『まりえ』ー裏崖ー〔オリジナル。一人芝居用台本。三部構成作の2〕


セッティング
→上手のピンスポットにまりえ

ほどけやすかったのは、上質の絹だったから。
途中の電車内でも、参道でもほどけた。
三回目。
風がさらっていったのをなみが追っかけてくれた…消えた
なみは崖下に消えた
ザザザザザ
たった五つのザ
友達が消えた
ケガしてる?
まさか死…
…んだら…
私たちのせい…なの…かな…?

→長い間

→下手ピンスポットにりな

たちって言わないでよ私関係ない

りな?

関係ない!
私関係ないわ
関係ないわ!

→逃げ去るりな

りな…

→空のピンスポットをひたすらみつめている。

→溶暗

大手商社に
就職内定して、
たしかに安堵した
いいね
まりえはいいね
コネ、もろにいかせるもんね
そんな言い方しないでりな
私なりに悩んだの
優良顧客の娘枠
回される部署は十中八九受付
三、四年働いて、適当な人と出会って、出会わなかったらお見合いして、結…婚…

つまんないな…

私の人生…
冒険。
ない…

でもこんな冒険は嫌!

→暗転!

→ピンスポットの中
食卓についているまりえ
洋食
フォークとナイフ
切って、口元に持って行くが食べない
切って、再び口元にもろに、やはり食べない
いきなりナイフフォークをガチャンと置く!
両手で顔を覆うが

→つと顔を上げる
笑む

何でもありませんわお父様

→暗転

→雨の音
物思いのまりえ
下手が窓のよう

肌寒い

地上でこの寒さなら
あそこはもっと寒いはず
寒いのは命があるから
なければ寒さも感じない?

だめ

だめよ私
そんなこと考えちゃだめ
りなと


→長い間


同じになる


→静寂


→誰かに声をかけられた
目を上げる

コンパですか?
金曜?

はい
でも…

→少し間

参加で

→傘をさして歩くまりえ
松任谷由実の「冷たい雨」が流れている
♪冷たい雨に打たれて
街をさまよったの
もう許してくれたって
いい頃だと思った…

許されることはない
でもわざとじゃない
わざとじゃない!
わざとじゃない!!

→しゃがみ込む

私は眉山に行ってない
眉見駅にも行ってない
おばあさまにいただいたスカーフは
スカーフは…

気に入らなかったから捨てた!

→言い切るが(暗転)

→ベッドに起き直る

無理だよ
無理だよ私
無理だよ!

起き上がり、やおら着替え始める

私ひどい
最低!

→着替えて走り出す

夜を
走る
ひたすら
走る
今更
今更
今更
今更
それでも!

→正面に向かってひたすら走ってゆくまりえで

end


それでも地球は回っている