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平家物語

2010年の投稿より

原文

新中納言は、究竟の名馬には乗り給へり。 海のおもて廿余町およがせて、大臣殿の御船につき給ひぬ。

御船には人おほくこみ乗って、馬立つべきようもなかりければ、 汀へおっかへす。 

阿波民部重能、『御馬かたきものに候ひなんず。射ころし候はん。』とて、片手矢はげて射でけるを、

新中納言『何の物にもならばなれ。我が命をたすけたらんものを。あうべうもなし。』と宣えば、 力及ばで射ざりけり。

此の馬、主のわかれをしたいつつ、しばしは舟をもはなれやらず、沖の方へおよぎけるが、次第にとほくなりければ、むなしき汀におよぎかへる。足たつほどにもなりしかば、猶舟の方をかへりみて、二三度までこそいななきけれ。


馬が主人を慕って舟を離れなかったが、舟は次第に遠ざかる。やがて馬は諦めて汀に泳ぎかえる。『足たつほどにもなりしかば、なお舟の方をかへりみて、二三度までこそいななきけれ。』 主人への最後の挨拶なのでしょうか、いえいえ、魂の叫びのように思います。何度も命を懸けて戦う主人と怯むことなく戦いに挑む勇ましい馬。

そんな主人とその愛馬の細やかな最後の交感をとらえた感動の場面。私は何度読んでも涙が止まりません。滅びの美と言うのですか、愛馬の命を惜しんで逃がしてやる知盛とそれを知って、何度も主人に向かって嘶く馬、、、。武士にとって、馬は最も大切な武具の一つであるのに、敵方のものになるなら、それもよかろう、と潔い知盛も素晴らしい。

これが口伝えに語られた物語とは思えない、なんとも言えない美しさです。平家物語はたくさんの作家が現代語訳にしています。その中でも私は吉川英治氏の平家物語が一番好きです。

そして、平家納経です。この一族は本当に才能に秀でた方々を多く輩出したことも素晴らしい。一度、本物を拝覧したいものです。

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