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花言葉は知らないけれど

(『本好きの下剋上』二次創作・現パロです。ものすごく緩い設定なのでご勘弁ください。)

私はその日焦っていた。
大学ゼミで師事しているヒルシュール先生の研究が佳境に入り、連日泊まり込みで実験を手伝っていた。当初の見込みでは今朝には終わると踏んでいたが、ヒルシュール先生の閃きが炸裂して実験が増えた。
お陰で朝には部屋に帰れるはずが、結局すっかり夕方である。
普段ならありえない洗髪もせずボサボサした髪もそのままに帰路を急いでいた。

マンションのエントランスの自動ドアが開くのももどかしく、それでも郵便チェックをし、急ぎエレベーターに乗り、8階へ。
忙しなく鍵を開け玄関に入ると、案の定赤い靴があった。育ちの良さからきちんと揃えてある。自分は革靴を脱ぎ散らしずんずんと奥に進んだ。これまた懸念した通りソファにぐったりしている長い髪の少女が居た。

マインと知り合ったのは今年の夏休み。
いつものようにヒルシュール先生に頼まれ大学図書館で資料本を物色していたところ、本棚の間の通路を男子学生に手を引かれて歩いてる少女がいた。
艶々した長い髪、ちらりと見える横顔のまつげも長くひどく整った顔をしている。年が離れた兄妹なのか?二人はあまり似てはいないが、兄も可愛い顔をしている。ここは附属高校が隣接しており、兄の方は高校生のようだが、妹の方は小学高学年?(後で分かったが中学生だった。)
子供には全く縁がなさそうな本が並んでいるのに少女は目を輝かせてきょろきょろしてスキップでもしそうな雰囲気だ。珍しい取り合わせについ興味を引かれて見ていたら、突然少女がばたっと倒れた。
「な…っ!!マイン??」
兄の方が血相を変えて抱え起こしている。思わず駆け寄った。
「どうしましたか?」
「妹が急に倒れて…っどうしよう」
対処が分からずおろおろする少年に代わり、抱きかかえて司書のカウンターの方に急ぎ向かった。小さい身体から力が抜けているので少年には無理と判断したが、実際は軽い。ぐったりしているので気が気でなかったが、カウンタに向かっている間に少女はすぐに気が付いた。抱いている私の顔を見ていきなりぱああっと目を輝かせたかと思うと、ぎゅーっと胸に顔を寄せてくる。
「ディーノ!!ああ、やっぱり!!」
(…やっぱり?)
「マイン、どうしたんだ、急に!!もう大丈夫なのか?それに知らないお兄さんに抱きついたりしちゃダメ!!」
兄の方はなんだか焦って声を掛けてくるが、マインは一切構わずクンクンと私の匂いを嗅いだ。何か小動物のようだ。
(倒れた時に頭でも打ったのか?挙動がおかしい。それになぜ私の名前を?)不思議に思ったが、司書に言って控え室を借り、しばらく会話して様子を確認したところ、とりあえずは大丈夫そうだと判断した。
「それじゃ、これで」
本を探すのに戻ろうとしたところ、兄の袖をつんつんと引っ張ったマインは彼に耳打ちした。何かお願いをしているようだ。
兄の方はやや不満気な表情を見せたが、私の方に向き直ると
「本当に今日はありがとうございました。今度お礼をしたいので、連絡先を教えて貰えませんか?」
「いや、結局大丈夫だったんだし、何もしてないから…」
じゃ、と行こうとするのを今度は私のジャケットの裾をつんと引っ張られた。
「マイン…!」兄の焦る声を無視して、少女は私の方を仰ぎ見る。
「あの、あの…!ご迷惑掛けたのでお礼させてください。」
なんだか、必死に懇願されそのまま離れるわけにもいかず連絡先を交換したのだった。とりあえずこの図書館にはしょっちゅう来ていると言ったら、来週土曜にまたここで、と約束を取り付けられた。
それがちょっと変わった少女マインとの最初の出会いだった。

「マイン!!起きなさい。マイン!!」
ソファにぐったりしているマインの顔色がひどく悪い。ガラステーブルには私の本が積みあがっている。あれだけ厳しく言ってるのに一日中ずっと夢中になって読み続けていたのだろう。テーブルにはコップ一つない。
マインは最初の出会いから図書館で何度か会っているうちに、いつのまにか私の部屋に入り浸るようになっていた。思い返してもなぜかよく分からないが、無類の本好きで私が持っている蔵書も相当なものだと知った途端部屋に来たがったのだ。今では合鍵も持たせている。
以前約束もなしに勝手に来てドアの前で待っていて、ぐったりしていたことがあったからだ。
いったいどうしてそんなことに?と時々思うが、不思議と彼女のペースで話を持っていかれて渡す羽目になった。今まで友人一人来たことがないのに。
兄であるコルネリウスは高2で小学生だと思ったマインはなんと中学2年生だった。花車で小柄なのでてっきり小学5,6年だと思ったが、さすがに傷つきそうなので言わないでおいた。

今日は日曜で、予定としては朝には帰っているつもりだったから、来ても良いとは言ってあった。これも出会った後で分かったのだが、マインの家と私のマンションは近く、何度か家にも招かれた。家族にもマインが私によく懐いて勝手に入り浸っているという事実認識がされていて、逆に済まながられこそすれ変な疑いはもたれていない。ただ兄のコルネリウスだけはマインがどんどん私に懐いていくことに不満そうにはしていたのだが。
サッカー部の活動がある彼は週末もそれなりに忙しいらしく、マインを止めることも出来ない。
ただ、一人にすると飲食も忘れ本に没頭するので、私が不在の時はマインが行かないようにしてくれというのがあった。今日は私が朝には居るという前提で彼女は来ていたのである。冷蔵庫にはマインの母エルヴィーラからの差し入れなども頻繁にある為、常に何かしら食べる物は入っている。
マインには勝手に出して食べたり飲んだりするようには言ってあった。
にも関わらず、だ。絶対に食事も摂らずに読み続けたに違いない。

ソファにぐったりしたマインを助け起こす。ぺちぺちと頬をやさしく叩いてみた。ゆるゆると長いまつ毛が揺れ瞳が開いた。ちょっとぼんやりした表情で私を見てふにゃ~~とした笑顔を向ける。
「ディーノ…お帰りなさい…」
「食事していないのだろう?まったく君は」
起こした身体をソファの背に凭れさせた。まだ力が入らないようだった。顔色もひどく悪い。湯を沸かし白湯を程よい温度にしカップに入れて渡そうとした。が、カップさえ受け取らない。
「ディーノ、力が入らない~」
情けないような顔をする。
ソファ横のキャビネットに、これもエルヴィーラから貰った金色の蜂蜜の瓶が目に入った。アカシアの花の蜜。マインが来た時に紅茶に落としたりしている。
首から左腕を回して瓶を持ち、さてと思ったら匙を忘れていた。
もうしょうがない、手はよく洗ってある。
指を突っ込んで蜂蜜を取りマインに口を開けさせた。
「ほら…」
赤い舌が覗く。何か扇情的だ。おかしい…
金色の蜂蜜を指から垂らしてそこに落とそうとしたが顔に垂れそうだ。
もうこの際だと指を舌に乗せると子猫のようにちろちろと私の指を舐めとる。
瞬間、背筋をぞくぞくっと甘い熱が走った…!
「…くっ…!」
マインはそんな私の反応も気にならないようだ。
「ディーノ、甘い…もっとv」
へにゃあと緩んだ瞳はまさに嘗めとらせている蜜のような金色で少し潤んでいる。
なんだろう、睦言のようなこの言い方と表情は。
それでも言われた通りもう一度たっぷり取り指を入れる。
吸いつくようにまるで乳を吸うように指を舐られ、指も性感帯であったことを自らの身体で知った。
マインの舌が動くのがちらちらと目に入り、ざらりとした感触に指が刺激されるとぞくぞくしてしまう。視覚と触感から背筋を伝わる甘美な熱にそれでもじっと耐えた。
(相手はまだ中学生だぞ。子猫に舐められていると思え!)
何度めかでマインの腕が上がった。私の腕を掴んでもう蜂蜜もないのに指を舐るのである。まるでわざとのようにぺろっと舐め上げて上目遣いで私を見る。潤んだ目元にほんのり赤みが差している。
「ディーノの指が甘くて美味しい…v」
小学生のような小柄な少女のくせに、妖艶な色気が漂うようなセリフと表情に、頭がくらくらした。
(まずい。これはまずい気がする!)
思わずばっと指を抜き、腕をはずして、マインをソファに凭れさせたのだった。

その後は用意した白湯を飲ませ、冷蔵庫の中のシチューを温めて渡した。
どうにか自分で食べられるようになってくれていてほっとした。
何かの一線を危うく越えてしまいそうだった。
…二度と指は使うまい。

(補足)
フェルディナンドは知らないのだけど
アカシアの花言葉は「友情」「愛情」「魂の不死」
黄色だと「秘密の恋」
この世界線は、ローゼマインの方はリンクベルク家(エルヴィーラ母、カルステッド父、エックハルト長兄、ランプレヒト次兄、コルネリウス末兄の3人の兄がいる中二の女の子として現代日本に転生。ユルゲンの記憶持ちなので、大学図書館でフェルディナンドを見かけてからどうにか近づこうとして画策した設定です。フェルディナンドは大学三年生で、ヒルシュールのゼミにいます。理工学部。ただし、私は文系なので実験内容とか想像出来ません。年の差を減らしました。我慢年数から逆算。
マインは視界に入るところでばったり倒れて見せたら絶対助けに走ってくると踏んでいました。指はフェルディナンドにしては迂闊、マインにとってはラッキースケベ的な所業です。
Twitter(現X)で、「薬屋のひとりごと」で壬氏が猫猫に蜂蜜を指で舐らせようとしたのはセクハラだけど、フェルマイだとどうなるか?と想像してみた結果、現パロならあり、と思ったので書いてみました。
フェルディナンドが迂闊にそれをやると大変なことになるだけ、というやつです。はい、よく我慢しました。

蜂蜜使うならアカシアだな~ってなんとなく思って花言葉を確認したら「魂の不死」なんて出てくるのでびっくりです。
https://decome.jp/contents/detail/109/#contents-2


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