卒業制作の話

今日たまたま見かけたニュースで、「卒業制作に日本画でマンガを描いた。写植も手書きした」というものがあった。
詳しくは見ていないが、さわりだけ見て、将来マンガを描く仕事をしたかった人が「大学だけは行ってくれ」と言われて美大の日本画科に行ってマンガを描いたのかなと勝手に想像し、「あるある」と思って、自分の卒業制作のことを思い出した。

高校二年生までは生物関係の進路を考えていて理系を選択して頑張っていたが、数学がどうにもダメで、秋頃に美転し、現役で某美大に入った。
美大に行かせてくれるくらいの懐事情だったがめちゃくちゃ裕福というわけではなかったので、有利子の貸与型奨学金をもらいバイトもしつつ片道2時間かけて実家から通っていた。
そんな感じなので、留年・就職浪人はできないだろうなと思い、就職につぶしのききそうなデザイン学科を選択し、教職課程もとって卒業したらすぐに働けるように備えていた。
前置きが長くなったが、教職課程のおかげで単位が余裕で足りていたので、4年次にアニメーションの授業をカルチャースクール感覚で履修してみた。そこで、アニメ面白いな〜と思って、卒業制作ではアニメの技術を使ったものを作ることにした。

コンセプトは、「偶然の美しさを考える」というものだった。
デザインや絵画、彫刻、写真等に身近に触れてきて感じたのは、パズルのように考え抜かれた構図・色彩・質感等々で作品はできているということだ。
3年半(美大受験勉強期間を含めたら4年半くらい)考え抜かれた良質なものを見続けて、ちょっと飽きていたんだと思う。
偶然が重なる連続した動きのなかで、乱数によって止めたその瞬間を切り取ったものは「美しい作品」となるのか? という、いかにも学生の浅知恵という感じのお題を考えて、それをコンセプトとした。

具体的な作品内容は、
①バレエダンサーの動き 数種類
②水彩で着彩した和紙のテクスチャー 数種類
上記を映像上で重ね合わせ、乱数によって切り出した秒数のスクリーンショットをポスターとして展示する。映像もついでに展示する。 というものだった。

制作過程について。
①は、叔母から提供してもらったバレエの振り付けが収録されたDVDをコマに分解してシルエットのみPhotoshopで1コマずつ切り出し、AfterEffectsで映像の形式にした。
②は、障子用の和紙を買ってきて水多めの水彩絵の具1色で着彩したものを数パターンスキャンした。
そして、①と②をPremire上でオーバーレイとか乗算とかで重ね合わせて回転させたり透明度フェードさせたり反転させたり動かしたりして、同じ絵が作られないような3分くらいの映像を作成した。
その3分の中から、乱数表で4種類の秒数をランダムで選び出し、そのスクリーンショットを大きめのインクジェット紙に印刷して、作品は完成した。

で、ここからが悔いの残るところなのだが、コンセプトを展示時に何も書かずに展示会場に設営して、作品名と名前だけ書いたキャプションを張っておしまいにしてしまったのだ。
浅知恵ながら考えたことは色々あるのだが、謎のポスターと映像だけでは何がなんだかわからない。
卒業制作の担当教授にも評価兼卒業制作展当日に突っ込まれた。時すでに遅し。

卒業制作展は両親も見にきてくれた。父か母か忘れたが、「あんたの作品をじっと見てくれてる人がいたから声かけてみた」「知り合いじゃなくて、綺麗だから映像を見てたんだってさ」と感想のカツアゲ結果を聞かせてもらうことができた。
納得いっていなかったので複雑な気持ちだったが、嬉しいは嬉しかった。

そのまま浪人せず、デザイナーではなく企画職として新卒で社会人になった。(志望している業界のOB訪問をしたら、うちの会社を受けるならデザイナーでなくプランナーで受けた方がいいと思うよと言われ、その通りにしたらその会社に受かったので、他の選考を途中で辞退してもうそのままそこに就職した。)
それから何年も経って、転職活動をしているときに「卒業制作のポートフォリオを見せてください」と言ってくる会社があった。そのときもらっていた給料の2.5倍くらいの額を新卒に支払ってる会社だったので、血眼になって実家を探したが、卒業制作の映像は発見されず、微妙なポスターのサムネだけが残っていた……。(その会社は書類でお断りされてしまった。)

この話のオチは特にない。
自語りしたい夜もある、それだけだ。

余談だが、大学4年の時と社会人3年目くらいの時に、ひとの卒業制作を徹夜で手伝ったことがある。(両方アニメーション)
元々そんなに親しくない人だったので、どちらの人ともすぐに縁が切れてしまったが、ひとの卒業制作を手伝うのはその人の歴史に無駄に名を連ねるようで楽しい。


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