お母さんの記憶

延長保育でひとり残ってぼーっと外を見ていると、お母さんが自転車で門の前に来たのが見える。寂しいとか保育園嫌だとかそういう感情は自覚していないが、お母さんが見えるとやっぱり「お母さん!」と思い、早く駆け寄りたくなる。

自転車の後ろの席に乗って帰る。やたら家が遠い。長い坂をお母さんは立ち漕ぎする。その後ろ姿を見ている。


木曜日は生協の日。発泡スチロールに入っていたドライアイスをお母さんが洗面所に流すので、洗面所から白くて冷たい煙が出ている、それが木曜日の夜の記憶。



ユニットバスのアパートに住んでいたころは、よく湯船からお母さんがおしっこしているのを見ていた。



歯磨きの仕上げ磨きをしてもらっているとき、いつもお母さんの太ももに指で文字を書いて「くすぐったい!やめて!」と言われていた。仕上げ磨きのおかげで私は高校生まで虫歯がなかった。お母さんの数少ない自慢。なのに、高校に入ってお菓子を買い食いしまくって、すぐにたくさん虫歯ができてしまった。


よく耳かきをしてくれた。耳がきれいだと「耳かきするために産んだのに、産んだ意味がない」と言われる。たぶん冗談。だけどそんな完全なる自己都合で子ども産むっていうのもいいと思う。


小学生のころ、たまにお母さんのパソコンのメールを盗み見ると、長文で友人らしき人物に育児にまつわることを書いて送っていた。私って優秀でいい子だし育児に悩むことないだろうに、なんで?と意外だった記憶。メールの具体的な内容は全く忘れてしまった。



とにかくお金がないと言われて育ったし、実際なかったと思うけど、今はお金があるらしくて、月5回くらい旅行いってる。基本、頼まない限りは私に何か買ってくれることはないけど、このまえ急に喪服を買ってきてくれた。試着したらサイズがぴったりですごく私に似合っていた。



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