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銀河鉄道の夜

多分これは書いて残しておくべきではない気がするけど、忘れたくないので書いておく。
今、東京からの帰りの新幹線でこれを書いている。

ずっとずっと好きだった人に、数年振りに会った。
私は自分がどれだけ感傷的で感情的で気持ちを抑えられない人間かわかっているつもりだから、いつか彼に「会いたい」と言われたら、どんな状況でも絶対に会うとわかっていた。
最後に彼に会ったのは、思い返せばもう4年半くらい前。
しかも、ケンカ別れのようになってしまっていたので、私は当時もう一生彼に会えない人生を覚悟した。
私の中心にいた彼だったので、それをとても悲しく寂しく思って、こうなったことを悔やんだけど、彼を嫌いにはなれなかったし、忘れることもできなかった。
1mmくらい同じ寂しさを感じてくれたのかわからないけれど、彼がまた連絡をくれるようになって、会わないにしろたまに近況を話せるようになった。
互いに伴侶を持ち、別の地で別の人生を歩む私たちの間に流れるこれからの空気感はどんな感じかなと、いつかまた会える日が楽しみでもあった。

待ち合わせにはとても早く着いてしまった。そんなに早く彼が来るわけがないともわかりながらも、気持ちが逸ってしまった。めちゃくちゃ太ってて見つけられなかったらどうしよう、とか、逆に顔を忘れられていたらどうしよう、とかそんなどうでもいいことを改札から流れる人を見ながら考えていた。
天気が良かった。
こんな天気の良い空の下で彼と会えるのかと思ったらそれだけで胸がいっぱいになった。

彼は何にも変わらない調子でやってきた。
変な柄のスニーカーを履いて。
それは5年前に、彼がネットで買って私の部屋宛に送ってきたもので「受け取っといて」と言われて一時預かっていたものだった。一時帰国してきた彼と一緒に私の部屋で箱を開けて思いがけない柄に「まじか!」と盛り上がったことを急に思い出した。
今日その靴を見るまでは完全に忘れていたのに。
次の日、彼が嬉々としてその靴を履いて出かけていったことまで。
彼もそのことを完全に忘れていた。なのにその靴を今日履いてきたことに、私の胸はグッときてしまった。

彼は何にも変わっていなかった。
何それ、という服を纏って、ツバの大きなキャップをかぶって、襟足の髪が前の方にくるんと跳ねていた。何にも変わらず100%私の大好きな彼のままだった。
彼がイベントを回っている間、私はずっと彼を見ていた。
彼は作り手側として物を見ているから、私とは視点が違うな、と思った。その技術者っぽい感じが私はとても好きだ。
二人並んで出掛けている時には、離れないようにずっとくっついているのは昔のままだった。
いろんな話をした。
仕事の話、結婚した話、結婚式、休みの日の過ごし方。いろいろ。

今回私は、夫と子供がどうのと言う話をきっかけに大喧嘩してほぼ家出のような感じで東京に来ていた。
やはりこの手の問題は30代以上の夫婦にはよくあるんだなあと思った。
子供は要らないという彼を見つめながらぼんやり考えていた。
彼が結婚するのは想像できたけど、子供を持つことは全然想像できないなと。
私は彼の自由さや奔放さが好きだ。
いつも好奇心や確固たる「好き」に向かっていく彼が好きで、その背中を見ていたい。
「好き」に触れてきらきらした笑顔でそれを話す彼の戻ってくる存在になりたい、そして、そんな彼の勢いを挫くものがあれば全力で阻止したいと思いながら好きで居続けてきた。
きっと子供という存在は彼にとって、「勢いを挫く存在」になる気がするから、私には想像できないんだろうなと思う。
私は子供を持つことが夢だけれど、もし彼が私を選んで私と結婚していたら、私は自分から子供は要らないと言っただろうと思う。
私はそのままの彼が好き過ぎて、何も変わって欲しくないから。
彼に「父親」になることなんてちっとも求めたくない。
そして、彼のことが本当に好きだから、例えそれが二人の子供であろうと、私と彼の関係を邪魔して欲しくない、そんな風に思ってしまうから。
いや、そもそも彼が私を選ぶことはないし、そんなところもまた最高なんだけど。
私は本当に彼のことが好きというか、愛だなと思う。もはや愛。推しです永遠の推し。そして私は彼の絶対的エースでいたい。(ホストか)
お酒を飲むといつもやべー感じになる彼は、今回も殺し屋のカリメロみたいな目をしていた。
なのに仕事の話になると姿勢までスッとして熱くなるから、ずっとずっと聞いていたくなった。

長い付き合いの中で、初めて2人でカラオケに行った。
さて、何を歌うのが正解かな...と探っていたら彼が一曲目から全力で歌うもんだから圧倒されてしまった。
そしてその歌う姿は、初めて見る彼の表情で私は完全にやられてしまった。
両手でマイクを持って歌う姿が本当に愛おしすぎて「可愛いなと思って」と言ったら、彼はむっとしているような照れているような顔で「はあ?」と言っていた。可愛かった。
彼の選ぶ曲は全てとてもよかった。
タイトルをちゃんとメモをとっておけばよかった。また聴きたい曲が何曲かあった。

私たちはまた明日も会う2人のように駅で「じゃ、また」とあっさり別れた。
彼は振り向くこともなくサッと私と反対方向へ帰って行った。最高過ぎて目眩がした。

私はその足で東京タワーに行った。
彼が教えてくれた道順で、彼と東京タワーを見た公園へ。
東京タワーは今日も赤く大きかった。
私は彼のことが好きだ。
今回会って、また彼のことが更に好きになってしまった。
私たちが選んだ伴侶は違う人で、生きる場所も道も全く違う。この道が交わることはおそらくもうない。
それでも私は彼という人間が好きで好きでたまらない。これからも絶対的な「好き」のまま、互いの人生を見守る存在として続いていきたいと願う。
いつか人生で彼が何かにぶつかって、何も見えなくなった時には、私が彼のことを「絶対的に好きだ」と言うことを思い出して欲しい。
彼が言ってくれた「僕の人生を語る上で欠かせない人ですよ」という言葉は、私も同じ思いだし、死ぬまで胸に抱いていくと思う。(重い)
私は彼と国内外問わず旅をしたり、なんなら家に数日彼が泊まっていたりということもあったけれど、よく心臓がもったなと思う。
今回半日一緒にいただけで、好き過ぎて頭の中がスパークしまくって常に振り切れている感じだった。ちゃんと隠せていただろうか。 きっと結構漏れていただろうな。

私は自分がどれだけ感傷的で感情的で気持ちを抑えられない人間かわかっているつもりだから、最近音楽を聴かなくなった。
音楽はいい意味でも悪い意味でもいろんな気持ちを記憶させて、時に不意にそれを思い起こさせるから。
でも私はそれをわかっていて、東京タワーを見上げながら彼が歌った曲を携帯にダウンロードした。
きっと次カラオケに行ったら私は彼がしたみたいに両手でマイクを持って、声を張り上げてこの曲を歌うだろう。
そして、この夜のことを思い出して泣くだろう。
飛び立ってしまいたい、あなたを想いながら。

いつも彼が彼のまま自由でありますように。
彼の歌声が頭から離れない。

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