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悲嘆について学ぶ(5)

神仁さんのお話から学んだこと

2022年秋期公開講座(上智大学グリーフケア研究所)「悲嘆について学ぶ」第5回(2022.11.17)

「仏教における悲嘆について考える ”臨床仏教師としてのいのちのケア”」
神仁氏(東京慈恵会医科大学附属病院スピリチュアルケアワーカー)

2022年度秋期講座第5回は、僧侶の神仁さんからのお話でした。
宗教の違いを超えての登場。シスターと僧侶が同じ画面に登場する映像からして斬新!
お話の内容は今回も学びどころ満載でした。

(1)仏教と緩和ケア

ホスピスはキリスト教系の施設で行われていることが多い印象を持っていました。
少し調べてみると(公益財団法人 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団HPからの引用)、やはり日本においてのホスピス運営のスタートはキリスト教系団体よるものでした。

ホスピスは1967年、シシリー・ソンダース博士によって開設されたロンドン郊外の聖クリストファー・ホスピスに始る。主にがんの末期患者の全人的苦痛を、チームを組んでケアしていこうというもので、日本では1981年に浜松の「聖隷ホスピス」、1984年に「淀川キリスト病院ホスピス」が開設されました。

公益財団法人 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団

神氏は、東京慈恵会医科大学附属病院にスピリチュアルケアワーカーとして勤務されていますが、日本では僧侶が緩和ケアに具体的に携わっている事例はまだ少ないのでしょう。
台湾においては、僧侶が大学病院の緩和ケアチームの一員として、僧侶と一目でわかる服装で参加している様子などもご紹介がありました。

こういったケア等に携わる人材を育成するために臨床仏教師という資格があるそうです。
臨床仏教師とは、「人生の生老病死にまつわる現代社会の苦悩と向き合い、専門的な知識や実践経験をもとに行動する仏教者のこと」だそうです。

(2)仏教用語とグリーフケア

今回のお話の中で、仏教用語のご紹介もありました。

私の母方は京都で仏教にとても関りが深い家で、母も仏教系の大学を出て、仏教系の教育機関に勤務していましたが、私自身は父方の影響でクリスチャンの家庭に育ちましたので、仏教用語についての知識は深くありません。
今回ご紹介いただいた用語の一つ一つが新鮮でした。

「四苦八苦(しくはっく)」、「四聖諦(ししょうたい)」について、備忘のために以下に残します。

「四苦八苦」(しくはっく)
1.生苦:生まれること、生きることに伴う苦しみ
2.老苦:老いに伴う苦しみ
3.病苦:病を得ることに伴う苦しみ
4.死苦:死に伴う苦しみ
5.愛別離苦:愛おしいものと別れる苦しみ
6.怨憎会苦 (おんぞうえく):キライ、苦手なものと会う苦しみ
7.求不得苦 (ぐふとくく) :欲しいものが得られない苦しみ
8.五陰盛苦 (ごおんじょうく):自分の心、身体、感覚等を制御できない苦しみ

講義資料より

「四聖諦」(ししょうたい)
真理とダルマ
1.苦諦:人生には多くの苦しみやグリーフがあるという真実
2.集諦:苦しみやグリーフには必ず原因があるという真実
3. 滅諦:苦しみやグリーフは癒し取り除くことができるという真実
4. 道諦:苦しみやグリーフは癒し取り除く道があるという真実

講義資料より

今回ご紹介いただいた用語の中にも耳なじみのある用語がありましたが、日本人の暮らしの中に溶け込んでいる仏教用語。少し前にこんな本を知り、購入してみました。
あれも?これも??、日本語のほとんどが仏教語で出来ているのではないかと思うほど・・・。

(3)QOLとQOD、WHO憲章

神氏は、QOLとQODというキーワードについても触れられました。

QOL=Quality of life(クオリティ オブ ライフ)は、「生活の質」と訳されていて、良く知られているキーワードですよね。
抗がん剤治療などにおいて、効果は高いけれども、患者に苦痛を伴うものを優先的するのではなく、負担を軽減し、これまでの生活を維持できる治療を選択することと理解していました。

QODというキーワードを今回初めて聞きました。
少し調べて見ると、QOD=Quality of death(クオリティ オブ ライフ)は、「よい死(good death)」と表現されることもあり、死のあり方や死にゆく過程に おける全般的な質を意味するそうです。

また、1947年に定められたWHO憲章の「健康」の定義等についてもご説明がありました。

「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」

公益社団法人日本WHO協会 HPより

今回の講義を受けるまで知らなかったのですが(本当に無知。でもいま知ることができて良かったです!)、今から70年以上前に、健康というのは、肉体的だけでなく、精神的、社会的にも満たされた状態のことと世界的機関で定められていたんですね。
 WHOでは、1998年に「spiritual(霊的)」等を加えた新しい健康の定義が検討・見送られましたが、2002年に定められた緩和ケアの定義の中にスピリチュアルも苦痛を予防し和らげる手段として盛り込まれていることについて教えていただきました。

(4)今回の気づき

・臨床仏教師について初めて知った。
・台湾の緩和ケアに僧侶が参加しているの興味深い。その地域に根差したやり方がある。
・宗教の種類の違いはあっても、目指すところは同じ。

「QOLとQODはコインの裏表である。」
「良き生の中によき死がある。」
というお話がありました。

これは、第2回講義で関本雅子さんからお話のあったアルフォンス・デーケン氏の言葉「良き死は、逝くものからの最後の贈り物となる」とも通ずるところがあるような気がします。



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