見出し画像

厚顔無恥な幸福の手紙

拝啓、鈴木いづみ様

冷たい雨が優しかったり、真夜中が優しくない二月、憧れの貴女の何度目かの命日に荻窪の窓際で裸に毛皮のコートを着ておりましたが電話する相手もおりません。
泣けるくらいならたいしてつらくもないと言った貴女のようには未だになれず、めそめそと惨めたらしく泣いて過ごす日々を送ったり送らなかったり主に花粉でずびずびしております。
主に、ということでそれ以外の理由もいくつかありまして、これがまた「作画が浅野いにおで20代じゃないと許されなさそう」なことをやっております。良い歳してバンドマンの女かよ、っていう。クソが。
結局は自己嫌悪の最中なのですが、自分の価値を相手に移転した気になって、気付いたらなんかずっと私の部屋で寝泊まりしてるな、なんだこいつ…となっております。
そして現在は意味のわからない存在になっておりますが、仕事のない日に気まぐれに作ってくれる味噌汁や炒飯がめちゃくちゃ美味しくて腹立つなんだこれとなったりならなかったり、仕事でメソメソしてるときにぬいぐるみを添えた温かい寝床を作ってくれて夜中の散歩に付き合ってくれて、みたいな沼にズブズブ沈み込んでいることを見ないふりして過ごしているわけですが、しかもなんかよくわからんうちにむこうの中では「彼女」に昇格したっぽいけどお前私の家から本命の女抱きに出かけたときもデリヘル検索してるときも既に付き合ってたのか知らんが殺意しかねーからなクソ野郎、みたいな感じでして、他人の、よりにもよって男にメンタルやられて惨めな人生を日々送っております。自立と自律なんて知らんがな。

マジでどうしようもない人生でございまして、クソ野郎と寝ている私のシングルベッドが狭いし壊れかけているので、数年後に貴女の後を追うために二段ベッド買ってしまおうかな〜なんて考えております。ストッキングはいつでも買えるし。
泣きながら仕事から帰ったときに、部屋の電気がついていてご飯も出来てて「おかえり」なんて言われたら、それはもう絆されてしまって、家賃払えなんて言えないまま「もう暫くこのまま居てよ」って気持ちになってしまいました。好きも嫌いも私の心の匙加減だし、わかってる、わかっているんですよ、もうダメなんだよ何もかも。でも、別に今まで正しいことや清い流れが人生で多かっただけで、いい子にしてる生活しやすかっただけで、汚いことや間違っていることをしたことがないわけではないし、蓮は泥から咲くんだよ、と現実を湾曲して綺麗に見せて自分を納得させて生活をしていくしか方法がない気がしております。

普通に生きてるだけでもしんどいし、多少の苦しさや痛みが増えたところであんまり変わらないと思っております。耐えきれず死ぬならそれもまた良いのでは?となっているところです。
美しい死なんて到底無理なので、僅かな生命力をお金を稼ぐことに費やし、機嫌良く生活できる環境を整えているところです。死ぬときにはできる限り周りに迷惑かけてやるからな覚悟しろ。

尊敬を超えて神格化しつつある貴女に直接「好きです。貴女の作品と出会い、自分の中にある感情や思考が明文化され、可視化されたことで呼吸ができることが増えました。」とお伝えできることは、もう少しだけ先になるかと思いますが、近い将来に二段ベッドとストッキングを飛び越えて貴女に出逢えるようにしたいと思っております。
まあ実際会えたとしても、私みたいな女のこと嫌いそうだけど。

敬具

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?