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5.【事件】主人は双極性障害じゃニャかった!?

ひさしぶり~!激カワギャル猫ペショコちゃん、お待ちかねの登場ですよ~!
最近メッチャ寒いよね!さむい!さむくない?みんな、風邪ひかないように気をつけてね!
冬の猫はコタツで丸くなるのがシゴトなのにさあ、ユウの家ったらコタツがないから、もっぱら眠ってるユウの腹の上で丸くなるしかないじゃない?でもそしたらユウ、「最近寝てるときに身体が重くて、悪夢ばかり見るんですよネ……」なんて主治医に相談してるのよ!信じらんない!ウチが太ったって言いたいのかしら!?失礼しちゃうわ。これは冬毛です!ふーゆーげ!冬になったら猫はみんなフワフワモコモコするんですー!別に寒くて寝てるか食べてるかばっかりで太ったわけじゃないですー!

……年頃の女の子はちょっとポッチャリしてるくらいが可愛いのよ。

さて今回はねえ、たいへんなことが判明したのよ。
ユウはADHD(注意欠陥発達性障害)に伴う双極性障害Ⅱ型(躁うつ病)を患っている。というのが、本人と周囲の認識だったのだけど。
なんと、違ったのよね。

それが発覚したときのことを、ユウの普段の様子も含めてお伝えするね。

 ――突然、ドアのインターフォンがピンポン、ピンポーン、と鳴る。おおかた宅配便であろう。ウチは誰が来てもとりあえず持ち前の愛嬌でお出迎えすることに決めているのだから、平気で、ニャアン♡と可愛い返事をして主人の膝から降りて向かった。すると主人は高利貸にでも飛び込まれたように不安な顔付をして玄関の方を見る。何でも客の相手をするのが厭らしい。
しばらくすると「ヤマト運輸でーす」と外から声がする。何のことはない、主人がインターネットで購入した品物を届けにきてくださった親切者である。ところが主人は返事もせず、玄関にそっぽを向いて狸寝入りを決め込んでしまった。はなはだ迷惑である。無礼である。サイテーである。こういう消費者がいるから労働環境がいつまでも是正しない。
人間もこのくらい偏屈になれば申し分はない。そんなら早くから外出でもすればよいのにそれほどの勇気も気力も無い。というかそもそもインターネットで買い物をすべきでない。まるで殻に固くこもった牡蠣である。

しばらくするとまた、インターフォンがピンポン、ピンポーンと鳴った。狸寝入りをしていた主人はほんとうに寝てしまったのか、それとも死んだのか、ピクリとも動かない。すると玄関ドアがガチャリと開いて、男が慣れた様子でズンズンと入ってきた。

おどろいて鳴くのも忘れているウチをヒョイと抱き上げると、
「鍵閉めなきゃダメって言ってるでしょうが」
そう言いながら家の窓という窓をガラガラと開けて回る。

その音に気づいて起き上がった主人が、ウワッと気まずい顔を浮かべた。
男は、主人の仕事仲間である。こうしてときたま主人宅に来ては、主人の仕事を監視したり、手伝ったり、主人の面倒を見たり、ウチの面倒を見たり、主人の生存確認をしたりしては帰っていく、たいへんありがたい存在である。

「今日は、何しにこちらへ……?」

まだ布団から出ようとしないまま、主人がおずおずと訊ねる。まるでどこかのテレビ番組の外国人観光客に対するようなよそよそしさだが、男は意も介さずにウチのゴハンをチェックし、トイレをチェックし、やっと満足したかのようにチェアに座るとウチを解放した。
ウチは男のジーンズでバリバリと爪をとぐ。
「書類の整理。でもこの状態じゃまずは部屋の掃除だな」

そう言って男は床に散らばったゴミを拾いはじめた。いくら仕事仲間だからといって部屋の掃除までしてやる義理はどこにもないはずだが、ウチとしても住まいがキレイになるに越したことはないので、黙って見守っている。
主人はというと、相変わらず布団を頭まで被って丸まっている。我が主人ながら、とんだでくの坊というほかない。

「何日風呂入ってないの?」
男の質問に、主人は答えない。

「2日?3日?」
「……2日です」
「3日ね。お風呂に入っておいで」

布団を引きはがされ、バスタオルを渡され、風呂場まで引きずられ、そうしてやっと、主人は3日ぶりの湯を浴びた。そのあいだ、男は掃除機をかけ、茶碗を洗い、暴れるウチの爪を切った。

何日か分の垢を落としてやっと社会的動物らしくなった主人がボーッと見つめる中、男は猛然と書類の整理をしている。
机の上に投げ置かれていただけの領収書や請求書やその他もろもろの書類が散り際の桜の花びらのように舞い、そしてそれぞれに整頓されていく様はなかなかに壮観である。
あらかた片付いたので主人も安心してどこからかみかんを取りだし、食べはじめた。
重ね重ね記述しておくが、この女はヤマト運輸を居留守で追い返すことと風呂に入ること以外、何ひとつしていない。

一方の男はというと書類をめくる手を止めない。

「何かをお探しなンですかあ?」

3つめのミカンを頬張りながら暢気に主人が訊ねる。
するとやや焦った様子で男が答える。よほど必要なものと見える。
障害者手帳を申請したときに行政に提出した診断書の写し、残ってない?会社員時代の障害年金を今からでも申請できるから、社労士に参考に提出したいんだ」
「あ、ありますよ~」

主人は押入れをゴソゴソと探ったかと思うと「あれ、こっちだったかな?」とキャビネットの棚をガサガサ漁り「あ~ここだった~」と呟きながらボロ布のようなトートバッグの中からクチャクチャの封筒を取り出して見せた。そしていみじくもその封筒の中に、診断書の写しが入っていたのである。
男とウチは脱力し、揃って天を仰いだ。

コレ!コレさえあれば男は今日、机の上の書類を花吹雪のように舞い散らせる必要もなければ、部屋掃除も皿洗いもする必要がなかったし、もっと言えばこんな汚い部屋に上がりこみ、汚い主人を風呂に入れる必要もなかったのである。
途方もない苦労をして探していたものが、まさか主人が当時持ち歩いていたバッグに放り込まれたままに保管されているとは……。何たる無精。何たる怠惰。何たる無駄。
ウチは男の徒労と憤懣を思いやって、彼の脚に身体をすり寄せた。

しかし、男はというと笑顔でこう言ってのけたのである。

「おっ!ありがとう。えらいじゃん!」

……このぐらいの胆力がないと、主人とはとてもやっていけない。感服し、ウチも肝に銘じた次第である。

無事に手中に収めた診断書を満足気にパラパラとめくり――そして男はその日一番の大声を上げた。

「エッ!?」

5個目のミカンを剥いている主人も驚いて目を向けるほどの声であった。

「ねえ、双極性障害とうつ病って同じなんだっけ?」
「厳密には違いますよお~。
ずっと気分が落ち込んでるのがうつ病で、気分の落ち込みと気分の高揚が交互にやってくるのが双極性障害、いわゆる躁うつ病です」
主人は一応、大学を臨床心理で学士取得している。

「……あのさあ診断名に、『ADHDに伴う“うつ病エピソード”』」って書いてあるよ(※ここで用いられる“エピソード”とは、その状態が長く続いている という意味)。ユウさんって双極性障害じゃなかったっけ?」
「エッ!?」

今度は主人が今日一番、いや、ここ最近一番の大声を上げる番であった。

「ホントだ〜。へえ、知らなかった~。わたしって、うつ病だったんだ~」
「へえ、じゃあないよ!どおりで躁状態が全然ない、活動性能がいつまでたってもあまりに低すぎるワケだよ!おかしいと思ってたんだよオレは!」
「たしかに、なかなか"気分が高揚する時期"なるものが来ないなぁとは思ってたんですよね〜」
「まあアンタが躁になったところで厄介なことには変わりないけど!自分の病気ぐらい把握しときなさいよ!」

エヘラと笑う主人に対して、ここにきて初めて声を荒げる哀れな男である。

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……とまあこんなワケで、ユウったらずっと自分は双極性障害Ⅱ型だと思い込んで、そんで仕事仲間にも、ウチにも、読者のみなさんにもそう言い散らかしてたのに「うつ病」だったんですって……。

毎月お医者さまにも通って、お薬も飲んで、何度か診断書も書いてもらってるのによ!
何より、その病に苦しんでるのは他ならぬ自分自身で、迷惑を被ってるのは他ならぬ仕事相手のこの男やウチやその他周囲の友人知人取引先各位なのによ!?

信じらんない唐変木だわ……。

何度かツイートでも言及したことがあったと思うのだけど、ここで訂正させていただきますね。うちのふつつか者が、たいへん失礼いたしました。
正しい知識と認識をもって発信していくよう、主人・猫ともども、努めてまいります。

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また次回をお楽しみに!

オレはどうしようもない人間だけど、文章を読んでくれる人がいるから生きていられます。もし、サポートしてもらえたら、きっと寿命を延ばすために使います。重いってか?これがオレだよ!