無職転生を観ました(感想)

無職転生を2期の1クールまでぶっ通しで観てしまった。かなり好きだったので感想をまとめておきたい。

正直に言うと、自分は転生モノが苦手だ。
都合の良い展開と納得感のない心の変化。偏った視野の中での願望を投影したような、そんな気味の悪さを感じてしまって今ひとつ楽しめなかった。
もちろんこれは私自身の狭量ゆえの話であって、これらが好きな方は私というつまらない人間を笑ってそっとブラウザを閉じてもらえたら嬉しい。

本題に入る。
無職転生には、なんとなく納得感があった。
引きこもっていた人間としての精神状態や、積み重ねる失敗と成長の流れが、とても自然でかつ解像度が高く感じられたのだ。

主人公ルーデウスには前世があり、転生前は34歳まで無職の引きこもりとして過ごしている。その人生で培ってきた性格や他者からの刺激に対する反応特性は、転生したとて即座に失われはしないはずだ。
自己肯定感の低さゆえの自己愛性や、それが翻って生まれる他者に貢献したがる姿勢、そして自身に矛先が向いた際の反発性。本作で描かれた彼の言動と行動は、そういった前世で彼が培ったものを非常に丁寧に反映しているように感じた。

父パウロとのやり取りなんかは、描写として非常にわかりやすい。
近所の子供に怪我を負わせ、それを父に咎められた際、ルーデウスは謝罪ではなくまず理由の説明から入る。そしてその上で、それを言い訳と断じて聞く耳を持たない父に対して皮肉混じりにその不当性を説いた。
彼は何も間違ったことはしていない。しかしこの行為が世の中や人間関係をうまく回すためのものでないことは、大人であれば当たり前にわかることだ。彼は攻撃的な他者に反撃で応じ、軋轢を生み、父の面目を丸潰しにした。

大災害の後、パウロとの再会シーンでも似たやり取りは見られる。
魔大陸の旅の中で、他の被害者を探すことに思い至らなかった非をパウロに責められた際、彼はまず自分がどれだけ大変だったか・できなくても仕方がない状況にあったかを一番に主張した。自身の至らなさを自覚していてもなお、だ。

当然それを責めるパウロも褒められたものではない。しかしパウロがルーデウスを、許してやるべき子供ではなく一人だけ楽しんでいた不徳な者として見てしまったのは、幼少期より続けてきた彼の行動の結果なのではないだろうか。自身をできた人間だと暗に主張し、パウロに頼れない父としての烙印を押し続けてきたその積み重ねの結果だ。

彼らが他人どうしであれば、二人の関係はここで終わっていただろう。

しかし、彼らは引きこもりの大人と他人ではなく、息子と父であるというのがこの作品の面白いところだ。

どんな息子であろうと、パウロは無条件に愛している。少々余裕がなく辛く当たってしまう時もあれど、正気に戻れば彼は息子の全てを受け止めることができる器の大きい男だ。
そしてルーデウスは、息子として彼に甘えることができる。甘えることが無条件に許されている。

だからパウロは、何度でもルーデウスの前に現れてくれる。どれだけ気まずかろうと、ルーデウスが至らなかろうと、謝罪し、目の前に現れ、向き合ってくれる。
父としての強さと、人間として誰もが当たり前に持つ弱さをはっきりと認識したルーデウスは、ここでやっとお互いを慈しむ選択をすることができた。

引きこもりの大人が、第二の少年時代を経て大人へと一歩成長した瞬間である。

単に転生で一発逆転するのではなく、相応の失敗をし、その度にいじけ、支えてくれる人々のおかげで成長していく。この流れに納得感があり、私は素直に応援することができた。

弱者を守る責任感、他者への慈しみ、自分自身を尊重するということ、精一杯生きること。前世で取り損ねたそれらを一つずつ学び、成長していく彼を見るのがとても嬉しかった。

ひょっとしたら、それらを得ようと今現在も足掻いている私自身を顧みて、彼がその先で救われる未来を見せてほしいと思っているのかもしれない。

ルーデウスは新たな人生を以て、学ぶことが許される幼少期と人生に余裕をもたらす強大な力を得た。しかしそれらは本来、引きこもりの大人に突然降ってくるものではない。
現実には、恥に打ち勝って学び、現状と向き合いながら直向きに何かを積み重ねるしかない。

彼は異世界での新たな人生で健全に成長しつつあるが、それでもなお陰鬱な現世には向き合えていない。私が真に欲しているのは、この先ルーデウスが前世を受け入れ、力もなく未来も暗い現実世界であっても前向きに生きられるだけの強さを身につけてくれることなのかもしれない。
現実を乗り越える勇気を私に分けてくれ。あるいは私の偏った願望を超える、夢のある結末でも構わない。

2期の第2クール以降をこれから観るので、この先も楽しみにしてます。


追伸。
スカして色々語ってはみたものの、絵が綺麗でキャラが可愛いのが非常に良い。性格もビジュアルもオタク受け良すぎるでしょ。
ただお茶の間で流しづらいところだけダメ。

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