AmPmがam8の名曲をリミックス! そのコンセプト&制作を語り尽くす
“右”と“左”から成るエレクトロニック・ミュージック・ユニット=AmPm(アムパム)が、am8の「Hatsukoi ft. HANA」をリミックス! 原曲と合わせたEP『am8 killed by AmPm』として、7月7日にデジタル・リリースされた。AmPmと言えば、2017年のデビュー曲「Best Part of Us」がグローバル・ヒットし、同年のSpotifyにおける海外で最も聴かれた日本人アーティストとなったことでも有名。今回のリミックスは、持ち前のプロデュース手腕を振るったチルなハウス・トラックで、原曲からのコード・リハーモナイズなどを含め抜群の完成度だ。しかし、ネコのマスクがトレードマークのam8を、ウサギの覆面ユニットであるAmPmが“殺す”って、一体どういうこと……? am8自らAmPmにインタビューし、リミックス制作からユニットとしてのビジョンまで幅広く聞いた。
「Hatsukoi ft. HANA」は今年のマイベスト作かもしれない
am8 am8に対する第一印象から聞かせてください。
右 まずはびっくりしました。ネコが来た!と(笑)。言葉を選ばずに言うなら、イロモノなのかな?って最初は思ってしまったんです。でもリリース済みの楽曲を聴いてみると、“これは相当のプロがやっている音楽だ”と。僕らの聴いてきた音楽との共通項もたくさん見つかったし、聴けば聴くほど純粋にすごいと感じて、タダモノじゃないなと思うようになりました。
am8 AmPmもいわゆる覆面ユニットなので、そこも偶然に共通項なのかなと。
右 そうそう、まさに僕らの仲間というか、近しい感じのアーティストが出てきたと思って。それに僕らのクリエイティブよりもハイレベル……アーティスト写真にしてもマスクの立体的な造形にしてもプロフェッショナルだし、楽曲に関しても武田カオリさんをフィーチャーする意外性とか、その武田さんにHANAちゃんを合わせてくるセンスとか。これは完全に、どこかのメジャー・レーベルのプロジェクトだと思っていたんですよ。でも蓋を開けてみたら、まさかのインディーズで。だから僕らも勉強になるというか、いろいろお話をしてみたいと思っていました。
左 今回リミックスさせてもらった「Hatsukoi ft. HANA」は、僕が近ごろ聴いている日本のポップ・ミュージックで一番好きなくらいの曲なんです。かつてFreeTEMPOやMONDO GROSSOに感じていたフレーバーが現代的にアップデートされて入っている印象で、今年のマイベストなんじゃないかと思うほど……刺さりましたね。
am8 リミックスには、どのような方針があったのでしょう?
左 これをどう料理するか、AmPmとして表現するかというのをじっくりと考えました。そのプロセスの中でチル・ハウスと呼ばれる楽曲をたくさん聴いて、1990~2000年代的な哀愁感をとどめつつ、今のフレンチ・ハウスのプロデューサーたちが手掛けているようなテイストを組み合わせるのはどうだろう?と。 DJユースも視野に入れていましたが、あまりアグレッシブにするのは違うなと思い、方向性からトラック・メイカーの方と詰めていった感じです。
am8 その制作工程が見事に音として結実していますね。
左 もう一つ考えていたのは、このリミックスがオリジナル(原曲)を聴くきっかけになればいいなということ。トラックそのものは4つ打ちのダンス・ミュージックなので、そういう音楽のリスナーに聴いてもらった結果、オリジナルが再発見されるような流れもできてくるんじゃないかと。海外はもちろん、国内の音楽ファンにもしっかり届けたいですね。
【Hatsukoi -ft. HANA AmPm Remix】
【オリジナルver.のMV】
直接つながることができて リスペクトの念を持てる人とコラボしたい
am8 ここからは、あらためてAmPmについて伺いたいのですが、そもそもプロジェクト始動の経緯はどのようなものだったのでしょう?
右 2013~14年ごろに国内外のさまざまな地域を回って、アーティストやクリエイター、現地の特産物を作っている人たちに出会い、“世の中には素敵なクリエイターがたくさん居るんだな”と、あらためて感じたんです。で、何かできないものかと話し合った結果、そういう人たちを紹介するフェスをやろうという発想が浮かんで。2015年に2人で会社を立ち上げ、恵比寿のLIQUIDROOMで開催することにしたんです。国内のいろいろなアーティストを招聘したり、物産展のように地場のものを紹介するなど、多角的な内容にできたと思っています。その会社の社歌として「Best Part of Us」を作ったのがAmPm始動の一番のきっかけですね。
am8 2017年にリリースされることとなるデビュー曲ですね。
左 僕個人のDJとしてのキャリアにも通じる部分があって。活動を通してミュージシャンと仲良くなり、彼らとの関係性をベースにソウルフル・ハウスやNYハウスのような曲を作っていたので、その経験や方法論をAmPmにも生かせそうだなと。「Best Part Of us」でフィーチャーさせてもらったMichael Kanekoは当時、今ほど有名ではなかったけど、“点”ではなく“線”での紹介……つまり先に続いていくようなスポットライトの当て方をできたんじゃないかと思っています。今回のam8のリミックスも然り、直(じか)につながることができて、なおかつリスペクトの気持ちを持てる方と何かをやってムーブメントを起こしたいんです。
am8 お二方は、どのような音楽から影響を受けてきたのでしょう?
右 私はどちらかと言えばイギリスの音楽全般で、一番はご多分に漏れずザ・ビートルズです。さいたまスーパーアリーナにジョン・レノン・ミュージアムがあったころは、彼の命日にお花を供えに行っていたくらいで。もちろんロンドンへもたびたび足を運んでいます。あとは、1970年代前半のサイケデリック・ロックみたいなものが割と好きでした。でも全体としては結構、雑食です。そもそもイギリスのポップ・ミュージック自体がミクスチャーな音楽だと思うので。
左 僕はMONDO GROSSOを含め“Jハウス”と呼ばれるような音楽……渋谷THE ROOMの流れでbirdさんやUAさん、Monday満ちるさんとか。その辺から入って、プリンスやマイケル・ジャクソンなどのソウル・ミュージック、フランキー・ナックルズをはじめとするハウス・ミュージックに影響されました。特にNYハウスからの影響が強いと思います。
am8 楽器演奏やバンドの経験はあるのでしょうか?
右 母がピアノの先生だったので、幼少期からピアノをやっていました。高校に入るとギターを始めて、文化祭などで演奏することはありましたけど、それ以上何か……というのは無かったですね。
左 僕もBOØWYのコピー・バンドとかでベースをやっていたくらいで、基本的にはDJがメインでした。ちなみにDJを始めたのは結構遅く、22歳のころに大学を卒業して会社員になって、初めてクラブに行ったんです。それで半年くらい通い詰めて、やっと平日の深夜枠でプレイさせてもらえるようになりました。
クリエイションのトレンドを追う以上に “いつ勝負を仕掛けるか” を重視している
am8 右さんはAmPmの活動と並行して、広告制作のお仕事をされていますよね?
右 はい。今も自分で制作会社を運営しています。クライアントによって求められるクリエイティブが全然違うので、各プロジェクトに関連性が無く、それぞれが独立しているような感じで。だから広告制作とは別にAmPmがあっても、何の違和感も無く継続できているんです。あとは広告を作る上で、業界/業種ごとのプロモーションの方法やマーケティングの考え方などさまざまな情報を得ることになるので、世の中の動向がよく分かりますよね。そういうのをAmPmにも生かせているのではないかと思います。一方で反動のようなものもあり、クライアント・ワークによるある種のストレスも抱えているため、その中で見失いがちな“自分らしさ”のようなものを取り戻せるのがAmPmなのかなと。
am8 世の中のトレンド感をキャッチして音楽に落とし込むプロセスは、主に右さんが担当している?
右 そうですね。トレンドの分析は、ほぼ私が行っています。それこそ、流行っている音楽を解析してみたり。ただ、アナライズから導き出せることがあると思う反面、やっぱり音楽やクリエイティブってトレンドがすべてではないというか、時に真逆のものが面白かったりすると思っていて。なので恒常的に分析はしているんですけど、それ以上に“いつ勝負を仕掛けるか”の方が重要という気がしています。
am8 AmPmは、曲ごとに異なるボーカリストを起用するだけでなく作家陣を擁するなど、“不特定多数のクリエイティブ・チーム”といった体制ですよね。
左 楽曲制作にあたってのコンセプトを立てた段階でチームを編成するような、業務委託みたいな体制ですね。例えば昨年はR&Bに強い人たちと組んでいたし、今年だったらスラップ・ハウスなどのダンス・ミュージック方面に寄せているので、その周辺の方々とやっています。時期によってチームを柔軟に編成できるというのが強みですが、僕自身が楽器演奏に達者ではないので、曲の核になるイメージをニュアンスでしか伝えられないのが苦労する点ですね。歌詞については恋愛や失恋に関するものが多く、自分たちが良いと思う作家の方に大まかな部分だけディレクションして、あとはお任せすることがほとんど。微に入り細に入り指定せず、トップ・ラインを含めて“隠か陽か”という方向性だけを僕らが決める感じです。
am8 AmPmのプロダクションの一端が垣間見えて、大変興味深いお話でした。最後に直近の活動について教えてください。
右 6月に「New York City」というダンス・トラックをリリースしました。3月に出した「Tokyo」のシリーズ作という位置付けで、引き続き町の名前が付いたトラックを発表していく予定です。ダンス・ミュージックは、日本ではトレンドでなくなりつつありますが、グローバルに見ればきちんとマーケットのある音楽なので、日本人だからこそ今後も世界に向けてやっていきたい。また、新しいアーティストを招いたボーカル曲を絶賛制作中なので、そちらも楽しみにしていてほしいですね。
【AmPm / New York City】
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