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第99回 基経サンのボイコット事件 の巻

新天皇と大ゲンカした基経(モトツネ)さん。スネて自宅に引きこもり仕事をボイコットする大騒動。道真サン、基経サンを諫めるため手紙を出して・・・

高校日本史でも習う「阿衡(あこう)事件」をネタに。

ヤル気マンマンの若い新天皇、宇多(うだ)帝。

「ボクが主導で政治やってみよっかな?」と、どうやら言い出したみたい。権力を独り占めしたい藤原基経が牽制のパンチをくらわせた事件です。

基経は自宅に引きこもり政務をボイコット。もはや基経ナシでまわらなくなっていた政務は、一気にすべて停滞してしまいます。

誰もが基経にビビって忖度する中、ただひとり道真だけは宇多天皇側につき、基経の行動をボロクソに批判します。

なんと道真はこの件だけのために讃岐から電光石火で京にのぼり、基経に手紙を渡してまた讃岐にトンボ帰りします。

手紙の文面は…

一介の地方長官にすぎない下っぱ貴族が、最高権力者をクソミソに批判していて、あまりの文章の激しさ・内容の痛烈さに読んでいてゾクゾクします。

もちろんマンガでは大げさに描いていますが、気持ちの上では本当にこんな感じだったのでは…と思わされる。


しかし、道真の文面は完全に筋が通っているだけでなく、名門藤原氏の中で孤軍奮闘する基経の立場まで考えた内容でした。

いや、しかし藤原基経のすごいところは・・・

例えるなら、超・超大企業の社長が、地方支店の店長のケチョンケチョンな批判をジーッと傾聴し、それが論理的に正しいと判断すると顔色も変えず丸ごとスンナリ受け入れてしまう度量のデカさです。

この後 基経はすぐに矛を収め、何事もなかったように宇多天皇や道真たちと仲良くしてしまいます。

そればかりか、罰金&左遷まで要求していた宇多天皇の最側近・橘広相(たちばなのひろみ)の刑罰をキャンセル、のちに昇進までさせているのです。

藤原氏といえば汚い手段を使ってでもライバルを消し去るのが常ですが、橘広相に対する対応は異例中の異例です。


阿衡事件は、天皇の出した命令文にある「阿衡」という文言に対し、基経が難癖をつけたことから始まります(家康の方広寺みたいな!)

この時、三善清行・紀長谷雄・藤原佐世など名だたる学者は、一斉に基経の難癖を支持し、援護射撃します。

孤立する宇多天皇とその側近・橘広相(たちばなのひろみ)はどんどん追い詰められ、ついに宇多天皇は最も信頼していた橘を切る決断までしてしまいます。

ここで・・・道真の登場です。 実は橘広相は道真の兄弟子。是善パパから学んだ菅家廊下(菅原塾)の同門でした。

同門愛の塊みたいな道真はこの場面を黙っていられなかったのでしょう。 遠く讃岐で傍観していた道真はついに立ち上がります。

そして橘を救うべく、おそらく決死の覚悟で電光石火、京に上ります。

基経への諫言文はありえないほど激しいものでした。

「基経サンより橘サンのほうが功績は上。罰するとは何事!」とまで言い切ります。こわっ!

しかし、基経の難癖の土俵にはのらず、広義の議論から攻めているのは見事だし、また、

「藤原氏一族の中での基経の立場」から論理が展開されており、頭のいい基経はすぐに道真の意図を理解したと思われます(道真は基経の性格を知り抜いていて、基経が理解することまで計算していた形跡もあります)。

いや…この人、「学問の神」ってただの神格化ではなく、この頃からすでに神やったんやな!と思わされます。

最終的には、基経の娘が宇多天皇と婚姻関係を結び、基経が外戚(義理の父)として権力を強化するという現実的な落とし所で1年にも及んだ騒動が急転直下、解決します。

 しかし 道真がわざわざ京に上ったあたりで急に解決したところをみると、すべて道真が事前に考えた妥協案だった可能性すらあります。

いずれにせよ道真の諫言は、すでに決定していた橘広相の罰金刑&左遷を消滅させたばかりか、逆に昇進させるという大ドンデン返しを起こします。道真の剛腕ぶりが垣間見える事件でした。

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