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悲嘆について学ぶ(2)

関本雅子さんのお話から学んだこと

2022年秋期公開講座(上智大学グリーフケア研究所)「悲嘆について学ぶ」第2回(2022.10.20)

「息子(関本剛)を看取った経験から悲嘆について考える」
関本雅子氏(関本クリニック 理事長・院長/日本ホスピス在宅ケア研究会 理事)


【今回の学び】
(1)関本剛さんとは
(2)アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)とは
(3)リビング・ウイル(尊厳死の宣言書)とは 
(4)旅立つ人からの手紙
(5)「死別後の悲嘆に影響を及ぼす因子」と「死に至る3つのパターン」
(6)今回の気づき


我が子に先立たれる悲しみは、大切な人を亡くす悲しみの中でも、とりわけ深く、特別なものと言われることが多いですが、親子でホスピス運営に携わっていらっしゃった関本雅子さん自ら、息子さんの死について、専門家そして、そして、親としての立場でお話してくださいました。

(1)関本剛さんとは

1976年産まれ、関西医科大学卒業。
お母さまである雅子さんとともに、神戸市の在宅ホスピス「関本クリニック」で、緩和ケア医として1000人以上の看取りに携わってきました。
ところが、自らも2019年にステージⅣの肺がんであることが発覚し、2022年4月に亡くなられるまで、がんになった緩和ケア医としてのメッセージを発信し続けていました。

私自身は、今回の講義を受けて初めてお二人について知りました。地元メディアである神戸新聞社をはじめ、NHKなどにも多数取材されているので、ご存じだった方も多いでしょう。

(2)アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)とは

ACP(Advance Care Planning)とは、「人生の最終段階を迎えた時、本人の希望に沿った治療やケアが受けられるよう、事前に家族や友人、医療、介護従事者らと話し合っておくプロセス」のことです。

国(厚生労働省)も、ガイドラインを作成しており、「ACP:アドバンス・ケア・プランニング」として普及・啓発を進めていましたが、より馴染みやすい言葉となるよう「人生会議」という愛称で呼ぶことが決定されています。

具体的には、下記のような内容になります。

・もし生きることができる時間がかぎられているとしたら、あなたに
とって大切なことはどんなことですか?

・「生き続けることは大変かもしれない」と感じる状態になったら、ど
こでどのように過ごしたいですか?

・自分の考えや気持ちを伝えられなくなった時や、治療などについ
てきめられなくなった時に、貴方の代わりに医療やケアを話し合う
信頼できる家族や友人はどなたですか?

・病気の予想される経過や余命を知りたいですか?

(関本雅子さんの講義より引用)

雅子さんによると、実際に死期が近づいていることが判明した段階で、関係者で話し合いの場をゆっくり持つことは難しく、予め各自が考え、代理意思決定人(配偶者、子ども、親など)に共有化しておくことが大切だそうです。

剛さんの奥様がしっかりと代理意思決定人の役目を果たされたことが、良い最後につながったそうです。

私も、夫に自分の意志を伝えておき、夫の希望も確認しておきたいと思いました。

(3) リビング・ウイル(尊厳死の宣言書)とは

Living Will リビング・ウイル(尊厳死の宣言書)とは、アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)より一般的かもしれませんが、延命治療についての申し送りをする文書になります。

具体的には、下記のような内容になります。

私は、私の傷病が不治であり、かつ死が迫っていたり、生命維持装置なしでは生存できない状態に陥った場合に備えて、私の家族、縁者ならびに私の医療に関わっている方々に次の要望を宣言いたします。

この宣言書は、私の精神が健全な状態にある時に書いたものであります。
したがって、私の精神が健全な状態にある時に私自身が破棄するか、又は撤回する旨の文書を作成しない限り有効であります 。

・私の傷病が、現代の医学では不治の状態であり、すでに死が迫っていると診断された場合には、ただ単に死期を引き延ばすためだけの延命措置はお断りします。

・ただしこの場合、私の苦痛を和らげるためには、麻薬などの適切な使用により十分な緩和医療を行ってください。

・私が回復不能な遷延性意識障害(持続的植物状態)に陥った時は生命維持措置を取りやめてください。

以上、私の宣言による要望を忠実に果たして下さった方々に深く感謝申し上げるとともに、その方々が私の要望に従ってくださった行為一切の責任は私自身にあることを付記いたします。

(関本雅子さんの講義より引用)

リビング・ウイルも、人生会議の中で一緒に行い、万が一の時に役立てるように準備しておくと良いそうです。

(4)旅立つ人からの手紙

講義では、遺される家族・友人へ手紙を残すことを薦めていました。

剛さんは、死の約1年半前の2020年10月、ご自身の葬儀へ参列される方へのメッセージを動画撮影されています。(下記、YouTube「関本剛 お別れの挨拶」神戸新聞社)

公開されている動画の他に、ご家族へのプライベートメッセージも残されたそうです。

実は、私の父が亡くなった10年後の暑い夏の日に、父からの私宛の手紙が届きました。
本当に驚きましたが、この手紙は、あるイベントで郵便局が主催したもので、15年後に手紙が届けられるというプログラムでした。

その年は、ちょうど私が夫と結婚した年だったため、結婚式に出席してくださった皆さんに父から私へのメッセージを紹介することができました。

この手紙を書いたときは、父の死の5年ほど前になりますが、自身の早い死期は予感していなかったでしょうし、その年に娘が結婚するとは全く考えておらず、軽い気持ちで送ったのだと思います。

父らしい独特の言い回しで、15年後も私に元気で過ごしていてほしいというメッセージが書かれており、本当に偶然ですが、結婚して新しいステージへ移行する私へのはなむけの言葉となりました。

父の死後ではありますが、父との思い出の中でも大切なものです。

(5)「死別後の悲嘆に影響を及ぼす因子」と「死に至る3つのパターン」

今回の講義は、父の死の振り返りと、今後の人生にとても役立つ内容でしたが、専門的な解説で「なるほど」と腑に落ちたポイントが二つありました。

1つ目は、「死別後の悲嘆に影響を及ぼす因子」(下記参照)です。

私自身が、父との別れを長年に渡って消化できなかった原因には、下記の1、3、8が関係しています。

1.死別対象者との関係性
ちょうど思春期で異性の親が疎ましく感じる時期だったこともあり、優しく接することができていなかった。
3.家族関係 多くの時間を共有できたか
1とも重複しますし、高校2年生という成人前の早い時期に父を亡くしたことも大きな要因です。
8.看取りの状況(穏やかであったか?)
出張帰りに倒れて亡くなったため、あまりにも突然でした。
倒れたという一報を聞いて駆け付けた病院で意識のない父との面会時に看護師さんに「一人で対面して大丈夫か?」と確認されたことが今でも忘れられません。
衝撃に配慮してのことだと思いますが、その時の私は強気で「大丈夫です」と言ってしまいました。

「死別後の悲嘆に影響を及ぼす因子」
1.死別対象者との関係性
2.他の悲嘆が先行する場合
3.家族関係 多くの時間を共有できたか 代理意思決定人としての役割を果たせたか
4.個人の性格的要素
5.本人が納得のいく人生を送れたかどうか
6.社会的支援システム、経済、医療、介護
7.本人の死生観
8.看取りの状況(穏やかであったか?)

(関本雅子さんの講義より引用)

2つ目は、「死に至る3つのパターン」です。
これは、死亡するまでの身体機能の変化が、死亡理由別に紹介されていました。
図の引用はできないので、言葉でご説明すると・・・。

縦軸:体の機能、横軸:時間経過の折れ線グラフで示した場合。

1.がん:正常な状態から崖のように急降下するグラフ
2.内臓疾患:良い状態と悪い状態を行ったり来たりしながら、徐々に右肩下がりになるグラフ
3.虚弱と認知症:時間経過とともになだらかに下降するグラフ

父の場合も昨日出張に出かけていったのに翌日は意識がない状態で病院のベットの上にいたので、その急激な変化に全くついていけませんでした。

(6)今回の気づき

最後に、剛さんが、生き方の参考にした言葉の中で、印象に残った言葉をご紹介させてください。

良き死は、逝くものからの最後の贈り物となる

(アルフォンス・デーケン)

アルフォンス・デーケン氏も、カトリック司祭、上智大学名誉教授で、死生学専門です。著書もあることがわかりましたので、数珠つなぎにどんどん読みたい本が増えていきます。


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