秋の大気は

空の遠く
どこか遠くで
飛べない鳥たちの足音を聞いた
悲鳴のような声が
優しく大気に充満していく
オレンジ色に塗りつぶされて
雲の群はすこし窮屈そうに
肩をふるわせた

秋の夕暮れに悲しい歌が広まる
痛い、痛いよ
子どもたちが泣いてる

さみしさが募る数時間のあいだに
ぼくは足音を数えてみた
二十万と少しの
砂埃の色をした音符だった
線の上に並べてみたところで
メロディにはならない
いったい何のための営みなのか

懐かしい香りが
懐かしくなくなったのは
いつからだろう
痛みが背中へ抜けていく
切り取られた内臓を
肩に載せられているみたい
がらんどうの胸の中で
オレンジ色の細かな花が
狂い回った

それは飛べない鳥たちの
血染めの後ろ姿だった
固まってしまった羽を
重たそうに揺らしながら
印をつけるみたいな
奇妙なリズム

今夜は月が出ないから
行き先も決められないね、と
君はつぶやいて
二十万と少しの
印をつけたぼくの手を止めさせた

そうだ、
大気は優しい悲鳴に満ちている
悲しくないふりを続けるのは
やめてしまおう
繰り返されるオレンジ色の悲しみを
ぜんぶぶちまけるような夜の始まりだ

振り向いたら
空はもうどこにもなかった

2021.09.26

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