北浜礼の8月末日〔再録。企画用③〕

奈美のママはPTA会長だ。
他のお母さんはそんたくする。
お母さんどうしにそんたくがあると、こどもどうしもなんとなくそんたく。
理々が転校してくまで、わたしも奈美にそんたくしてた。
理々をみんなでシカト。
理々はかんぜんにこりつした。

理々はもういない。
いなくなって初めて気づいた。
今はわたしが弱者だ。
奈美は理々がだれにも言いつけないからいじめてた。
わたしもどっちかっていうと言いつけないほうだ。
だってみんなと仲良くしたほうが楽しいじゃん。
でもだから、今度はわたしがひょうてきになった。
最初はみんながわたしを小突いて通るようになり、小突きは足のひっかけに変わり、ものかげでのでこぴんやつねりに変わり、かばんもたされ、おごらされ、ゲームのソフトもとられた。
とられたことがわからないように、ソフトはお店で補充した。
お小遣いもお年玉も、補充ですっからかんになってるのに、奈美は言った。

あと、あれとあれとあれがほしいなー。

お母さんにないしょで、おばあちゃんに電話して、おねだりしたけど、おばあちゃんは、さすがに三本はだめだよってお母さんに伝言して、わたしはお母さんにこっぴどくしかられた。

今は夏休みだ。
コロナで日数が減ってるとはいえ、夏休みは学校へ行かないですむのでありがたい。
でももうそれも今日で終わる。
明日は学校で、学校には奈美がいる。
わたしは奈美がこわい。
奈美さえいなければ、まなつも樹菜もわたしとふつうに話してくれる。
でも奈美が来たら、そく知らん顔。
だれもわたしのがわには立ってくれない。
おこづかいも底をつき、お母さんやおばあちゃんの信用もなくなった。
いやだもう。

夕方になっても夜になっても、
家に帰る気にならない。
このままどこか行ってしまいたい。
とぼとぼ歩いてると、交番の前にさしかかった。
おまわりさんが番立ちしてて、私をみて、にこっと笑った。

おつかい?
一人で大丈夫かい?

一人デ

大丈夫

カイ?

エコーした。
何度も何度も何度も。
そしてわたしはついにことばをしぼり出した。

大丈夫じゃないです!!

わたしはその場にしゃがみこんで泣き出した。

どうなったかはごそうぞうにおまかせする。
ただその晩は長い長い一晩になったとだけ言っておく。

それでも地球は回っている