、あの時、こちらを見て笑顔で頷いてくれた橋本くんには届いていたのではないかと思う。

 今回の公演は、前述の停電事件をオマージュした「Shiny Seven Stars」の話も含んだ内容だったので、劇中に「音響トラブルを観客と一緒に乗り越える」というシーンがある。ブタキン→本編→ブタキンと物語が受け継がれてきた中で、またしてもトラブルが起き、ドラマが生まれたということに感動を覚えた。

 助け合いはそれだけではない。そのあとの誓いの言葉のシーンでシンくんの時だけBGMをぐっと下げ、橋本さんの肉声を届けてくれたのは音響さんのファインプレーだ。マイクなしの大声で誓ってくれた橋本くんは、最後のシーンではフットマイクに近づくため、自然な演技で(ここだけの話、普段の演技より怖かった)舞台前方に座り込むという神業を見せた。そして残りの6人も、歌の間中ずっと橋本さんを支えようと気を配っていた。香賀美タイガ役の長江崚行さんは、自分のマイクを使えるよう近づいてくれた。『Shiny Heat Beat』内のシンくんのセリフ「笑顔を届けよう」は、橋本さんんのアイコンタクトを汲んだ6人が一緒になって叫んでいた。あの日私たちが目撃したのはキャストの絆であり、セプテントリオンの絆だった。

 このようなトラブル時に特に浮き彫りになることだが、ブタバラでは毎公演のパフォーマンスの熱量、日替わりの安定感、日々ブラッシュアップされていく演出など、いたるところに"絆"が感じられた。キャスト同士はもちろん、キャストとファン・キャストとスタッフ・そしてキャストと演じているキャラクター......たくさんの絆が絡み合い、織りなす煌めきのステージは、唯一無二の世界だ。

 26日の千秋楽後の挨拶で、五十嵐さんが「不謹慎かもしれないけど正直ほっとしました」と言っていた。そして「この気持ちをこのままにしておくなんてできない!運営〜〜!!!!!」と、観客も一緒に叫ばせてくれた。この挫折が、"次"を生み出す原動力になると信じたい。

 …というわけで、舞台「KING OF PRISM」という物語の記録でした。長くなりすぎてしまったので、本編の感想はまた投稿します。ブタキンに関わる全ての関係者のみなさま、劇場に足を運んだみなさま、劇場の外から応援していたファンのみなさま、全ての方に感謝です。




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