『ボクと魔王』について

『ボクと魔王』は2001年に発売されたRPGだ。RPGとしてはいたってシンプル、オーソドックスな作りではあるが、最大の特徴はその独特な世界観だ。勇者がいて、魔王がいる。町の外にはオバケがいて、王女様がお忍びで旅をしているらしい。そんな中で主人公が出会う村や町の人々の大半は、まるで普通のRPGの舞台裏にいるかのように気の抜けたことばかり口にする。

基本的に不可避のシンボルエンカウント戦闘、特にダンジョンで露呈する劣悪なカメラワーク、上記二つの合わせ技など、欠点は無視できないゲームではある。それでもこの記事で紹介したのは、このゲームの素晴らしさがテキストにあるからだ。

RPGの基本である、モブキャラに話しかけて情報収集は『ボクと魔王』でも例外ではないが、それにしても無駄にキャラ付けされたキャラで溢れていて、章が進むとストーリーに関係のないところでも台詞や人物が変化する。最初の村の【恐がるおじさん】はずっと何かしら恐がっているし、終盤で唐突に現れる【まだ透明のつもりの人】は今でも謎だ。

敵モンスターであるオバケの名前において、序盤の【元気なカエル】が【忍びよるトラ】を経て、いつのまにか【死せる月】とギャップを作りながら一貫性、統一感を欠かさない点や、簡素ではあるがたまに琴線に触れるアイテムテキストも魅力だ。特に気に入っているのは毒を防ぐ【ファラオの髪】の「偉大な王の力は不浄なものを寄せつけない」と【気高きレイピア】の「おいそれと手にできない雰囲気を漂わせる」だ。

PS2黎明期において、ハードの性能を作風にマッチした3Dビジュアルとして発揮し、ここでは触れなかったがBGMにも一分の隙もなかった『ボクと魔王』だが、私はその本質は「読むRPG」であると思う。奇人変人の与太話、とりとめのない話の全てがはたしてそこに留まるばかりなのか。時間をかけて隅から隅まで読み尽くす寄り道をする価値がある。

「ねえねえ、ふしぎなんだけどさあ。
いろいろと引越ししたいんだけれど・・・・
でも、あまり遠くの町には行きたくないの。
なによりそれ以前に、遠くの町のことは
あまり知らないのよね。
あなたは、どう? 知ってる?
駅の裏の山のむこうがわとか
テネルの役所のさらに裏手とか・・・・。
本当はなにがあるのかしら。
王都って、どこにあるのかしら。
お姫様はどこに帰るのかしら。
ふしぎ・・・・。」

もしもこれから遊んでみようという人がいるならば、主人公の父親の名刺は結局クソの役にも立たないことと、主人公の村の宿屋の主人は女勇者が泊まったベッドで身悶えする人であることを伝えておきたい。