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レポート:国籍はく奪条項違憲訴訟@東京控訴審判決

写真:控訴審判決が出た後、近くの弁護士会館で開かれた報告集会

 国籍はく奪条項違憲訴訟@東京の控訴審判決が、2023年2月21日に言い渡されました。
2018年東京地裁で始まったこの裁判を最初から傍聴している者として、裁判の経過に関心を持つ皆さんへ自分なりのまとめ報告をしたいと思っていますが、今回は控訴審判決だけについて書きます。

落ち着いた雰囲気での判決

 一審の東京地裁の判決が出たのは2021年1月でしたが、外国籍を取っていた方たち(案件1号~6号)の訴えを「棄却」、これから外国籍を取りたいとする方たち(7号と8号)の訴えを「却下」しました。敗訴でしたから、直後の関係者の方々の混乱ぶりが印象に残っています。
 高裁に舞台を移して二審(控訴審)の法廷の傍聴席に集まる人たちの数は、コロナ禍規制で席数が少なかったこともあって、寂しいものでした。その後開かれた報告集会ではある種の落ち着き、もしくはあきらめ、と言えるものが感じられました。
 しかし判決当日はさすがに日頃お目にかかれない方たちが早くから来ていられ、賑わいと緊張感が感じられました。座席のコロナ禍規制は解かれ、報道関係者のカメラも法廷開始直後の2分間入りました。
 さて判決、裁判長は淡々と1~6号について「棄却」7~8号について「棄却」と宣言されました。今回違っていたのは、なぜ7~8号が棄却なのかの説明があった点で、その声がとても穏やかで、これだけでも心が少しなごみました。

「画期的判決」「一勝一敗」、スターウォーズ版最高裁上告ストーリー

 その後場所を移して、原告弁護団と支援者の報告集会が開かれました。原告団長の野川氏がスイスからいらしていて、「裁判が始まった4年前に比べ、空気が変わったのを感じる。国籍法11条1項の消滅を見届けるまで頑張る」と決意を述べられました(写真)。 
 それから弁護士さんたちが取られた行動は、当初私には不可解な事でした。しかし、帰宅してからしばらく考えてみたところ、担当弁護士の立場としては確かにこれが妥当なのだ、と納得しました。
 一つは、7~8号をめぐる判決について「画期的な判決だ」という評価。また、この点では「勝った」とする「一勝一敗」の表現。思い返せば、4回の控訴審理中焦点になっていたのは、却下はすなわち「門前払い(=審理に値しないとする判断)」であり、ちゃんと審理して欲しいという原告側からの要求を裁判所がどのように受け取るだろうか、でした。(1~6号については何もなかったような気がします) とすれば、要求に応えた、という事になるわけです。理屈に次ぐ理屈だ、という声もあるでしょう。その気持ちも分かります。ただ、控訴審というのは、一審の審理の延長上にあるもので、改めて審理し直すというものではない、とある時知ったので、大転換があるのではというような期待感はありませんでした。敗訴側の弁護士としては、何かポジティブな点を見つけたいのは当然です。ただ、スポーツの試合結果のように表現するのは、私としてはかなり抵抗を覚えるものです。しかしこれも、表現の自由です。
 もう一つは、最高裁に上告された場合どのように展開されるのか、というストーリーテリングが映画「スターウォーズ」風にプレゼンテーションされた点です。当日会場にはスクリーンがなく、ZOOMウェビナーで視聴している人たちだけが、カラフルな画面を見ることができたようです。こちらも最初は面喰いました。なぜ「スターウォーズ」がこの場に出てくるのか? そこまで面白可笑しくしないといけないのだろうか? 会場では弁護士のコメントにクスクスと笑っている方たちが数人いましたが、殆んどの方は無表情でした。映画を知らなければ面白さもわからないのです。私も見ていませんが、それよりも、最高裁で審理される可能性は極めて少ないのに、時間をかけて準備され、大真面目でプレゼンテーションされるのはどうしてか?というクエスチョンマークで頭は一杯でした。
 当初から「この裁判は最高裁まで行きますよ」と弁護団は言っていました。しかし、日本において裁判は、調べたらすぐ分かりますが、最高裁へ上告された案件の99%は数カ月待たされた後、最高裁事務局から「審理しません」という一枚の紙が本人に送りつけられて、それでお終いになるという事実です。数字で言えば、年に数千件が最高裁に上告され、うち約50件が審理されるのです。なぜこの事が報告集会で話されることがないのだろう、とずっと思っていました。
 しかし考えてみれば、これも担当弁護士の立場としては可能性の多少の問題ではなく、依頼者と最初に決めたことを粛々と続けている、というだけのことなのでしょう。

敗けて良かった

ところがこの後、参加者たちの発言が続き、また新しい展開になりました。二人の、法曹界と政界の方が、これからどのように運動していくべきかについて、力を込めて具体的に発言され、会場は熱い雰囲気に包まれました。感動的なシーンでした。敗けたからこそ、危機感と反発感が働き、いやまだ終わっていない、これからだ、と報告集会が盛り上がったのです。
この件については、後日改めて報告するつもりです。                   
(AMF2020 田代純子)

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