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ボードゲーム制作のバランス調整と個人目標について

 noteでは皆さまはじめまして、雨崎レールと申します。Board Game Design Advent Calendar 2021 の17日目を担当させていただきます。よろしくお願いします。

 この記事は、制作をしない方でも普段遊んでいるゲームなどを思い返しながら読むと面白い内容となっているはずなので、制作に興味が無い方もぜひ読んでみてください。
 普段あなたが遊んでいるゲームの「点数」を考えるきっかけになるかもしれません。


 ※記事の内容は筆者の個人的意見を多分に含みます。「そんな考えの奴もいるんだな」くらいのスタンスでかる〜くお読みください。


まずは軽く自己紹介


 どんな人が記事を書いているかを明確にするためにまずは軽く自己紹介をさせていただきます。

 雨崎レール(あまさきレール)。2018年からボードゲーム制作をメインに活動しているサークル「杓子兵器」でゲームデザインをしている。代表作は「食らうん」「アリアドネー」「レガリアム」。最新作はゲームマーケット2021秋に発表した「式神怪道」。一手一手をつい考えたくなってしまうような、プレイ感のしっかりしたゲームを作っている。最近では自サークル以外のゲームのゲームバランス監修なども手掛けている。

 なんとなく「ゲーム作ってる人なんだな」と思って頂ければ幸いです。ゲームを作っている人が言った方が多少は納得感が出る内容かもしれませんからね。 

ゲームにおける「点数」の立ち位置

 
 ゲームのバランス調整というと「点数」の調整と思われる人もいるはずなので、まずは「点数」について考えてみましょう。

 多くのゲームには「点数」というものが存在します。そして、そのほとんどのゲームでは「点数」を集めて多い人が勝ち、低い人が負け、となっています。

「点数」とは一体なんなのでしょうか?

 ほとんどのゲームで行う点数を集める行為。どうして「点数」は存在しているのか。
 早速結論ですが、「点数」とはゲームを進める上での指針に他ならないと考えています。

 お題を当てるゲームならお題を当てたら1点 、お金を集めるゲームなら集めたお金の金額がそのまま点数、などですね。
 逆にしているパターンもあります。例を出すと、手札をたくさん出したいゲームで残った手札1枚につき-1点、などですね。

 突然ですがここで問題です。
 ここに「スタートからゴールまで進んでいく4人用のすごろくゲーム」があったとして、ゴールに着いた順番が1位の人は1点、2位の人は2点、3位の人は3点、4位の人は4点、となっていた場合、このゲームはどのようなゲームであると言えるでしょうか?

 少し考えてみてください。

 なんとなく分かりましたか?
 正解例としては「他の人より遅くゴールした人が勝つすごろくゲーム」です。

 ルール説明もまともにしていないのに分かった方はどうして分かったのでしょうか?
 答えは「点数」を見たからですよね?

 つまりゲームにおける「点数」とは「このゲームはこれをするゲームですよ」と教えてくれるもののはずなのです。

 ゲームを作る方であれば(無意識かもしれませんが)、これに沿ってゲームを作っているはずです。

 制作における「点数」について

 
 点数がどんなものか分かったところで、制作における点数の設定についてお話しします。

 点数の設定をどのように行うかによって、ゲーム体験に多大な影響を及ぼすことが先程の項で分かったはずです。

 ......え?まだイマイチ ピンと来ていない?
 たしかに言葉足らずなところもあったので補足をしましょう。

 先程の「他の人より遅くゴールした人が勝つすごろくゲーム」を思い出してください。
 それではルールはそのままに、点数だけを変えて今から別のゲームにします。

 元 : 1位1点 2位2点 3位3点 4位4点
 
 ① : 1位4点 2位3点 3位2点 4位1点

 ② : 1位0点 2位4点 3位0点 4位0点

 ③ : 1位1点 2位1点 3位1点 4位1点

元は「遅くゴールした人が勝つすごろく」
①は「早くゴールした人が勝つすごろく」
②は「2番目にゴールした人が勝つすごろく」
③は「順位に関係なくゴールしたら点がもらえるので他でなにかあるはずのすごろく」
ができました。

 点数を変えただけなのに全然違うゲームがたくさん出来ましたね!すごい!

 「そりゃ点数を変えたらそうなるでしょ」と思われた方。

 そうなんです。点数を変えるだけでこんなに変わるんですよ。

 それはつまり「点数」がルールを作っていると同義であると共に、点数の設定はゲームに多大な影響を与えるということです。

 話を戻しましょう。

 点数の設定はゲームに大きな影響を与えます。
 これは間違いなさそうです。
 ということは、点数が存在するゲームはしっかり点数を考えて設定してバランス調整をしっかりしないと!......というとそうではありません。

  あくまで点数の設定が与えるのはゲーム体験の一部であることを忘れてはいけないのです。
 点数でゲームは変わりますが、ゲームが点数に支配されてはいけないのです。

 つまりはゲームの目標は点数であったとしても、ゲーム体験としてはテーマやシステムなど、それ以外の部分の方が重要ということです。

 例えばサクッとできるお題を当てるゲームでは、点数が存在しなくてもお題を当てることで、もしくは当てられることですでにゲームとして楽しいはずです。
 ルール上はお題を当てたら1点、となっていると思いますが、それは「お題を当ててね」とゲーム側が言っているに過ぎないのです。もちろん最後に他の人と点数を比較して一喜一憂はあるかもしれませんが、点数の事よりもゲーム内で起きたことの方がゲーム体験としては大事なはずです。

ここまで遠回りをして来ましたが、言いたかったことをまとめると
 ゲーム制作では点数はとても大事だが、プレイヤー側はそれ以上に点数以外のゲーム体験の楽しさが大事
となります。

これだけのことを言うだけなのにずいぶんと長旅をさせてしまいました。当然のことかもしれませんが、ゲーム制作においてはとても大事な事ですし、次に繋がるため書かせていただきました。



     
 バランス調整はなぜ必要なのか
 

 それではゲームのバランス調整がなぜ必要なのかについてです。

 ここまでは点数が大事とか、かと言えば点数より大事なことがあるだとか、振り回されてきました。

 (振り回したのは僕ですけど)

 しかし、結局はゲームを作る上では点数も大事な要素のひとつなのです。
 バランス調整を考える上では切っても切り離せないところにあります。

 なので、まずはなぜバランス調整が必要なのかを紐解いていきましょう。


 ※これから話す内容は、パーティゲームや物理的バランスゲーム、人狼系のゲームなどではなく、主に戦略ゲームについての話になります。

 ※冒頭でも書きましたが、この辺りからより筆者の個人的意見を多く含む内容になっておりますので、リラックスして適当に読み進めて頂ければ幸いです。


 早速で申し訳ないのですが、バランスの良いゲームが面白い、というわけではありません。

バランスの良いゲームが面白いのではなく、バランスが悪すぎるゲームだと、ゲーム終了後に面白くなく感じてしまうことが多いのだと思います。

 先程こんなことを言いました。

ゲーム制作では点数はとても大事だが、プレイヤー側はそれ以上に点数以外のゲーム体験の楽しさが大事  

  点数以外のゲーム体験のが大事だと。

 ゲームが終わった時に、他プレイヤーと点数が同じくらいだったから面白いゲーム、ではないですよね?

 もちろん点数が同じくらいでいい勝負ができて面白かった!はあると思います。でもそれは、面白かった上に点数も同じくらいだった、なはずです。

 極端な話、点数が 0 対 100 だったとしても面白いゲームはあるはずなのです。

 ただし、その点差がゲーム体験の面白さと比べて理不尽なものでなければ、です。

 テレビのクイズ番組でよくある、途中まで正解したら10点だったけど、最後の問題は1000点です!というもの、あれはテレビの盛り上がり的な意味ではとても面白いと思います。
 でも、野球の試合でこれをやられたらどうでしょうか。
 最終回だけは点数を100点にします!なんていわれたら。
 たしかに負けてる側は逆転のチャンスは生まれるかもしれませんが、勝ってる側は今までのなんだったの?と理不尽さを感じるはずです。
 
 つまり面白いゲーム体験は、ゲームバランスがめちゃくちゃなものにはあまり訪れないはずなのです。

 ゲームを遊んでいる面白さを最大限に感じてもらうために、ゲームのバランス調整は必要になるのです。

 前置きが長くなってしまいましたが、ゲームのバランス調整が必要な理由についてでした。

 ここからはようやく具体的なバランス調整についての話ですが、全て話すと長くなってしまいますから、今回はタイトルにもあります通り「個人目標」の観点からバランスを考えていきます。

 
 ゲームにおける目標の役割

 お待たせしました。
 ようやく「目標」が出てきました。

 戦略ゲームには度々「目標」というものが存在します。最たる例としては、個人目標であったり、全体目標であったりします。

 これらは上で述べた、ゲーム体験について良い効果をもたらしていると思う人は多いと思います。

 初めてプレイするゲームでは特にそれが顕著に表れていると思います。
 「よく分からないけどこれをしたらよさそう」
 ほとんどのゲームにおいて、方向性が決まることはとても大事です。

 初めて遊ぶいわゆる重いゲーム(プレイ時間の長いゲーム)が全体の20%ほど進んだとしましょう。
 そんな、おおよそどんなゲームか分かってきた頃には「こんなことならアレをしておけば良かった」という経験は、誰しもが経験すると思います。
 
 これを軽減してくれるのが「目標」だと思うのです。


  個人目標のゲームに占める割合とその効果
 

 ようやく個人目標に到達しました。

 目標の役割がわかったので、ついに個人目標について考えます。
 
 ゲーム制作をする時に個人目標を作るとします。

今までの流れを考えると、以下の2点を満たしていると、より良い目標になるはずです。

・ 達成をした時にある程度の点数を与える
・ 目標としてゲーム開始時に方向性が分かるものである

 はい、ふんわりした言葉が出てきました。

「ある程度の点数」

 ここが今回の議題です。
 この点数について考えます。

 まずはなぜある程度の点数が必要なのか、です。

 点数が低すぎる場合を考えてみましょう。
 頑張って目標を達成しても、ご褒美が少なすぎると達成感がありません。
 「これはやらなくていいや」と、そもそも目標として機能しなくなる可能性もあります。

 なので、やはりある程度の点数は必要なのです。

 では逆に点数が高すぎてもダメになるのでしょうか?

 答えはNoです。
 それは個人目標がそのままゲームの目標になります。

もちろん、ゲームとしてそれはありです。
これは非対称系のゲームになると思います。

ここまでのことから、個人目標の点数は、低い分には無視される可能性がありますが、高い分には問題ないということが分かりました。

 では、個人目標がどの程度までだと成立しているか、そしてどういうゲームになるかを考えてみましょう。

※個人目標が複数あるゲームにおいては、その合計点数で考えています。

 まずは100%。ゲーム中に獲得する点数が全て個人目標から得られる点数である場合です。
 これは上でも述べましたが、いわゆる非対称ゲームになるはずです。
 それぞれが別のことを目指すゲームとして、大いにありです。

 次に80%前後。
 この辺りは100%とほぼ同じだと思います。
 個人目標以外に点数が得られる機会がある非対称ゲームですね。

 50%前後。
 個人目標とそれ以外をバランスよく求められるゲームですね。

 30%前後。
 この辺りではすでに個人目標はサブの得点源として、他に点数を取る手段が必要なはずです。

 10%前後。
 個人的にはこの辺りが好みです。
 個人目標はあくまでゲーム開始時の指針の提示にすぎず、これを活かしつつ他のやるべきことを探すゲームだと思います。
 プレイ時間の短いゲームだと目標として機能するボーダーもこの辺りだと思います。

5%前後。
この辺りが長いゲームでも目標として機能するかどうかのボーダーだと思います。
この辺りに設定する場合は、目標を簡単にする必要があると思います。

 ということで、個人目標の占める割合とその効果、でした。

 個人目標を作る際にはゲーム全体の想定点数から、点数を考えてみても良いと思います。 

 

 まとめ

バランス調整と個人目標についてお話をしてきました。

この2つをまとめて記事にしたのは、適切な個人目標を作ることは、ゲーム体験を重視したバランス調整として優れていると考えているからです。

 目標の達成は、ゲームに充実感を与えてくれます。

 バランス調整はゲームの充実感を損なわないために行います。


個人目標を適切に設定出来ると、よりよいゲームが出来ると思うのです。

また、個人目標の「点数」をいじるだけで全く別のゲームに昇華させることも出来ます。

 次に戦略ゲームを作ろうと考えている人は、ゲーム全体から点数の設定を考えることも視野に入れて作ってみると、また新たな発見があるかもしれません。


ということでみなさん、ボードゲーム...作ってみませんか?


雨崎

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