世界の端を見に行こう
こんにちは、アーリーです。
突然ですが、私はゲームにおける「プレイエリア外」が好きです。
通常のゲームプレイでは想定されない挙動を取ることによって本来通り抜けられないはずの空間を区切る壁を乗り越え、その先にあるグラフィックの欠けた建物やハリボテのように途切れている遠景、あるいは何もない空間など、シュールで美しい隠された世界の姿を見る。
古き良き裏ワザ投稿サイトや攻略wikiでは「小ネタ・バグ技」などのページに分類され、日本では「裏世界」と呼称するのが一般的なようです。
これは「制作者の意図したものではない偶発的な風景である」という点において、山や森や海や宇宙のそれに近しいセンスオブワンダーを与えてくれます。
私がこの行楽において重視するポイントは、「ゲーム内の動作で再現可能である(デバックモードなどの特殊な手段を用いない)」という点、そして「スコアやトロフィー、ユーモラスな隠し要素など特別に得るもののない、ただ充足のみが目的の旅である」ということです。
今回ご紹介するのは『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』の世界。
2013年に発表された『The Stanley Parable』の拡張版で、メタ的なジョークに溢れた一人称アドベンチャーゲームの傑作です。
そもそもこのゲーム自体が「窓から飛び出してプレイエリアから逃げる」などのネタを主軸とした斜に構えた作品なのですが、そんな本作にもやはり意図されない「世界の端」はあり、そんな本作だからこそ味わえる「端の心地よさ」が存在します。
このゲームには本来、一人称視点作品によくある「ジャンプする」機能が存在しておらず、該当するキーを連打していると「残念だけどジャンプはできないよ」とナレーターに諭される小ネタまで用意されています。
これによって低い柵などで行動範囲が制限されるわけですが、なんと『Ultra Deluxe』では一箇所だけジャンプを行えるロケーションが実装されました。
それが「ジャンプサークル」と呼称される、テープで区切られた半径2m程度の粗雑な円形のエリアです。
該当キーによってエリア内でのみジャンプができる(しかも合計36回限り)という代物で、『Ultra Deluxe』へのリメイクに伴って導入されたコンテンツとして仰々しく登場しました。
「次回作」を皮肉るストーリー上においてはいわゆる「スカし」のギャグとして機能し、またその後に展開される怒涛の新要素群への布石として配置されています。
さて、この「ジャンプ可能状態」即ち「ジャンプサークル内に立っていて、なおかつ残りジャンプ回数が残っている状態」が重要になります。
(ちなみに残りジャンプ回数は無慈悲にもデータを通してリセットされないため、ゼロになってしまった場合はデータを削除したりアカウントを変えるなどしてゲームを始めからやり直す必要がある。)
「ジャンプ可能状態」のまま一時停止画面に移行、「このゲームをもう一度始める」を選択して、物語が始まるいつものオフィスへと帰ります。
そうすると、なんと「ジャンプ可能状態」を持ち越し、該当キーでジャンプすることができるのです! しかも無制限に! 椅子やデスクや窓枠など、好き放題に乗り上げ、跳ね回ることができます。
しかしながら実はこのバグ技は制作者側も関知しているところのようで、ジャンプでしか辿り着けないとある場所へ赴くと、それも知ってるよとでも言うようにクールなジャンプギャグが用意されています。
今回の旅ではそちらの整備された隠し要素ルートではなく、制作者も(おそらく)意図していない世界の端、言わば面白みのないほうの野道へ進んで行きます。
そんなわけでやって来ました。ストーリーを「ジャンプサークル」以後も進めていくと程なく登場する「メモリーゾーン」と呼ばれる広いエリアです。
ここは新要素たる「ジャンプサークル」そしてそんな『Ultra Deluxe』に失望したナレーターが「2013年版」に思いを馳せ懐かしむべく用意した世界で、ノスタルジックな雰囲気に包まれています。
背の高い屋根の記念館を巡り「2013年版」へのしつこい称賛を鑑賞しながら通り過ぎるパートなわけですが、ここで「ジャンプバグ」を使用し、横道(あるいは本筋)へ入っていきます。
1つめの館を出た屋外のスペース、右側にあるベンチ横の柵へジャンプすると、弾かれることなく上を伝うことが可能に。さらに館の急勾配な屋根へと飛び乗ると、先ほどまで居た展示室の壁が透けて中を覗くことができます。
更にジャンプを繰り返し屋根を這うように登っていくと、無事頂上へ到着。見下ろすとかなり高い位置まで来たことがわかります。
根のない木々や漂う霧、岩場、手描きのタッチを感じる遠景の山々などが一望でき、とても綺麗です。
このエリアでは「メモリーゾーン」について高らかに歌い上げる謎の楽曲が流れ、それが終わると鳥の鳴き声が静かに響きます。
ナレーターのしゃべくりによって騒がしく進行するこの作品においてこの静寂は一際穏やかな印象を纏い、えも言われぬ癒しを感じさせます。
来たのとは反対側の屋根を下りていくと柵の外側の地面へと着き、浮かぶ草や木、岩を間近で見ることができます。
柵を再びジャンプで越えれば元のルートへ復帰することもできますが、地面のテクスチャを離れるとそのまま空色の空間へと落下し、ほどなくリセットされ「メモリーゾーン」エリアの最初へと戻されます。
『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』の「世界の端」観光は以上です。
また次回お会いしましょう。ありがとうございました。バイバイ。
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