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会った事もない義理祖母を思う

夫の母方の祖母には会ったことがない。なぜなら彼女は、80年代に63歳の若さで亡くなったからだ。死因は脳卒中だったらしい。生前はヘビースモーカーでお酒もよく飲む人だったとか。

義母は、そんな彼女のことをよく思っていない。なぜなら彼女は、彼女の夫(つまり義母の父)と相反して、生涯とてもネガティブな人だったからだ。

4月に義母が私のところで乗り込んで来た時、義母は彼女が生前に義母宛てに書いた手紙のことを私に話してくれた。それは、彼女の夫(つまり義母の父)が浮気を繰り返し彼女を裏切った事が書かれてたというのだ。

義母はそんな母を今でも恨んでいる。なぜなら、義母の父は子煩悩で優しく楽しい父親だったからだ。大好きな父を母が汚すことが許せないのだ。つまり、優しい父親は不貞を繰り返す酷い男であったという事実にショックを受け、それをあえて告白した母に対し憤りを感じているのだ。

一方自分はその話を聞いて、会った事もない義理祖母の気持ちが痛いほどわかった。それは同じ母親という客観的な立場から、彼女の無念さがまるで自分の事のように感じるからだ。

それは、愛という名のもとで、夫のために出産・育児・家事を強いられ、教育を受けたくても受けれなかった彼女の無念さだ。身を粉々にして人生を夫に捧げたのにも関わらず、彼女が得たものは夫の不貞だった。そして、彼女の子供達は父親を慕うという現実。彼女が家族から受けた侮辱は計り知れないものだ。

そんな彼女の無念さが、今の自分の気持ちに重なるものがある。私も人生を彼に捧げて来た。

彼が結婚したいというから結婚した。
彼が子供が欲しいと望むから不妊治療をした。
彼が子供のために母親が常に家にいた方が良いというから産後復職を諦めた。

これら以外にもたくさんある。数えきれないほど、自分の望みは押し殺し、彼の希望を優先して生きて来た。それなのに裏切られた。もちろん私の場合、夫の不貞ではない。しかし、夫はお酒というものに溺れてしまった。

つい最近のことなのだが、なぜ飲酒量が増えたのか夫に問う機会があった。彼曰く、娘が生まれた頃から寂しさを覚えたとか。私が昼夜娘の世話に明け暮れ、相手をしてくれなかったから寂しかったのだそう。

女性は、出産という心身ともにボロボロになる経験をする。そしてその直後に待っているのは、昼夜問わずに課せられる授乳・おむつ替えという過酷な労働だ。そんなトラウマに満ちた生活を強いられてるにも関わらず、夫の寂しさを埋める事まで求められるなんて、女性はいくつ体があっても足りない。

夫は、義理祖父のように子煩悩な父親だ。昔の亭主関白ほどではなく、育児にも関心がある。事実、オムツ替えも授乳も昼間だけ手伝ってはくれた。ほぼ毎週末に子供達を公園に連れ出して、私の一人時間を確保してくれる事さえあった。それも娘が2歳くらいになるまでは。。。

だからと言って、彼の意固地さと共感の乏しさが掻き消されるわけではない。いい父親だからと言って、冷淡な夫であることが良いというわけではない。

育児に無関心な夫であっても社会的に許された古い世代なら、これくらいい父親なのだから多めに見るべきと言う人は多いだろう。おそらくイクメン後進国の日本なら、私の状況は「贅沢だ」という人もいるはずだ。

何度も言うが、私は子供達を授かったことには何の後悔もない。彼らがいるから、こうやって私は立ち上がってる。自分の権利と子供達の将来のためにだ。

しかし、不安は時折私を突然襲うのだ。別居もしくは離婚を決行した将来、果たして彼らは私を義母のように憎むのであろうか?と。あんなにいい父親なのに、なぜ母親は父親を見捨てたのか?と、私を責め、私は酷い人間だと思うかもしれない。そして義母のように、後世までその話が語り継がれるかもしれない。

もちろん起こってもいない将来を心配しても意味がない。わかってる。わかってるけど、心身共に疲れてる時の自分は、そんなに不安に襲われる事があるのだ。

会ったこともない義理祖母が犯した過ちはあるかもしれない。いや、むしろ義母が恨むということは、それなりの過ちはあったはずだ。私にはそれがわかる。なぜなら、彼女の夫の不貞話は、子供達は知る必要がなかったからだ。

子供は父親の悪口を聞く必要はない。両親が不仲で、両親がお互いの悪口を子供に言う事は、絶対にしてはいけない。なぜなら子供はそれにより一生苦しむことになるからだ。私が母の愚痴を聞き苦しんだ当事者だったのだから、これははっきり言える。

だから、私は絶対子供たちの前では愚痴らない。
彼の酒癖も口にはしない。
彼についてネガティブなコメントもしない。
子供達の前で口論もしない。

ただ毎日家族で食卓を囲み、子供達と楽しく会話をする。それに、私たちは徹底している。

もし義理祖母が今生きていたのなら、私は彼女を優しく抱きしめたい。そして、話をゆっくり聞いて励ましてあげたい。

女に生まれて損ばっかりだよね。
でも大丈夫。
人生の軌道修正は、今からでもできるから。
生きている限り、前に進めるから。
だから、大丈夫!

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