魂の映画たち〔再録〕

私の魂の映画といえば、『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)。
監督はロナルド・ニーム。
転覆した客船から、自力で脱出しよう、させようという小集団の、生存の戦いの物語。
ジーン・ハックマン、アーネスト・ボーグナインらの一徹、レッド・バトンズ、シェリー・ウィンタースらの、弱者の頑張り。
励まされる映画であるとともに、さんざん観たから、とBGV代わりに流しながら家事してると、シェリー・ウィンタースが死ぬあたりにはもう泣きながら画面の前に正座してしまう。

こんないい人を・・・
なぜ生かしておかない・・・
なぜ殺す・・・

と泣くジーン・ハックマンと一緒に泣いてしまう。
神父である主人公が、命を捨ててみんなを守るとき、傷心の警察官もまた立ち上がる。
ある雑誌で映画の続編を書いてみよう、という募集があったとき、アーネスト・ボーグナイン(妻を失った警察官)のその後を描こうと思ったのだが、参考に本編見始めたら・・・
やっぱりただもう泣いて終わった。

こういうヒトアツの映画と、端正なホラーが好きなのです。

ヒトアツの映画とは

たとえば『セージ』(邦題「十字架刑事」。1970年)』。
監督はリチャード・A・コーラ。
厳密には映画でなく、テレフューチャー。
シリーズもののパイロット版だったらしい。
元刑事の神父が人々を救いつつ、自らは妻の死の謎を解くために動き続ける話で、主演のジョージ・ケネディも、先輩神父も日本人も子連れ女性も、犯人すらよかった。

たとえば『十二人の怒れる男』(1957年。主演はヘンリー・フォンダ)と『評決』(1982年。主演はポール・ニューマン)。
ともに監督はシドニー・ルメット。
名作揃い、のような、そうでもないような監督ですが、この二本は特にすき。
陪審員裁判の“夢”がここにある、ってな感じの二本です。

たとえば『普通の人々』(1980年)。
監督は、“あの”ロバート・レッドフォード。
親の偏愛についての映画であり、毒々しくはないのにすごかった。

人が人であることをありがたく思えたりする映画。
それがヒトアツの映画だと、私は思っています。

端正なホラーとは

うまくは言えないけど・・・
ただただふざけるためでなく、りんと状況に立ち向かう感じ・・・
とでも言うか・・・

何本か挙げておくと、

一本は、ジョージ・C・スコット主演の『チェンジリング』(1980年)。
妻子を失ってから移り住んだ屋敷に現れる幽霊。
その正体がわかってきて、男は真実を知ろうとするのだけど、誰も、当事者も、真実を明かしてくれない。

これ以上どうしろと言うんだ!

男は幽霊に問い、幽霊はただただ怒りのラップ音を響かせ続ける。
最終的には幽霊は、自らの憤懣を晴らすんですけど、めでたしめでたしではないんですよね・・・
めっちゃ怖くて切ない映画でした。
監督はピーター・メダック。
ずっとアメリカ映画だと思っていたのだけど、なんとカナダ映画であった。
ちなみにその後、クリント・イーストウッドが同タイトルの実話作を撮ったせいか、ウィキとかではそちらの新しい映画ばかりが出てきてしまいます・・・

いま一本(二本だけど)は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)と『ゾンビ』(1978年。日本での公開は1979年)。
ともにジョージ・ロメロ監督の作品で、信じられないようなことが起きる中、懸命に生き抜こうとする人々の姿は、ホラー映画でもすきです。

もう一作、『ザ・フォッグ』(1980年)は森閑とした怪談です。
町が犯した過去の犯罪のつけを、子孫である住民が払わされる形です。
監督は、あの『ハロウィン』のジョン・カーペンター。
2022年には、別の監督にリメイクされたようです(比較してみたい)。

そして最後に『デモンズ』(1985年。日本での公開は1986年)。
イタリアンホラーの巨匠?マリオ・バーヴァの息子、ランベルト・バーヴァのスマッシュヒットホラー。
ゾンビ以上の絶望世界が待っています・・・

テーマに沿って徹底してるホラーがすきみたいですね、私って。

これらの作品、年代がほぼほぼ固まってるでしょう?
そう、私、映画観だしたの遅いんです。
だからいにしえの名画も後追いでしか観てないです。
若いころはちょっと悩みました。
好きな人はめちゃめちゃ詳しいですからね、映画。
映画好きな先達にも、相談したりもしました。

漫画家・鈴原研一郎氏いわく

週刊マーガレットで連載されていたころは、あまりすきではありませんでしたが、その後単発の書き下ろしで拝読した『ようこそ夢の世界へ』が、映画『ウエスト・ワールド』のオマージュだったことから感想を送り、それ以来、文通みたいな感じになりまして、実際にお目にもかかりました。
その際にお伺いしたのです。
名画から観るほうがいいのか。
自分の時代の映画を主に観る方がいいのか。
鈴原氏の意見は後者でした。

名画はあとからでも観れるチャンスありますが、その時代の空気はその時代にしかないですから。

結果的に、そうしてよかったと思っています。
上記でおわかりいただけるように、私がたくさん観た時期は、カルトホラーの黎明期でしたし、パニック映画もたくさん作られました。
スティーブン・スピルバーグは『激突』を撮り(1972年)、『ジョーズ』を撮り(1975年)して私たちの日常を理不尽な恐怖で覆ってくれてましたし。
日本では森谷司郎監督が、『聖職の碑』(1976年)だの『八甲田山』(1977年)だのと、雪山の怖さを繰り返し見せてくれましたし。
私の時代はまさにそのさなかだったのです。

こんな時代に立ち会えた、それだけでもこの人生、宝です。
だから私にとって映画は常に、

ヒトアツとホラー

なのだと思います。

それでも地球は回っている