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麗しのサブリナ(Sabrina)

オードリー・ヘップバーン主演の中で一番好きな作品です。古い映画だからネタバレします。ストーリーが分からないと上手く伝わらないと思うので。

ヘップバーン扮するサブリナは、大富豪に雇われている運転手の娘です。富豪には2人の息子がいます。堅物の兄と明朗快活な弟。サブリナは弟に恋していますが、身分違いの恋を諦めるために、父の勧めでパリに留学します。数年後、洗練され美しくなって戻ってきたサブリナと兄弟のラブコメディです。

弟は戻ってきたサブリナに夢中になりますが、弟には政略結婚の話が進んでいました。家のために弟の結婚を成功させたい兄が、弟とサブリナを引き離そうとします。こう書くと悪いことのようですが、兄は根が善人で優しいので、引き離す工作も微笑ましいです。

兄の微笑ましい引き離し工作の過程で、サブリナは兄に恋します。しかしサブリナの気持ちに気付かない兄は、弟と引き離すためにサブリナをパリに追い出そうとします。そのことを知って落胆したサブリナを見た兄は、サブリナが弟と離れることを悲しんでいると勘違いして、二人の恋を成就させようと考え直し、弟もパリに行かせることにします。

しかし弟は、兄とサブリナの相思相愛に気付いていました。弟が兄を説得して、兄も自分の想いに気付き、サブリナと兄が結ばれる。というお話です。

この映画からは誠実さについて学びました。
当時は「誠実」という言葉が思いつかず漠然としていたので、「優しさ」とは違う類の温かい何かがあることを知った、というのが正確かもしれません。

観終わってから、兄の言動について考えました。

兄もサブリナを好きで、嫉妬心から弟との恋路を邪魔するなら理解できますが、ストーリー終盤に弟に指摘されるまで、自分の気持ちに気付いていませんでした。

「堅物ではあるけど根は善人」という感じに描かれているのに、どうして弟の気持ちも無視してサブリナを追い出そうとしたのか、不思議でなりませんでした。最終的には二人をパリに行かせる決断はしたけど、もっと早く二人の恋を応援してあげればいいのに、と。

しばらく考えて、これは「家と自分の立場に対する誠実さ」から来るものだと気付きました。

サブリナは兄の誠実さを見抜いて惹かれていくのですが、兄の誠実さのベクトルが「家」に向いているため、サブリナに対して冷徹になれたのだと。人に嫌われることを恐れず、守るべきものを守っていただけなのだと。

加えて、そんな兄を理解して弟が身を引いたのも、弟の誠実さからの行動だと。兄とサブリナの幸せのために、自分の幸せを諦めたのだと。

どちらも自己犠牲にみえるけれど、2人ともそれを犠牲だとは思っていない様子でした。全く卑屈さはなく、温かいのです。

サブリナに対しての兄の行動は優しいとは言えませんが、「誠実さ」という視点ではとても納得できました。

この映画を観るまでは、他者の分かりやすい優しさを評価しがちでした。優しい言葉、優しい行動があれば優しい人だと思っていました。

だけど、人には「誠実さ」というものがあって、それは時には見えにくいものだと知りました。見えにくいから私が気付かなければならないと。

他者の不可解な言動に遭遇した時は「その人の誠実さがどこを向いているか」を考えるようになりました。何に対して誠実なのか。

どんなに乱暴な言動でも、その言動の中にある誠実さが他者に向けられたものなら、その人は優しい人だと思います。