[本の紹介] モノの意味―大切な物の心理学

モノの意味。
タイトルからして気になる本だ。
著者はあの「フロー状態」を研究したミハエル・チクセントミハイという方。
「フロー体験」とは心理的エネルギーが、
100%今取り組んでいる対象へと注がれている状態を表している。
自分のコントロールの下、何かを行い、
行ったことのフィードバックを得られて、
むずかしすぎず簡単すぎず、我を忘れて没頭。
楽しんでいるから時が経つのも気づかない。
 誰もがなんとなくは思い出せるんじゃないかな、
そういう幸福な葛藤のない状態。
その方が書いたというの「モノの意味」も
モノに注ぐ心理的エネルギーのことについての本なんだろうな、
と想像して読んだ。
ちなみにこの調査は1974年から315名の男女が対象で、
出版は長い年月を経て2009年に叶ったものだ。
この研究まで本格的な調査はなされていなかったらしいけど、
いくつかの思想や著書はベースにあったらしい。

即物主義
主人公の所有物や物の扱い方を手がかりに、
その人物が何に価値を置き、誰を愛したか、
そして、その思想や行動を知ることになる

プラグマティズム
思考・観念が正しいかどうかは、行動の結果、つまり生活上の実践に利益があるかないかで決まるという考え

ジョルジュ・ペレ「物」
モノの名前を羅列して書かれた物語

このあたりの考え方を文化理論に適用したもの、らしい。

内容についてはこんな感じです。

人間はホモ・ファーブル、
つまり物の作り手かつ使い手であるという特性がある。
人間が道具を発明したのが200万年前。
道具=モノ は人間の一部となり、
人間が果たせない機能を肩代わりしてきた。
人間は心的エネルギーを注ぎ込みモノを作る。
自分の象徴として大切にして、感情移入する。
何かの代わりを果たしたりする。
確かに私たちは生まれてすぐモノに囲まれて暮らし始める。
体験や生活によってモノがその人にとっての何かの象徴となる。
モノを人格化したり物語を持たせる。
同じモノでも人によって全く捉え方が違う。
モノへの意味のもたせ方がその人自身を語るということになる。

また人は自然との繋がりの代わりに
モノとの繋がりを求めていくようになったという別の方の説もあった。
確かに、モノを作り出す前の長い年月、
星や太陽や山や石の自然物に神や物語を見いだしてきた。
今はそれがモノに取って代わっている。
現代は超ハイパーモノ社会。
そんな社会においての人間らしい行動がこの「モノの意味」なんだろうな。

中盤では調査結果も多くレポートされている。
モノについての考えは、年齢だけでなく男女の性差によっても変わる。
調査の行われた時代では、今よりも男女の意味の持たせ方は差があったのだろうと思われる。
例えば植物。
その人の養育、世話の技能の証であり業績を示す
トロフィーのようなものであったり、
エコロジー意識・自然との結びつきがあり、
環境の保全に貢献しているように感じることができたりする。

またモノとの関わりは
幼年期から個人的自己、社会的自己、宇宙的自己、
というように成長してゆくことも言及されている。
調査事例として、貯金箱を見つめることで考えをめぐらせて、
自分が世界の一部であると感じるといったようなことが話されていた。
確かに、
小さな頃にいた小さな世界で自己に気づき、
社会の中の自分に気づき、
成長するに連れて世界を感じる、
そんなふうに思考は広がってきた気がする。
ちなみに社会的自己としては
誰かが亡くなったお葬式は象徴的だということだ。
その人自身がいなくなっているにもかかわらず
来る人達の中にあるその人の社会的自己は残り続けているということの
証、形になるのがお葬式。

終盤では、この調査で特に家族関係のことが多く見出され、
暖かい象徴的意味がない家庭で超物質主義が育つという
仮説が記されていた。
また

究極的物質主義のすざましい力に我々が抵抗しうる
唯一の武器は意味を創造するという人間の能力である。

と言って、物質から解き放たれる精神的内面的なことの重要性、
人間の自由も述べられていた。
著者は最終的にこの調査から、
物質的生産と消費が我々すべてが努力する主要な目標とはなりえない、
との結論を出したようだ。

読んだ後、私はここの本で知ったことを何に活かせばいいのかと
ちょっと考え込んでしまった。
一番わかりやすいのは調査でモノについて語ることで
その人の思考や価値観を知るということかな。
確かにものを目の前にするとエピソードが出てきやすそうな気がする。
そのヒト自身を読み取るのに役立ちそう。
あとは時代や社会のモノの役割も感じ取れるだろうな。
今の時代の大事なものといえば、スマホになってしまう気がした。
私がなくなったら一番困るものはスマホだったりする。
なくなって悲しいと言うのではなく困るというのがポイントだけど。
人間の時間はスマホと向き合う時間がどんどん増大している。
家にあるモノもスマホによってコントロールされるようになっている。
いろんなモノのインターフェイスを請け負うようになったスマホ。
モノの代わり自体になっているスマホ。
デジタル化でいろんなモノがPCやスマホに収納されたことで、
モノはモノ自体より体験やそれに注ぐ意識が重要なんではないかと
逆に気づけるような気もしてきた。
ただ、モノを作るという行為の多様性が減ってしまうのは寂しいと思う。
表現手法はいろいろあっても、素材は同じっていうのは没個性なのでは?
などとも思う。

しかしそんなものも、
宇宙レベルからいうと大したことない微差なんだろう。
それよりも、やっぱりヒトの内面世界ほど大きいものはないな。

こんなふうにモノを見つめて宇宙を想う、
そんなことができる良書でした。


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