[本の紹介] 「無知」の技法 Not Knowing

不確実な世界を生き抜くための思考変革 

スティーブン・デスーザ ダイアナ・レナー

「知は力なり」と言われるように、この世では「知っている」事が良いとされている。いろんなことを知っている人が高い地位につき、収入が得られる仕組みになっている。

ただ、知っているがために悪影響を及ぼしてしまう事がいくつもある。

例えば、人体の解剖学はルネサンス時代から14000年も刷新される事がなかったのだ。これは人々が「自分たちは人の体について知っている」と思い込んでいたせいで、それを疑わずに自分の目で人体を解剖しようとしなかったため、新しい研究の開発がなされなかったせいだ。

「知っている」事は人々に自信を与えることではある。

「自分はこの仕事を知っている」という独りよがりのうぬぼれや、仕事では「すべて知っている」事が求められているために知っているふりが行われているといったことが起きている。特に専門知識は複雑な問題に対する斬新なアイデアを阻害している、「アンカリング・バイアス」と呼ばれる状態で、既存の知識がアンカーで固定されてしまい、問題の本質が見えなくなってしまう。

人は知識を与えられると、知識がないのいう事はどういうことか想像できなくなる

しかし、刻々と状況がアップデートされているこの世界では「知っている」事は常に変化している。21世紀の進歩は20世紀の1000倍速いため、どんどん新しい情報がインターネットに掲載されてゆく。「混沌系」は分析しようがないため何が問題なのかすら把握できないのだ。

未知に出会った時、人は知らないという内面的体験と、有能という印象を維持したい外面的問題との間での葛藤がおきて恥ずかしく感じる。未知を避けて予想外のことを予測しないだけでなく、自己の制御能力を過大評価してしまう。

しかし、芸術家、探検家、心理療法士、科学者、企業家などの新しいことを開拓して踏み出していくような職業においては、「知らない」ことが大きな役割を果たせることが発見されている。「わからないという思考回路」は「固定観念がない」という意味でイノベーションの引き金を引くことができた。そういった「ない」を受容する力を「ネガティブ・ケイパビリティ」と呼ぶ。

ビジネスにおいてもその考えは応用されている。知識、技術、競争力のような「ある」を追求する能力が『ポジティブ・ケイパビリティ』。沈黙、忍耐、疑い、謙遜のような「ない」を受容する能力『ネガティブ・ケイパビリティ』。これを組み合わせた時、初めて新しい学びと創造の余地を生み出せるという。

こんな混沌とした世の中は全てが予測不能。ここに記された「無知」を恥じることなく、あえての武器として働かせることが未知の可能性を切り開いてくれる、そんなヒントを与えてくれる書籍

出てきたキーワード

クネヴィンフレームワーク
問題に対して因果関係に重きをおいて分類するフレームワーク
単純、煩雑、複合、混沌の四象限に分類。

左脳にはインタープリターと呼ばれる神経ネットワークがあり、左脳はいつでも秩序と理屈を探している。たとえそれが存在ない場合でも。
マイケル・ガニザガ 心理科学者 

コントロールの幻想
エレン・ランガー 心理学者

「不可知の道」
「知ある未知」
「パラダイムシフト(既知の理解から全面的に離脱する)」
「ファジーフロントエンド(曖昧な出発点)」

「ない」を受容する力「ネガティブ・ケイパビリティ」
ジョン・キーツ 詩人

20世紀の指揮統制型リーダーシップ論
科学的管理法
テイラー 

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