今のところの自選短歌30首+1首の第2弾です

自選30首を置いておくと引いていただく機会に親切ということで

令和に入ってあらためて自選30首+1首オマケで
自選31首の第2弾をば(既に発表した作品に推敲を施してあります)

短歌 雨虎俊寛(あめふらしとしひろ)

赤茶けた融雪道路からはずれ雪のところをふたりは歩く

薄雪はまだ踏まれずに側道の消火栓の蓋ここにあるはず

銀色の月の滴の形したベンチに座る 靴がぶつかる

もう少しこの小節に居たいけどD.S.から※へ飛ぶのだ
*D.S.ダルセーニョ *※セーニョ

楡の木が姿を変える街並みの風にまぎれて話をしよう

海沿いの展望台は遠くまで見えすぎていてふたり黙った

青空の余白のようにつまさきをきみはぽーんとほうりだしている

わた雲をきみはしずかに見あげてる ペットボトルのキャップをしめる

鴨川を見つめるきみのそのさきに波紋がひとつふたつみつよつ

僕のことまるで見てない横顔の長いまつ毛に今さら気づく

哀しさ悔しさ寂しさ愛しさのどれを選ぼう 雲が過ぎてく

「サ..ヨな.ラ...」に気づいてるのに切れかけの蛍光灯をそのままに去る

団地前いつものバスを見送って二度とは来れない駅までを歩く

橙に滲むタワーを振り返ることができずにもう三ノ宮

ひと雨が過ぎて見馴れた駅前の街のにおいともてあます傘

ほんまやな「花火みたい」と言っていた濡れる舗道に映る街灯

降りてすぐ深呼吸した あのころと変わらない風、駅名標も

一羽だけ止まるとこなく首かしげ駅舎の鳩はホームを歩く

改札で君を見送る日々だった七道駅をまた通過する

ふたりでも食べきれないとジャムにした瓶の中身はあと少しだけ

ぼんやりと写真の奥で浮いているポートタワーに触れてみる夜

ずっとまだ消せないメール もう君が僕を呼ぶ声も忘れたけれど

青葦の八幡堀をめぐる舟「また乗ろうね」が果たせぬままに

河岸で今も揺れてるねこじゃらし水上バスを待ってたことも

真っ白な股引き姿の若衆に菖蒲の浴衣ラムネを渡す

汗かきと決めつけていた ただきみが歩幅の違い埋めていただけ

(まだあった)ここはふたりが暮らしてた幸町のアパルトメント

真夜中の赤信号を徐行してドクターカーは右折していく

少しだけマシな男になったかな 電話ボックスに映りこむ夜

ぬくもりが伝わるような触れかたを記憶の中のきみはするのに

砂時計をくるりと返すそれだけで時は君ごと戻る気がして