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ニット帽子

千紗は街に行くバスにのりこんだ。
家からバス停までもまぁまぁ歩くのだが、バス停から最寄り駅まででもまぁまぁな距離がある。
仕方ない、今の自宅を選んだのは中のクオリティのため。ユニットバスがどうしても許せなかった。

寒空の中、自転車に乗った親子をやり過ごす。子どもは見えないくらいもこもこだ。
サラリーマンが寒そうに襟を立ててたところをまたやり過ごす。

まどから車内に視線を移すと、前の座席にポッカリと覗くふわふわのピンクのニット帽をみつけた。
手編みだろうか、雑な雰囲気はあるが温かみのある落ち着いた色味のピンク。
小学生だろうか。

変わらず高校生達がスマホ画面に注視している。バスで、スマホは酔わないのだろうか。
私は三半規管が弱いのか車内は苦手だ。
自分が運転する場合は無限大にどこまでも行けるのに……

今日は平日にもらったやすみだけど、お小遣い稼ぎにちょっと出かけてきた。
バイトみたいなお手伝い。

なんとなくいい感じになっていた彼はしばらく連絡を滞っている間に、違う女の子といい感じになっているのがSNSでみて取れた。付き合ってた訳じゃないので咎めるものでもなく、特に嫉妬もない。
まぁ、私自身がそんなもんなレベルなんだろうけど。期待も何もない。

駅に着いた。
時間の余裕を持って出てきたので慌てる訳もなく降車の用意をした。
ピンクのふわふわのニット帽が動き出した。
手押し車が見えた。

あっ。

ふわふわニット帽の彼女は小さな少し腰の曲がったおばあちゃんだった。
わたしはそのどこか不安定な足取りに、手を差し伸べずには居られなかった。
おばあちゃんは満面の笑みをうかべてありがとうと行った。
おばあちゃんに付いてバスを出た。
おばあちゃんはバスを出たところで深々と一礼をして近くにあるショッピングモールへと足を進めていった。

なんだか暖かくなる不意打ちに少し嬉しくなり、駅へと足をむけた。

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