空白に手を伸ばして

記憶が飛んでいる。

記憶が消えることに気づいたのはいつからだろう。
初めて消えたのは小学生のときだった。
絶対何かあるのに、覆いかぶさって見えなくなる。
人間のトラウマはこう克服されるのか、と思った。

しかし、こんなに消えるとは思わない。
飲んでいる睡眠薬の副作用の「健忘」を疑った。
確かにそのせいでもあるが、昼間も消えているのが分かった。
これは何かしらの病気であるらしい、と。

嫌な記憶も、良い記憶もきれいに消えてしまう。
そうやって思い出せなくなった記憶の隙間にトラウマは眠る。

ここは品川区。マンションの8階。
合ってる?
近くのファミリーレストランは深夜2時まで。
交差点の向こうに駅が見える(本当は見えない)。
本当に?

1年間通った駅の名前が出てこない。
私の荷物2箱は今もそこに佇んでいるはず。

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