強敵について

靖国さんとは『アーマード・コアV』(以下ACV)で出会った。

ACVとはフロム・ソフトウェアから発売されたロボットアクションゲーム『アーマード・コア』(以下AC)シリーズの一作である。プレイヤーは目的に応じてカスタマイズできる戦闘メカ「AC」を操作して様々なミッションをクリアし、ストーリーを進めていく。これはACVでも同じだが、ACVのメインはオンラインでのプレイヤーチーム同士のチーム戦だった。

多くのプレイヤーがチーム戦に励んでいたが、私は勝敗に応じて個人のポイントが増減するランクマッチの、一対一形式の個人戦「デュエル」でばかり遊んでいた。「対戦ゲームに仲間はいらねぇ。相手がいればそれでいい。そして最強は俺だ」という気持ちで遊んでいたし、そもそも付き合いが面倒だったからだ。

発売からしばらくしてランクマッチのプレイヤー層は大分固定化され、名前、エンブレム、戦法等で印象には残っているが話したことはない顔なじみの相手も増えてきた。その顔なじみの一人が靖国さんだった。靖国さんの印象はわりと最悪だった。

ACVでは自機が撃破されると膝をついて停止した状態でエリアに残される。そして他人の機体に接触されると爆発四散する。いわゆる死体蹴りができる。撃破されてもカメラ視点は生きているので、相手の意地が悪いと自機に対する辱めをただ見ていることしかできない。靖国さんと私との総合戦績は7:3ぐらいで私の負け越しだったのだが、靖国さんは勝つとだいたい最大加速からの死体蹴りを見舞ってきたので、なんだこいつはと思っていた。

私が情報収集のために出入りしていた界隈では「勝った奴の自由」「嫌なら負けるな」が常識で、私も「こいつに負けると死体蹴りされるからランクマッチでは対戦拒否」なんて腰抜けのすることだと思っていたので(今は礼の無い人間と遊んでやる時間も筋合いも無いと思っている)靖国さんとは毎度律儀に対戦し、全力を尽くした。HelloやThank you等の簡易チャットの挨拶は無視した。そんな感じで何ヶ月か遊んでいた。

ある時、靖国さんから対戦後にメッセージが来た。それは至って普通の敬語の文面で、私を靖国さんの所属するチームに勧誘するものだった。

死体蹴りぐらいなんだ。そういう環境で鍛えられてきたのだろう。そんな男と共闘という形で遊んだならば、きっと楽しいはずだ。たかだかメッセージ一つで靖国さんのイメージはガラッと変わった。好きなゲームで初めて友人ができたことと、勝ちたいと思っていた相手から実力を認められていたことがとても嬉しかったのだ。

勝ってはざまぁみろ、負けては悔しいを繰り返した挙句に知り合った強敵、靖国さんは私のゲーム遍歴の中でもかなり独特の際立った存在だ。募らせた憎さ苛立ちを拗らせたのかもしれない。チームの仲間としてより先に対戦相手として出会えたことは幸運だった。

返信で簡易チャットとはいえ大人げない理由で挨拶を無視していたことを謝り、靖国さんを通してリーダーに確認を取ったうえで、ありがたくチームに参加させてもらった。こうして私はチームエンブレムに旭日旗を掲げる「大東亜共栄圏」の一員となった。「特に政治思想を持っているわけではないよ」とリーダーは言っていたが、それはそれでどうなんだろうと思った。

「あの死体蹴りはなんだったんですか」「いや、あれは死体蹴りではなくですね!負かした相手の目の前ギリギリを高速で駆け抜けてかっこよくフェードアウトしたかったんですよ!」「ガンガンぶつかってたんで印象最悪でしたよ」「ぶつかるかどうかのギリギリを狙うのでだいたい失敗してぶつかりますね!」「それは…うーん…やっぱり最悪なんじゃないっすかね」