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本『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる,ハプワース16、1924年 / J.D. サリンジャー (訳:金原瑞人)』

2018/6/30 発行(新潮モダン・クラシックス)
サリンジャーの (英語圏では)本になっていない
9編の短編集です。


1.『マディソン·アベニューの はずれでの ささいな抵抗』(1946/12/21 初出)
(“ライ麦畑でつかまえて”の)ホールデン·コールフィールドのクリスマス休暇初日の話(彼女とデート中に喧嘩し、バーから何度も電話する)

2.『ぼくは ちょっと おかしい:I'm Crazy』(1945/12/22 初出)
退学になったホールデン、スペンサー先生への報告、帰宅後の妹二人との会話。

3.『最後の休暇の 最後の日』(1944/7/15 初出)
ベイブ(ホールデンの兄:ヴィンセント·コールフィールドの友人)と妹:マティや家族との戦地へ行く前の会話。
同じく出征するヴィンセントも来訪し、弟のホールデンが“戦地で行方不明になっている”と告げる。

4.『フランスにて』(1945/3/31 初出)
ベイブの、戦場(フランス)での 夕方から寝る迄の出来事。死んだドイツ兵の掘った塹壕で家族からの手紙を読む。

5.『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる』(1945/10月 初出)
戦地のホールデンの兄:ヴィンセントの、ジョージア州での特殊部隊の仲間との出来事。
“ダンスに行けるのは30人だが 4人多い”事を向かう車の中で悩んでいる。
ホールデンが まだ行方不明な事にも触れている。

6.『他人』(1945/12/1 初出)
除隊したベイブが 妹:マティと一緒に 戦死したヴィンセントの元彼女に 詳細を伝えに行く話。

7.『若者たち』(1940/3-4月 初出)
パーティ(?)での数人の男女の会話

8.『ロイス·タゲットのロングデビュー』(1942/9-10月 初出)
ロイス·タゲット(女性)の2つの結婚の話

9.『ハプワース16、1924年』(1965/6/19 初出)
長男:シーモア·グラース(1948年31歳で自殺)が、7歳の時 (二男:バディと参加している キャンプ地ハプワースの16日目に) 家族宛てに書いた手紙を、1965/5/28に バディ(作家 46歳)が タイプした 短編。

恐らく 殆ど初めて読んだサリンジャーの短編 だと思います。
(もしかすると、10代の頃に 図書館で借りたサリンジャー選集の中で読んだかもしれませんが、記憶にはありません)

他の短編は 楽しんで読めましたが、
最後の『ハプワース16、1924年』は
シーモアが7歳の時に書いたという手紙形式で、
話があちこちに飛ぶし、母親に依頼している本の内容が多岐に渡り膨大で、内容に付いて行くのが大変でした。
自分が“30歳頃までは生きる”という事も予言しています。死ぬ時は弟:“バディが一緒に居る”という事も。

サリンジャーの『バナナフィッシュに うってつけの日〜ナイン・ストーリーズ(1953年出版)』
の中で描かれる 31歳(1948年)のシーモア(と思われる男性)の自殺。
サリンジャーが12年後(1965/6/19)に発表した作品の中で、
「7歳(1924年)の時にシーモアが書いた手紙を、
弟で作家のバディ(46歳)が、1965/5/28にタイプする」
という内容の 複雑な形で発表された作品なので、
読んだ人が混乱してしまうのも 酷評された原因だったのでは、とも思います。

この小説は、サリンジャーが最後に発表した作品となり、2022年現在、英語圏では まだ出版されていません。
2010/1/27に サリンジャーは 隠遁生活のまま亡くなっていますが、
自宅の金庫には未発表の作品が積まれたまま、
遺族には破棄する様に遺言している、という話です。

沢山の人に愛された サリンジャーが、
誰にも見せない作品を書き続け、
心を閉じたまま亡くなった事が
「なんだか 淋しいな…」と 改めて思いました。

 

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